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僕は花火が嫌いだ。

作者: 四季

 僕は花火が嫌いだ。

 だってそれが、君との最後の思い出だから。


 あれは十五の夏。僕らは中学三年生だった。

 君は難易度の高い高校を受けるから、受験勉強を始めたらもう遊びに行けなくなる。それを理由に僕は君を地元の花火大会に誘った。


 あの日、待ち合わせの場所に来た君を見て、僕は昇天しそうになった。

 赤い生地に可愛らしい白やピンクの花模様が描かれた浴衣が、とても似合っていたから。いつもはうなじの下辺りで適当に二つに結んでいる髪も、あの日だけはきちんとセットされていて、君がすごく大人に見えた。アップヘアにするとうなじが綺麗に見えて、君が女性に近づいていっていることに初めて気がついた。

 それから僕らは近くに出ている屋台で林檎飴を買って、お互いに食べさせあった。僕の林檎飴を舐める時、君の頬はまるで林檎飴のように赤くなっていた。

 君を抱き締めたい衝動に駆られつつ、僕は道を歩いていた。


 それから二人で花火を見た。夜空に咲くたくさんの花は、すごく心揺さぶられる綺麗なものだったけど、それを嬉しそうに眺めている君はもっと美しかった。長い睫毛、硝子みたいな瞳。君のことはずっと好きだったけど、君がこんなに美しいことは知らなかった。

 きっと、僕の人生で、一番幸せな時間だったと思う。


「すごい綺麗だったね!また来年も見ようね!」


 ——それが彼女と交わした最後の言葉になった。


 僕は花火が嫌いだ。

 でも、今年も花火大会に来ている。今年だけじゃない、あの年から毎年来ている。

 僕はもう二十になった。今はもう、隣に君はいない。それでも夜空に花が咲いている間だけは君といられる気がして、だから一人ぼっちでも花火を見る。……そして泣くんだ。


 僕は花火が嫌いだ。

 でも君が好きだから、夜空に咲くあの花を、ずっと見ていたいと思う。

読んでいただきありがとうございました。短編を投稿するのは初めてです。

もしよければ、感想などいただければ、嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
 嫌いな花火の向こうには、大切な人の面影と思い出。  子どもでも大人でもなく、そのどちらにもなり得る年代。  子どものように簡単に約束を口にして。  大人のように本音を隠す。  そんな時代の約束だから…
[良い点] 切ないけれど美しいと強く感じ素敵な作品でした。 [気になる点] 彼女とは振られる形で別れたのか、亡くなった形で別れたのかのか考えさせられるますね。
[一言]  共有した景色だからですね。  だからこそ、足が遠のいてしまうこともあるのでしょうが。  それでも足を運んで、その景色を広げた空の下に、自分を置きたくなる主人公の気持ちが、痛いですね。
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