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シスコン転生  作者: 雨天
少年期
6/6

事件勃発

 更新再開します。週一で更新していくつもりです。

 身体を解し終えたサタンさんは軽いバックステップで俺と十メートル程距離を取り、手を口の横に持っていき声を出す。


「今から俺が色んな魔法を放っていくから、それを全部避けろよ!」

「はっ!?嘘だろっ」


 今迄はずっと接近戦の修行をしていたので、今回もそうだと思い込んでしまっていた。

 合図と同時に踏み込む予定だった俺は、その言葉に気を取られて僅かに体勢が崩れてしまう。

 やってしまった、とズレてしまった視線をもう一度上にやり、サタンさんを警戒するが遅かった。


 顔を上げた時には直ぐ前方に黒く染まった炎が迫っており、その熱気で前髪が数ミリ持っていかれる。

 絶体絶命のピンチだが、伊達に四人の師匠に見てもらっている訳ではない。凄まじい速さで迫りくる黒炎をコンマ数秒の差で上体を右に翻す事で避ける。それにより完全に体勢は崩れ、床に受け身をとる。

 サタンさんがこんなチャンスを逃す筈は無いと、そのままの勢いで地を蹴り右前方に飛び込む。すると、足が床から離れた直後に元居た位置が爆ぜる。いつの間に時限式爆発魔法を設置したのか、皆目見当もつかない。

 迫る床を遮るように腕を出し、飛び込んだ勢いを反動に地転に持っていく。また着地と同時に攻撃が来ると予想しすぐさま回避に移行しようとするが、先程と変わらない位置にいるサタンさんは腕を組み攻撃をしてくる素振りは無かった。

 

 不思議に思ってこちらも止まってしまう。しかし、サタンさんが突如ニヤリと顔を歪めると俺の足元が発光し始める。これは先程と同じ時限式爆発魔法の予備動作のようなものだ。

 またか、と後方にバックステップすることでそれを回避する。

 床が爆ぜ、粉塵により少しだけ視界が奪われる。何故何もない筈なのに粉塵が――そう考えた時には遅く、少したなびいていた煙を掻き分ける様にして黒煙が此方に迫ってくる。

 虚を突かれ少し動揺してしまったが、瞬時に平静を取り戻しそれを腕で払いのけることでやり過ごす。


 穴が開いた煙の先には苦笑いを浮かべたサタンさん。一つ溜息を吐くと


「お前、本当に八歳かよ。さっきのツァイトミーネの連チャンとか、普通予測できないだろっ!」

「今迄の事忘れたとは言わせませんよ、こんな環境で普通に育つ訳ないでしょ」


 どうなってんだよ、と不貞腐れたように言ってくるが、どうせ避けれなかったらボロクソに言われてリンチされていただろうに。因みにツァイトミーネはさっきの地雷の詠唱名の事だ。

 不満を隠すことなく表に出す。それを見て何を思ったのか、いきなり紫電を頭部目掛けて放ってくる。

 しかし常に部分強化を目にしていた為、サタンさんの魔力流動から察知し、それを顔を反らす事で難なく避ける。


「危ないじゃないですか。もし当たってたらどうする気だったんですか」

「いやいや、何の感情表現も無くそんなこと言われても。それに万が一当たったところで、また俺が癒してやるよ」


 投げキッスにウィンクを添えて送ってくるが、男がやっても気色が悪いだけだ。もろにそれを受けた俺は、身体を硬直させ後ろに倒れ込む。サタンさんは太ももに掌を打ち付けながら笑い出し、和やかな空気が流れる。


 それから更に一日程同じような修行を繰り返し、一時間の休憩を挟むことにした。


「はいよ」

「あ、ありがとうございます」


 床に座り込む俺に、水の入ったコップを手渡してくれるサタンさん。魔法というものは無から有を生み出せるのが本当に素晴らしいと思う。このコップも水も、サタンさんが魔力によって出してくれたものだ。水には疲労と魔力を回復させる効果を付与しており、俺の喉と魔力器官が同時に潤されていく。


「それにしても、あと一人来ると言っていたのに一向にその気配が無いですね」


 お互い夢中になっていたせいで忘れかけていたが、ここにはもう一人修行生が来る予定なのだ。

 顔を見合わせた俺たちの頭には疑問符が浮かび、どうなってるんだとサタンさんが呟く。


「おっかしいなぁ~。もう外でも結構な時間が過ぎてると思うんだけどな」

「もしかして何かに巻き込まれたとか?」

「こ、怖いこと言うなよ・・・・俺のせいにされそうだろ」


 怯えた表情をしているが、最後にその人と接触したのはサタンさんだった場合は必然的にそうなるだろう。

 当たり前ですね、と追い打ちをかけるとグハッと言って倒れだすサタンさん。


 この人全然ビビってないじゃん。おちょくり損だ。

 直ぐに起き上がると、思案顔を浮かべながら顎に手をやりだす。


「冗談はこのへんにして、そろそろ本当にやばいかもな。考え過ぎであって欲しいが」


 そう言うと黙りこくってしまい、更に難しい表情を浮かべる。

 恐らく誰かと“念話”しているのだろう。念話とは、お互いが同意の上で魔力同士をリンクさせ、何時如何なる時でも魔力を通して会話が出来る魔法の事だ。携帯等が無いこの世界では、特に重宝されている魔法の一つで、これが使えないと雇ってもらえない働き先もある程だという。


「はっ!?どういうことだよっ!!」


 先程まで難しい顔をしていたサタンさんの表情が驚きに染まり、念話に留まらず表に声を出し始める。


 更にそれに驚いた俺の肩は跳ね、持っていたコップを落としてしまった。音を立てて割れたコップは魔力粒子に戻りサタンさんへ流れていく。


「す、すまんすまん。やはりちょっとしたトラブルが起きたそうだ」


 やっぱりか。何となくそんな気はしていたので、そこまで驚くことも無く少し濡れてしまった床を、魔法で蒸発させ綺麗にする。

 それから隣に立っているサタンさんを一瞥し、重い腰を持ち上げる。


「それで、誰がどうなったんですか」

「それがなぁ・・・・」


 俺の顔を見て眉を八の字にし、途端に言い渋りだす。何か俺に関連する人なのか? だが、それならば説明するときに名前を教えてくれる筈だ。俺の知らない人ではなかったのか。

 いくら悩めど答えは出ない。俺に名前を教えないことで母親やサタンさんが得をする事――


 ハッとする。思い当たる人が一人だけいるのだ。俺がこの世界に来てから唯一、心置きなく会話することが出来る人物。

この二人ならば、俺の驚く顔が見たかったと仕様もない事をする可能性がある。


 額から冷や汗が流れる。俺が勘付いた事を悟ったのか、サタンさんが引き攣った笑みを浮かべる。

 数秒の沈黙の後、口を開く。


「う、嘘だろ・・・・・・?」

「いや、な?」

「な? じゃなくて!! サツキがどうしたって?」


 サツキとは、俺が三つになった年に母親が連れてきた捨て子だ。正確な歳は不明だが、一応三個下の五歳ということになっている。実の妹である千沙と離れ離れになってしまった俺にとっては、此方で出来た新しい妹のようなもので大切な存在だ。

 未だに何も言わないサタンさんに怒りが爆発し、掴めない胸倉の代わりに鳩尾付近の服を掴み上げる。落ち着けと言われるが、充分落ち着いている。寧ろ、落ち着きすぎて怖いぐらいだ。


「分かった! ちゃんと説明してやるからとりあえず手を放せ!」


 その言葉に直ぐに手を放さず、無表情で見上げる。

 困った表情で此方を見てくるが、俺の表情筋はピクリとも動くことは無い。


「まぁ、何というか。簡潔に言うと奴隷商に攫われたとさ」

「詳細に」


 それだけで理解しろというのは無理がある。そこまでの経緯等を話してくれないと此れからどうするかなどの計画が立てられない。

 無言で更に威圧をかけ、早くしろと訴えかける。


 サタンさんは無駄に冷や汗をダラダラと流し、目を泳がせながら口を開いた。


「い、いやぁな? 俺が悪いわけじゃないんだぜ? たまたまこっちに繋がっていたはずのワープホールがな?」

「ごちゃごちゃ煩いな! 簡潔に説明しろ!」

「はいいい!! 私目が開いていたワープホールが、瞑想をしていたことにより別の場所と繋がってしまっていたらしいですはいっ!」


 成程、すべての元凶はこいつか。殺すか?


 俺の殺意が表に漏れていたのであろう。サタンさんは顔色を色んな色に変化させながら脂汗をどっぷりと流し始めた。

 余りの汚さにそのまま一本背負いを決め、馬乗りになる。


「行くぞ」

「は、はぃぃ」


 泣きべそのサタンさんを連れ、そのまま転移魔方陣を展開し母親たちの元へ向かう。

 

「ようやく来おったか。待ちわびたぞ」


 母親の自室にはピリついた空気が漂い、先に到着していた三人が難しい表情で直立していた。

 仕事台で肘をつく母親は、人を射殺さんばかりの目つきでサタンさんを睨みつけ、口を開いく。


「全ての元凶がお前であるのは分かっているのだろうな?」

「は、はいっ」


 いつもとは違いお茶らけた様子はなく、殺気を撒き散らす母親にサタンさんは声を上ずらせて返事をする。

 しかし、あまりにも短くビビりまくった気の抜ける態度に対し腹を立てたのか、更に眉間に皺が寄る。

 周囲の気温はどんどん下がっていき、母親から冷気が漏れ出す。

 サタンさんはビビっているのか寒いのか、将又両方なのかは分かりかねるが、身体をガタガタと振るわせている。


「それでもお前は死極星の一人なのか? 我程度にビビりおって」


 見下すように腕を組み踏ん反り返る母親。

 ただの人や魔族なら、今程度の殺気でもひとたまりもないだろう。しかし、先程も言われていたように死極星という魔王側近の精鋭部隊なのだ。この程度で震えていては下のモノに示しがつかない。

 現にサタンさん以外の三名は微動だにせず、蔑むようにサタンさんを見つめている。


 この時点で分かっただろうが、サタンさんは序列最下位。常日頃はツッコミ役として精を出しているものの、実際は一番役に立たないのだ。


 しかし、それでも人間族の大国一つは軽く潰せる程度の力はある。


 ここまで読んで頂きありがとうございます。

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