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黒猫転生〜死神と少女の物語〜  作者: 霧ヶ峰
第1章:始まりの旅
7/18

第6話:呆れたお話

クッソ!いい題名が浮かばない!

 自らの感情を表に出さないよう押し殺したかのように微かに部屋の中に響くその声を、ナギはドアに背中を預けながら聞いていた。


『辛いだろうな・・・・・だが、俺はどうにもできんしな。落ち着くのを待つほかないか・・・』

 音を立てないように大きく溜息を吐くと、リビングに行きワンピースの仕上げに取り掛かった。









 ナギがワンピースの仕上げに取り掛かってからどれくらいの時間が経ったのだろうか・・・。とっくのとうにワンピースは完成してしまっており、今はフードコートを作っている。その横にある机の上には、靴下のようなものから手袋まで、ズボンも下着も、必要そうな全ての衣類が並べられている。もちろん、全てナギの手作りだ。



 ナギが手に持ったフードコートを、あーでもないこーでもないとぶつくさ言いながら作業を進めていると、



 ギィイイイ・・・・・



 と、ドアが音を立てながら開かれ、中から木皿と木のコップを持った少女が顔を見せた。


「あ、あの〜・・・」

 椅子に腰掛け、何か作業をしているナギを見つけね て、そう少女は小さく声を出すが


「・・・・・(ブツブツブツ)」

 黙々と作業をしているナギはそれに気付かずに、手元へと意識を集中させている。



「えーっと・・・・・ェッ!?」

 少女はその後ろ姿に、どうしようかと考えを巡らせたが、もう一度ナギを見た時、驚きの声を上げた。


「ん・・・・・おぉ!起きたのか、ってどうした?俺の顔に何か付いてるか?」

 その声を聞いて、顔を上げて後ろへ振り向いたナギは、少女が自分の顔を見て口をパクパクしているのを見てそう言う。



 が、少女はその言葉に対して首を振るだけだった。大きく目を見開きながらも、その視線はナギの頭部に向けられている。


 その様子に、ナギが首を傾げていると、少女はクルリと後ろを向き、何度も深呼吸をしてからナギの方へと向き直り、


「た、助けていただき、あ、ありがとうございます!」

 と、頭を深く下げて大きな声でそう言い、

「そ、それで。貴方様は、勇者さまなのですか?」

 と言葉を続けた。


「いや、普通(?)の人間(?)だが?勇者なんてのがいるのか?というか、なぜ俺をそんなものだとおもったんだ?」

 その言葉に再び首を傾げてそう言うナギに、少女は「そ、そんなもの・・・?」と驚きていたが、すぐに気を取り直し


「昔からの言い伝えで『黒い髪を持つものは神の意志を継いでいる』とか『黒き髪を持つ者、世界の理を越えし者。それ即ち、神の意志によって迎えられた神子なり』というのが、私の住んでたの村で伝わってて、子供の時から絵本とかで勇者様の伝説とかをよく聞かされていたんです。だから、てっきり勇者様かと」

 と、俯きモゾモゾと恥ずかしがりながらそう言った。



「へぇ〜・・・残念だが、俺は勇者じゃないな。っと、そうだったそうだった。キミに・・・あ、すまない、名前を聞いていなかったな。私はナギと言う。キミの名前はなんて言うんだ?」

 ナギは興味深そうにその話を聞いていたが、ふと視線を巡らせた時に机の上に置いてある衣類が目に入ってきたことで、話の転換を図るが、少女の名前を聞いていなかったことに気がついた。



「あ!そうですね。わ、私は、シアン・フローレスです!えーっと、ふ、不束者ですが、よろしくお願いします?」

「シアンか・・・いい名前だな」

 シアンはその名前の表す通り、綺麗な青緑色をした瞳を持っていた。黒髪灼眼のナギとは正反対の容姿をしている。


「・・・っ!!!あ、ありがとうございます!」

 ナギがシアンの名前を呼ぶと、シアンはハッと息を呑み、目に涙を浮かべながら感極まったように、手で口を押さえて小さな声でそう言うのだった。





 その後、シアンが落ち着くのを待った後に、詳しく話を聞いてみると、どうやら昔住んでいた村では、両親以外自分の名前を呼んでくれなかったようだ。


「私の村では、黒い髪は幸せを呼び、白い髪は不幸を呼ぶとされていて、両親以外は私のことを邪魔者として扱ったり、いない者として扱っていたんです。そんな時、私に用があった人たちは、私のことを名前じゃなくて「お前」とか「白髪」とか、酷い時には空っぽの意味の「ホロウ」って呼んだりしてたんです。・・・だからパパとママ以外の人が名前で呼んでくれたのが、嬉しくて。ごめんなさい、こんなことで泣いちゃって」

「そうかそうか・・・なぁシアン、ここでは好きなだけ泣いてもいい。なんたって、ここには俺もお前しかいないんだからな。お前を苦しめるものは何もない。自分を偽らないでも、誰もお前を責めたりしないんだ。・・・・・なぁシアン。俺はな、この世界で生まれてからずっと一人で生きていたんだ」

 シアンはナギの言葉を俯き、目に涙を浮かべながら聞いていたが、急にナギが声色を変えて自分のことを話し出したことに驚いて顔を上げ、さらにその内容に再び驚いて、その涙を孕んだ瞳を大きく見開いた。


「フフッ、驚いたか?なぁシアン。俺はさっき、お前に対して、普通の人間だと言ったな?・・・あれは嘘だ」

 ナギはシアンのそんな顔を見て、椅子から立ち上がって笑いながらそう言うと、[黒猫化]を発動させてその姿を変える。


「ひぇっ!?」

 人が黒い靄を吹き出しながら縮んでいくというSAN値が削られそうな光景を目にして、シアンは驚きが連鎖しすぎたようで、ふぇぇ・・・と後退りながら声を漏らしている。



 シアンが壁まで後退る暇も無いほどの時間でナギは、真っ黒な猫の姿となってそこに座っていた。


「ふぇぇ?」

『なんだその残念そうな顔は・・・』

 黒猫となったナギの姿を見たシアンは、青ざめた表情から一転して、その表情をどこか間の抜けたものへと変える。


 その様子にナギは不満げな声(念話だが)を出して顔をクシャっとしかめる。


「い、いえ・・・なんかそれっぽい感じだったので。なんかこう・・・ウニョウニョしたり、ドロドロしたりした変なのになるのかなって思ってたんですけど・・・・・案外、いや思ったより。ううん、とっても普通で可愛いかったんで・・・えっと、あの以外でした。はい」

 ナギの限りなく残念そうな表情からか、自分の頭の中に響いた呆れたような声のせいか、シアンは恥ずかしがるように早口でそう呟くが、対するナギからは唯々静かな沈黙が返ってくるだけだった。









 その後、二人を気まずい静けさが包んでいたが


『はぁ・・・まぁいい。話を戻そうか』

 ため息交じりに放たれたナギの言葉を口火に、二人の会話は一晩中続いたのだった。


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