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黒猫転生〜死神と少女の物語〜  作者: 霧ヶ峰
第1章:始まりの旅
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第5話:一人ということ


ベネットの墓から立ち去り家に帰って、猫用の扉を潜ろうとする瞬間、ナギはその動きを止める。



『何か人で過ごすよりも、猫の方が楽になってきてる気がするな・・・』

そんなことを一瞬考え、まぁ、いいかと頭を振って考えを霧散させると、改めて猫用の扉を潜る。




そして、顔から思いっきり、灰の小山に突っ込んだのだった。











『ペッ!ペッペッ!・・・クソゥ、忘れてた。三人分の灰があるんだった。あーあと、あの子もか・・・』

口の中に入った灰を吐き出しながら悪態をつくも、浴室の方へ目を向けたナギは、『女の子用の服なんて持って無いしなぁ』と小さく溜息を吐くと、風を起こす魔法を発動させ、開け放ったドアから灰を外へと掃き出したのだった。



その後、湯船から少女を回収し、取り敢えず自分用の服を簡単に手直しして着替えさせ、ベッドへと横たえる。ちなみにこのベッドは、森で取れた羽毛を使っているため、フッカフカである。“フッカフカである”


余談だが、湯船の中に張った水に、調合で作ったポーションを入れていた為、少女の傷はあらかた塞がっていた。

・・・いつ確認したのかは、聞かないでいただきたい。










少女をベッドに寝かせた後、ナギは[人化]を使って人型になり、料理を作り始める。


「・・・胃とか大丈夫かな?一応、薬膳料理にしとくか。お、この木の実とか良さそうだな」

トントングツグツと和やかな音が軽快に響き、小屋の中には食欲をそそる香りが充満する。


小一時間ほどかけて納得のいく料理が出来ると、ナギは、それを少し深めの木皿に盛り、コップに水を注ぐと少女が寝ている部屋へと向かう。




トントン・・・


「・・・・・」

念のためドアをノックし、中の反応を待つが、少し経っても何の反応も示さなかったため、ナギはゆっくりとドアを開けて部屋の中に入る。


『まだ寝てるか・・・まぁ疲労してたみたいだしな』

未だベッドの中で小さく寝息を立ている少女に目を向け、少しだけ表情を崩すと、ベッドの横に置いてある机に木皿を置くと、自分は椅子を引っ張りだしてそこに座り、タンスから取り出した道具を使って何かを作り始める。












ナギが何かを作り始めてからしばらく経ち、料理も既に冷え切っているであろう頃、


「ん・・・・んぅ?」

モゾモゾとベッドの中で少女が動き、微かに声を上げた。


「ん?もうちょっとで出来るんだが・・・もうそろそろ起きるか?」

その気配を感じて、作業を止めてそう呟く。その手元には、襟元と裾を仕上げれば完成と言えるであろう小さめのワンピースがあった。



「・・・・・こ・・・ここ、は?」

少し喉を痛めているのか、少女は掠れた声でそう呟く。半目になっているため、まだ意識ははっきりとしていないのだろう。


「・・・・・」

ナギは何も言わずに、ワンピースと道具を片付けると生活魔法の[ヒート]を使って、少女用に作って置いた雑炊を温め直す。すると、再び香りが部屋の中に漂い始めた。


「いい匂い・・・・・ぁ!」

その香りに反応して、少女の方からグゥゥ〜と可愛らしい音が聞こえてきた。


「ふふっ・・・腹が減ってるなら食べるといい。水もあるからゆっくり食べな」

「誰?」

「後でゆっくり話してやるから、今は食べな。傷もほとんど治っているから起き上がって食べるといいぞ」

「わかった・・・」

「じゃあ食べ終わった頃に来るからな。ゆっくり食べるんだぞ」


そう言うと、ナギは少女を一人にして部屋を出た。ドアを閉めるときにモゾモゾと起き上がろうとしていたのを目の端で見て取れたので、大丈夫だろう。



『人に見られたくないものも、あるだろうしな・・・』



















===========少女視点===========


私が気を失ってからどれくらいの時間が経ったのだろう。

森の中で見つけた小屋の前で、助けを求めたのが最後の記憶だった。




ポチャン・・・ポチャン・・・

「ん、んん・・・」

水の滴る音と身体を包む暖かい感覚で、僅かに意識が浮上する。


背中に何か硬いものが当たっているのが感じられるが、今は身体を動かす気力すら残っていない。


僅かな力を使ってうっすらと目を開けると、真っ黒な服を着ている誰かが手に持っているビンから黄緑色の液体を私の入っている浴槽のようなところに流しているのが、少しぼやけているが見えた。


それと同時に、身体の芯から暖かくなってきて、少女の意識は再び闇の中へと深く沈み込んだ。



















次に意識が浮上した時は、先ほどとは異なった場所のようだった。


「ん・・・・んぅ?」

先ほどとは異なった感覚に、少しだけだが声が漏れた。

柔らかい台の上に寝かされているらしく、上にも何か掛けられたているようだ。とってもフカフカしていて、このままずっとこうしていたいと思ってしまう。


「ん?もう・・・・で・・・んだが・・・も・・・・ろ起・・か?」

未だ意識がはっきりしていないところに、何処からか声が聞こえてきた。なぜだかわからないが、とても暖かく、とても寂しい感じのする声だった。


「・・・・・こ・・・ここ、は?」

声を出そうとするが、喉が枯れているようで上手く出す事は出来なかった。途切れ途切れになってはいるが、自分の意図は伝えられたはずだ。


だが、先ほどの声は聞こえて来ず、代わりに魔力の波動と鼻をくすぐるいい香りが漂ってきた。


「いい匂い・・・・・ぁ!」

その香りを嗅いで、私の身体はすぐに反応した。突然、お腹が急激に空いてきて、グゥゥ〜という音が出てしまったのだ。

止めようと思ってお腹に力を入れるが、その音は止まらずに、静かだった部屋の中に大きく響いてしまった。


「ふふっ・・・腹が減ってるなら食べるといい。水もあるからゆっくり食べな」

すると、先ほどの声の人が、私のお腹の音に笑いながら話しかけてきた。


「誰?」

私は少し赤くなりながらも、声の主にそう聞き返した。今は大分意識がはっきりとしてきたし、唾を飲み込んで喉も少し治ったから、さっきよりはまともに言葉を話せた。


「後で話してやるから、今は食べな。傷もほとんど治っているから起き上がって食べるといいぞ」

だが、声の主からはそう言われ、目の端でだが、椅子のようなものから立ち上がって歩いていくのが見て取れた。


「わかった・・・」

私はその背中にそう言葉を投げると、身体の調子を確かめながら、ゆっくりと起き上がることにした。


私が半分くらい身を起こしたところで、

「じゃあ食べ終わった頃に来るからな。ゆっくり食べるんだぞ」

という声とドアの閉まる音が聞こえてきて、再び部屋は静かになった。





『フフッ・・・なんだか、パパみたい』

机に置かれている水と木皿の中の雑炊、それにさっきの言葉を思い出して、私は力無く微笑みながらそう思った。


「・・・・・ゥゥッ・・・ゥゥウ・・・・・パパァ・・・ママァ・・・会いたいよぉ・・・・・」

音を出さないように、出来るだけ声を小さく押し殺し、震える身体を抱いて、溢れる涙を止めることもできずに・・・






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