第1話:死神の置き手紙
身体を包む心地よい暖かさがなくなり、先程までとは比べ物にならないくらいの自然の匂いが鼻をつく中で俺は目を開けた。
目を開けると一面の土。
鼻だけ出なく髭もひくつくような気がする。
『ん?…髭?』
違和感を覚えて目線を下に向けるとそこにはピョコピョコと揺れる細長くしなやかな髭があった。
『にゃんと…』
ぐっぱぐっぱと肉球のついた掌を握っては開き、開いては握る。
手のひらに力を入れるとニュッと鋭い爪が飛び出し、人の頃にはなかった尻尾は意識せずとも自由に動かすことができる。
立ち上がって歩いてみるといとも簡単に四足歩行ができた。
『すごいな…本能的にどうすればいいのかわかるなんて…』
どうすればスムーズに動けるのか。まるで昔からこの身体だったかのような馴染み具合なのだ。
それに転生というものなのだろうか、俺の記憶は全てこの猫の体に受け継がれているみたいだ。
『そういえば仏教に[輪廻転生]だったけっな?魂関係の話しがあった気がするけど、本当にあるんだな。
…いや、死神って仏教じゃくね?どうだったっけな?』
記憶に欠損がないかと色々なことを思い出していると、ふと自分の足元に落ちている手紙のようなものに気が付いた。
『えーっとなになに?この世界と死神について色々と記しておきます…?なんだこれ?』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
拝啓、元黒木 凪沙様。
この手紙を読んでいるという事は、無事に転生をすることが出来たということですね。
この手紙を通して貴方の現状とこの世界について少しだけ説明しようと思います。
まず、気が付いているなら良いのですが、心の中で[ステータス]と唱えると今の貴方の現状が少しだけ分かるかと思います。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『なに?[ステータス]?』
心の中ではそう呟くとともに、目の前に半透明な板のようなものが出現してきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[名称]
・不明
[種属]
・シュバルツカッツェ【死神:1(取り込んだ魂 0/10)】
[レベル]
・1
[称号]
・生まれ変わりし者【・死の代行者】
[技能]
【・死者の灰・死神の瞳・人化・黒猫化・魂刈り】・闇魔法
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『………なんだこれ?なんか色々とヤバそうなのがあるな…って手紙まだあるんだった』
あの世界(地球)では見慣れた表示がいくつかあると共に、なにやら凄いものが見えてしまった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
まずは、そこに記されていると思われるものから説明していきますね。
先に1つ言ってくと[ステータス]の中に度々ある【】の中は、[鑑定]と言う技能を使われても決して相手が見る事のできないところです。
死神にしか見ることも知ることもできないものです。
まずは[名称]。これは言わずもがな、この世界での貴方の名前です。
あの世界での名前でも良かったのですが、心機一転と言う事でご自身で決めてください。
次に[種属]です。これは必ず【】の中が死神になっていると思います。そして死神という文字の横に(取り込んだ魂 0/?)とあると思います。
これは、後に説明しますが[技能]の魂刈りと関わっています。
ちなみに【】の左側に記されているのが今の貴方の種属です。
そして[レベル]。あの世界にいた貴方なら知っていると思いますが、この世界には[レベル]という概念が存在しています。この世界に存在する“生物”を殺す事などで自身の[レベル]が上昇していきます。
当然上がれば上がるほど、その者の力は強くなり、身体も頑丈になっていきます。
次に[称号]ですが、貴方はすでに2つほどの称号を得ていると思います。“生まれ変わりし者”はレベルが上昇しやすくなります。“死の代行者”は相手の急所が見えるようになります。このように、[称号]には様々な恩恵があるのです。その分、[称号]を得るのは難しいのですけれど寿命と言う概念のない死神ならば得る機会も多いでしょう。
そして最後に[技能]です。これは[種属]死神になった時に必ず得られる4つのものと、その人の個性に合った2つのものがあるはずです。
順に説明していきますと、
1つ目…死者の灰。これは、取り込んだ魂の数だけ自身の命を増やすことができるというもの。
言うなれば残機のようなものですね。
2つ目…死神の瞳。この技能はとても簡単に言うと、自分が知りたいと思ったモノを鑑定することが出来るものです。そこらに生え茂っている草の名前や効能から伝説級の武器や防具の詳細まで知ることが出来る技能です。ただし、気を付けて使わないと頭の中に入ってくる情報が多すぎて、下手をしたらその場で気絶することもあります。
先ほど出た[鑑定]という技能の上位互換にあたります。
3つ目…人化。これは名前の通りのものです。私が貴方の前で行ったように、人の姿になることが出来る技能です。
死神としての格が上がるほど人化した後の姿を変化できるようになります。
性別を変えることはできませんが、子供の姿などなったら大人の姿になったりとそれなりに自由に変化できます。
4つ目…魂刈り。これは先ほど記した(取り込んだ魂 0/?)というところに大きく関わり、自らの手で殺した者の魂を取り込むというものです。
死神の力は、取り込んだ魂の量と質によって左右されます。
例えば、ゴブリンという最下級の魔物の魂と、飛竜という上級の魔物の魂では圧倒的に魂の質が違います。
ゴブリンの魂を1とすると、飛竜は1万以上です。そして、(取り込んだ魂 0/?)では取り込んだ魂の質と量によって数が加算されていきます。そして、?の部分に書かれている値の魂を取り込むと死神として上のランクへと到達できるのです。
ここまでは死神となる時に必ず得られる技能ですが、次の2つは貴方の個性…言い換えるならば、センスによって得られるものが変わります。
例えば、鳥化・猫化・犬化など動物に変化できる技能。これらは、人さまざまなので私からはいう事はありませんし、大概はその技能名で分かると思います。
ごく稀に魚化や蜥蜴化などの面白い技能になる人もいますね。
次に、魔法技能と呼ばれる、火魔法・水魔法・風魔法・土魔法・闇魔法・光魔法の6つです。
これは名前の通りに魔法を使うことができるという事です。火魔法なら種火から始まり、極めると炎の竜巻を起こしたりできるようになります。これに至っては、独学で頑張るか神殿や冒険者ギルド、大図書館といった魔法書物のあるところに行って調べるなり、頑張ってください。
死神としてのランクが上がる事で新たな[技能]を得ることもあります。その時は、死神の瞳でその技能を調べてみてください。その技能がどういうものか判ると思います。
長々と書き記しましたが、この手紙は貴方が読み終わると灰となって消えますのでご注意ください………
追伸、何か分からないことがあれば[死神の瞳]で大概はなんとかなると思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『へぇ〜、便利なもんだな。って…あ』
ぼんやりとそんな感想を述べていると、中に書かれていたように目の前で手紙が塵と化して消えてしまった。
『メモとして持っときたかったんだけどなぁ〜。まぁいいか』
そう思いながら空を見上げる。
木々の間から覗く空は、どうしてかあの世界(地球)に比べてとても綺麗に見えた。
『名前は…どうしよっか。前世は凪沙だったし、ナギ…いや確かドイツ語で凪沙がヴィ…ヴァントシュトゥレ…だったかな?なんかちょっと違うような…
はっ!そうだヴィントシュティレだ!
よし!俺は今からヴィントシュティレだ!』
安直ではあるが自分を名前で呼ぶ存在がそうそう現れるとは思わない。
昔からこの名前はゲームで使ったりとしてたかそれなりに馴染みがあるのだ。
まぁ大体のゲームは名前が長すぎてヴィントで止めてたけどな。
[ステータス]
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
[名称]
・ナギ
[種属]
・シュバルツカッツェ【死神:1(取り込んだ魂 0/10)】
[レベル]
・1
[称号]
・生まれ変わりし者【・死の代行者】
[技能]
【・死者の灰・死神の瞳・人化・黒猫化・魂刈り】・闇魔法
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇