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第一話 汝、転生を望むか?

不意に俺は目を覚ました。

「ここはどこだ?」

立ち上がって周りを見ると、そこは見渡す限り白の空間が広がっていた。雪の銀世界のようなものではなく、光沢のない深い白だ。全て真っ白なのでどこが空間の限界なのかがつかめない。遠近感がおかしくなってくる。

「目を覚ましたか?」

突然俺は声をかけられた。子供の声だ。

「誰だ?」

俺は周囲を見渡すが、声をかけたであろう人どころか自分以外の物体を見ることはできなかった。

「どこにいる?出てこい!」

俺がそう怒鳴ると、

「ここだ。」

と言う声が上から聞こえて来た。俺が上を見ると、下にゆっくりと降りてくる人の姿を見つけた。ひらひらと降りてくる人の服が揺れる。その姿はなんと形容していいかわからないほど美しかった。

“それ”が、地面に静かに降りたときになって俺はようやく

「何者だ⁈」

と言うことができた。しかしその声も掠れ震えている。

「何者だとな?」

“それ”が尋ねる。

「ああ。貴様まさか人ではあるまい。」

俺はそう言うと軍刀を引き抜き切っ先を“それ”の方に向ける。

「そうだな。確かに“朕”は人ではないな。朕は神である。この扶桑国のな。」

”それ”は言う。

「なっ、、、朕だと?貴様、陛下を愚弄するのか!」

「愚弄もなにもない。朕も天皇であった身である。今はこの天界の八百万の神の一つであるが。」

「貴様ァ!」

俺はそう叫けぶと、“それ”に斬りかからんと駆け出した。しかし、いくら走れど“それ”の元に辿りつけない。どんなに走っても“それ”が近づくことも大きく見えてくることもないのだ。

「ははは。どれだけ走っても無駄だ。なぜならここは朕の世界であるからな。朕に仇為さんとする輩は朕には近づかぬわ。」

“それ”は子供の声で笑う。

「クソが!」

俺はそれでも走り続ける。すると

「そこまですると言うなら貴様の努力に免じて朕から出向いてやるとしよう。ほれこれなら外すまい。」と“それ”は言って俺の目の前に一瞬で姿を現した。俺は面を食らう。“それ”の顔は色白な美しい少年だった。しかし俺は震えながらも

「よし、覚悟を決めろ!」

と言って軍刀を大きく振りかぶる。

「ああ。早くしろ。」

“それ”は言う。

「天誅!」

俺はそう言いながら軍刀を振り下ろした。しかし—


「全くこんなものは意味を為さんな。」

“それ”は人差し指一本で軍刀を止めた。俺は力をさらに加えて指ごと押し切ろうとするが、まるで動かず、最後には


クィーン


と言う音を残して軍刀が根元から折れてしまった。

「な、なにっ」

俺は絶句する。すると“それ”が

「朕に刃を向けた罰をくれてやろう。」

と言って凄まじい勢いで俺の腹を殴り飛ばした。ぐはっと血を吐きながら俺は弾き飛ばされる。地面を数回転がってようやくうつ伏せになって止まった。骨がだいぶ折れている。内臓も破裂しただろう。呼吸ができない。普通ならもう死んでいる。普通なら—


しかし俺は死んでいなかった。ただ息苦しさと痛みがいつまでも続く。突如、俺の周りに霧が出てきて気づいたら霧によって引き立てられていた。両手両足を固定され、まさに磔といった感じである。そこに“それ”がやってくる。

「どうだ苦しいか?」

“それ”はさも興味なさげに尋ねる。俺は質問に答えない。

「死ねた方が楽か?」

“それ”はさらに尋ねてくる。俺はまた答えない。

「ただ残念だが貴様は死ねん。なぜならもう死んでいるからだ。」

“それ”は勝手に話を進めていく。

「まあ貴様も信じられんだろうがな。ただここは確かに天界だ。朕の世界だ。」

「ならばなぜ他の将兵の姿はない?」

俺はようやく口を開いた。

「ここが貴様の言う通りの場所なら、他の兵士がいてもおかしくなかろう。」

「言葉遣いに気をつけよ。朕が天皇であるか信じる信じないは貴様次第だが、少なくともこの空間の主は朕だ。」

「それならば私の兄たちはどこに行ったのかお教え頂けますか?」

俺はぶっきらぼうにそう言った。

「貴様の兄?ああ、乃木勝典中尉のことか。」

俺の兄の乃木勝典中尉は少し前南山の戦いで戦死している。

「はい。」

「残念ながらここにはおらん。ここには朕に選ばれたものしか来れんからな。」

「ではなぜ私は選ばれたのでしょうか?」

「最期の想いだ。」

「は?」

「貴様は死ぬ直前に強く自らの役目への反省をしただろ。」

「はい。」

「朕は遺した想いの強い(つわもの)のことを見つけ、朕のもとへ連れてくることができる。」

「では呼び出して何か私にして頂けるのですか?」

「もちろんだ。むしろ貴様に何かをしてやるために呼び出している。」

「その何かとは?」

俺がそう聞くと、“それ”は一呼吸置いて言った。

「汝、転生を望むか?」


「はい?」俺はだいぶ間を置いて聞き返す。

「聞いておるのだ。貴様は行き帰り再び兵のして戦いたいか?」

「それはもちろんそうですが、、、そんなことできるのですか?」

「できなければ言うわけがなかろう。貴様も知っている者をあげれば、源頼朝も石橋山で死んだが源氏の再興への強い想いがあったから別の世界に飛ばしたし、徳川家康も三方ヶ原で討ち取られたが天下統一への強い想いを汲んでこれも別の世界で生き返らせた。」

“それ”の言葉は信じられるものではないが、当の本人は真面目に言っているようだった。

「なぜ別の世界に?」

俺は尋ねる。

「素直に元の世界に戻してしまえば、その世での時の流れが狂ってしまうではないか。その世で死んだ者は再びそこに戻ることは叶わぬ。」

「それならば前にいたその二人はどこの世界へ飛ばされたので?」

「同じ時の別の世だ。」

「どう言う意味ですか?」

「同じ時に世界はいくつもある。ただ、その複数ある世界で全て同じ出来事は起きていない。例えば源頼朝のときは石橋山の戦いの敗戦後、山に逃れその後梶原景時が探すのと別の洞穴にその世界の頼朝が隠れたところに頼朝を入れた。」

「そうなると、移った先にいる頼朝はどこに行ったのですか?」

「同じ時間軸内であれば、同じ者の魂というのは一緒だ。そもそも転生させるのは魂だけだ。身体という受け皿がある以上、魂だけ動かせば事足りるからな。だから同じ魂である以上結合させるのは容易い。」

“それ”の説明は現実味がないし、よく理解もできない。しかし俺はとにかくやり直せるチャンスがあるというのならば、どんな小さな可能性でもやるつもりだ。

「どうだ、転生を望むか?」

“それ”が再び尋ねる。

「はい。」

俺は即座に答える。

「よろしい。ただな、一つ貴様には問題がある。」

“それ”は俺の目を見ながら言う。

「なんですか?」

「そのな、貴様はどの世界においてもこの旅順で死ぬのだ。」

「は?」

「だからどんなに頑張ったところでズレが出るのだ。」

「、、、それ言うの遅いだろ。」

俺は驚きすぎて少し言葉が出て来なかった。

「言葉遣い。」

“それ”がキッと睨んでくる。

「まあどうにかなるだろう。貴様の願いは軍人としてもう一度戦場に立つことだったな。ならばこの戦争ではなく他の戦争でもかまわんだろ?」

「俺は帝国の危機を救うために戦っていたんだ。それを勝手に変えられては困る!」

俺は言い返す。

「この戦争で日本は勝つ。」

“それ”が言った。

「本当の日本の危機はこれから35年後から少しずつ始まり、約40年後に破綻を迎える。」

「何を言っているんだ?」

俺は困惑するが、“それ”は全く気にせず話を続ける。

「日本は周辺国全てを敵に回す戦争をし、それに負けるというのがどの世界でも確定した未来なのだ。ただ、もしかすると、貴様というその時間には存在し得ない者を送り込んで未来に狂いが生じるのなら、あるいはその未来も変えることが叶うのかも知れない。ならば貴様は未来の別世界に行くべきだろう。そうだ、そうに違いない。」

〝それ”の中で勝手に物事が決まっていく。俺は慌てて止めに入った。

「おいおいおい、まてまてまて。そんな単純に未来が変わるはずがないだろ。」

「やってみなければわからん。よし転生させてやる!覚悟を決めろ!」

〝それ”がそう言うと、俺の身体が突然青い炎で包まれ始めた。

「熱っい!」

俺は叫ぶ。そんな俺にたいして〝それ”は極めて事務的な口調で言った。

「貴様がこれから転生する世界では、今まで貴様が生きていた世界で得た情報、常識が一切通じないだろう。まあもし困ったら貴様の持っているその刀に朕の名を念じるとよい。さすれば救いがあるであろう。」

俺は薄れゆく意識の中で〝それ”に尋ねた。

「お前は一体誰なんだ?」

「朕は狭野尊(さののみこと。貴様らの世で神武天皇と呼ばれている。」

「神武天皇だと、、、?」

「さあ行け兵よ。皇国の窮地を救うのだ。」

俺はその言葉を聞いた直後、完全に意識を失った。





 突然聞こえた轟音に俺は目を覚ました。キャリキャリキャリという何か回転している音とゴーというすさまじい排気音が聞こえる。そしてそれは確実に俺の方へ向ってきていた。俺は急いで立ち上がり音のする方向を見た。するとそこには―

「う、うわあああああああああああああああ」

俺は叫び声をあげた。向こうから猛然とした勢いで〝鉄の塊”が向かってきていたのだった。

こんにちはthe August Sound ―葉月の音―です。今回から本編に入っていきます。超ゆっくり更新ですがよろしくお願いします。

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