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ヒキニート

2作目になりますが、2日に1回は更新します。




俺の名前は田中秀才。


両親は期待を込めてくれたのか、秀才なんて名前をつけてくれた。

それが今では、日本に住んでる39歳独身の自宅警備員だ。



ん?自宅警備員ってニートじゃないかだって?


世間一般では、ニートなんて呼ばれているが、俺はこの職に誇りを抱いているぞ。


馬鹿にする奴は、許さん!

ネットで叩いてやる!!


現実では何も出来んが……。



まあ、そんなこんなで


今日もポテチを貪りながらPC弄ってたんだ。


いつも飯の時間には俺が床ドンすると、母がドアの前に飯を用意してくれたんだが……。


何故か今日は、いつまで経っても飯が来ない。






俺を餓死させる気かぁぁぁ!!!


なんて、言う度胸は無いから母の携帯に電話をかけた。10コールくらい経つが、一向に出ない。



「……仕方ない、下に降りるか…」


独り言をボソボソと呟き、ドアノブに手をかけ、外に踏み出す。



こうして外に出るのは、3日振りだったからか地味にワクワクしてくる。


確か、風呂に入ったのが最後だったな。



俺は軽い足取りで階段を降りていく。









–––––母が倒れてた。



俺がいつも使ってた食器をひっくり返したままピクリとも動かない。

床には俺の好物の唐揚げが散らばっていた。


……今日が、俺の誕生日なのを覚えてくれてて、年金暮らしで贅沢は出来ないから、せめて好物を作ってくれたのだろう。



「ウソだろ…。」


俺は動揺しながらも、母の手首に触れた。




冷たい。



握った母の手首は、この歳になっても家事をしていたからなのか、俺なんかより全然ゴワゴワしていた。

念の為に脈を確認するが、既に鼓動は止まっていた。





「…あ、あの……は、母が…倒れてて、えと…その…。」


警察に電話をかけたが、20年程、自宅警備を続けてきた所為か、碌に話せもしない。



何とか母の死を伝えた後は、あまりの事実に暫く呆然としていたが、サイレンの音で我に返った。

玄関に警察を出迎えに行き、オドオドしながらも母が倒れている場所へ案内する。


警察に母の事を頼み、年子の兄弟に連絡する事にした。俺には兄と姉がいるが、ここ数年は実家に帰ってきた事は一度も無い。



兄は、某大手商社のエリートだし、姉も、大手の銀行に勤めて結婚もしている。

39になっても自宅警備をしている俺とは大違いの2人だ。



最初は兄と姉も、母に寄生している俺が、働けるように、仕事を紹介してくれたりした。

だけど、あまりにも俺の態度は尊大で傲慢だった。


その頃の俺は、学歴だけは中々良かったから、なまじプライドが高かったんだよな。


今思えば、本当にクズ野郎だけど。



それからは、母に寄生して好きな事をして生きていた。


そんな生活が3年くらい経つと、俺は簡単に見捨てられた。



そりゃあ、当然だよな。

逆に、3年間も働かない弟の為に時間を割くなんて俺には出来ない。


態度だけはデカい駄目人間に3年間も付き合ってくれたのに感謝するべきだったんだ。




「…もしもし。…兄さん–––」

「ん?秀才か?どうし–––」



「秀才、姉さんには、俺から連絡しとくからお前は家の事を頼むぞ。」


「…え。」

「ツーツー………。」


母の死を伝える事は出来たが…。


自宅警備員に何をしろというんだ。

俺は悩んだが、どうにかなるだろうと考えて警察がいた所へ戻る。









☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆












坊さんの経を読む声が眠気をそそるなあ……。


………ハッ!!


危ない危ない。

もう少しで大事な式の途中で寝てしまうとこだった。

今は、俺に最期まで世話を焼いてくれた母の葬儀中だ。寝るわけにはいかん。


でも葬式を済ませたら、久し振りの兄弟の再会だよ…。

すっごい気不味いんだが。







「……秀才、母さんの死因聞いたか?」

「…聞いたけど。」


ボソボソと呟くように答えるが、兄は全く気にしていない。こんな駄目な俺には慣れたのだろう。


「…そうか、過労死したのは、お前の事もあるからだと思うぞ。……これからは、しっかり働いて天国の母さんを安心させてやろうな」

「…分かった、明日から頑張ってみる。」


典型的なモラトリアム人間だが、姉も兄も何も言わない。俺がこういう人間なのは分かっているからだろう。


「秀才、あんた本当に分かってんの?その人間性直さないと、また同じ事の繰り返しだよ」



–––俺はこういう人間だ。


そう心で唱えながら、姉の説教を受けながす。高校で習得した聞き流しの技術を駆使しながら、明日からの生活に考えを巡らせる。



あぁ、俺は明日からどうすりゃいいんだ。


そうして、夜は更けていくのだった。





翌朝。


兄に付き添われながら、ハローワークへの道を歩いていく。人とすれ違うたびに、体が反応するが仕方ない事だ。


久し振りの外は暑く、長年外に出ていないのが仇となったようだ。

自宅警備をしていたから、服も古くて穴の空いた物がわりと多かった。兄から服を借りて解決したが、多分1人だと生きていけなかったな。


結局、ハローワークに行ったが39歳でニートの俺には職は無かった。


当たり前の事だけど、少しへこんだわ。

肉体労働の求人はあったけど、俺には無理だ。


兄は、会食の予定があるとかで、帰りは1人で歩いて帰っていた。母が死んだ今、俺に財産など無いに等しい。



夏の暑さにボーっとしながら、道を歩いていくと、遠くに銀の毛並みの猫を見つける。


俺は、こう見えても猫派だから、猫には弱いんだよな。


財布を取り出して、中身を確認する。


これなら猫缶を1つ位なら買えそうだな。


近くの店に入り、猫缶を購入して、外に出るが先程の猫は見当たらない。


「あれ、どこ行ったんだ。」


ふと、道路を見ると先程の猫が横断しようとしていた。反対車線には、信号待ちのトラックがあり、飛び出すと危ないだろう。


「…お、いたいた。」


俺は早歩きで猫との距離を詰めていくが、猫は此方に気付くと–––––


––––––道路に飛び出した。



「お、おい!?」


猫缶の入った袋を投げ捨て、慌てて追いかける。


長年の自宅警備員生活で身体能力は落ちている筈なのだが、この時だけは何故か素早く疾走出来た、気がする。


その間に、信号は青に変わっていてスピードを増しながらトラックが走って来る。


間一髪で、猫を歩道に投げる。


横を向いた時には目の前にトラックが迫っていた。



あ、俺死んだわ。


–––––キキー……ドンッ。



ブレーキ音の後に、肉が潰れる音を最期に俺の意識は途切れた。



よろしければ1作目も読んで頂ければ幸いです。

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