まともな人間になりたーい
「まともな人間になりたいな。」
ひとしが口癖を言う。
「はああ、うっとおしいなあ。もういいよ、その話は。」
ゆうやは顔の横で手をひらひらさせて、とげとげしく言った。
「だって、まともになりたいもの。」
「うっせーよ。お前みたいな変な奴ががまともになんてなれるわけないだろ。変なやつなら変なやつらしく自信もって生きていけよ。」
ゆうやが不機嫌そうに言う。
「そんなあ。変なやつなのに自信なんて持てないよー。」
「はっ、持てるよ。おれも持ってるし。みんなもだいたいそうだし。」
「えぇー。ゆうやも変人だったのー。てか、みんなそうなの。みんな変人なのー。」
「みんなだいたい変人だよ。変人じゃないほうが珍しいわ。」
そう言うとゆうやは夕飯を作り始めた。とっとっとん。
「そうだったのかあ。みんな頭が変なのかあ。それなら俺も生きていけるのかなあ。」
ひとしは一人で納得したように呟いた。
「いや、あれだよ、頭が変なんじゃなくて、全体的に変だからな。」
ケチャップを絞り出して甘酢ソースを作りながらゆうやが言った。
「ぜっ、全体的にって。そんな。」
ぐすん。ひとしは肩を落としてしくしくしくしくしていたのだ。