第三話 3-2
~トレンティー大陸・南部 ラムールの村・盗賊団の塒~
「どうだ?こいつらは?」
正純は牢屋に入れられた、村人たちを見ていた。
年はもいかない子供や若い女から初老の女が檻に入れられている。
どれをみても、目が虚ろで現実を受け入れなて無い者ばかりだ。
正純は思う、この女たちを救って喜ぶのだろうかと。
誰もが救われて嬉しいなどということはない。
救われたからこそ現実に戻り後悔の念にとらわれて自殺する人間を数多く見てきた。
それならば彼女らにとって今の現実の方が幸せではないかと。
しかし、それも救われて始めて思う感情なのだ。
現状の彼女らにはそれすら判断の自由がない状態。
「なるほど。意識がはっきりしていないのは気になりますが、まだ買い取れる範囲でございます。ちなみに、生娘はおいでで?」
「あぁ、あんまり手は出してねぇ。価値が下がるからなぁ。でもまぁ、それなりに処理はさせてもらっているがなぁ。」
「なるほど。それなら、言うことはありませんね。」
「あぁ。そうだろうよぉ。でだぁ。これでどれくらい。出せる。」
「食料の木箱3つと武器の木箱2つでどうでしょう。」
「おい、あんまりふざけるなよ商人。これだけの人数だ。もっともらっても罰はあたらねぇだろ。」
「っと申されましても、奴隷にするにも綺麗にしたりとお金がかかるものです。オマケに武器の木箱1つを追加でどうでしょうか?」
「いいや。お前が持っているもの全部だ。」
「それは、無理な相談ですね。」
「そうか、残念だ。」
「残念ということは交渉決裂ということでしょうか?」
「いいや。交渉はしないと言っただろうぉ。出すもん出しとけば苦しまずにすんだのによぉ。」
ティグはそう言うとニヤニヤと笑いながら正純を見る。
それを見た正純は戸惑いながら口を開く。
「どういうことでしょうか?」
「どうもこうもねぇ。はじめから知ってただけだ。」
「知っていた?」
「あぁ、知っていたさ。お前らがギルドに雇われてこの村に来たことはよ。」
正純は理解したよにハッとしたような顔をする。
ここに来るまでに見る盗賊の全てがニヤニヤと正純を見ていたのをようやく理解した。
「お前の仲間は今頃、俺の仲間が逃げ出した村人たちと一緒に血祭りに上げてるだろうよ。」
「・・・」
「そして、お前はこの牢獄にいる。逃げ道はねぇ。持ってる物全部出してもらうぞ。」
正純はしたを向いてプルプルと震えだした。
「どうした?ビビったのか。」
ティグと護衛の男は笑い出した。
「さぁ。商売をしようやぁ商人。全部タダで買い取ってやる。」
ティグは腰に下げた剣を抜き正純に切っ先を突きつけた。
「お、お頭!!」
そこに息を切らした盗賊の1人が入って来る。
「なんだ、騒がしい。今いいところなのによぉ」
「お頭!それどころじゃねですよ!!」
「だから、どうしたんだぁ?」
「こいつが連れてきた女、バケモンみたいに強くて俺達じゃどうにもならねぇ。」
「なんだと。」
「それだけじゃねぇ。村人が逃げていった東側の山にいきなり旗持った連中がたくさん現れやした。ざっと見ただけですが100人くらいはいやす。」
「っぷ。っぷ、はははははははははは」
震えてた正純が突然笑い出したことにティグたちは驚き正純の方を見た。
「お前たち、ほんとに俺が少人数で来たと思ってたのか?」
「てめぇ。どういうことだ。」
「どうもこうもない。ただ、お前たちが俺たちが来るというの知っているということを知っていただけだ。」
「どっから漏れた!!あいつか!!」
「お前が誰のことを言ってるか知らないが、そんなことは聞かなくてもわかる。お前らだけでこの村を支配するには絶望的に食料がたりない。なら、なぜ今維持できている。誰かが街に大量に買いに行くか?それは無理だ。盗賊団が大手を振って街の中に潜り込めるほど街の警備は雑じゃない。なら、どこかの街に内通者がいる方が有力だ。そう考えると俺らの情報が流れていてもおかしくはない。ならバレているつもりで計画をするのは当たり前だろ。」
「なるほどな。だけど俺達にはまだ人質がいる。」
「人質か。それは俺やここにる女・子供のことか?」
「あぁ。そうだ。この状況でここから出れると思うなよ。」
「お前の間違えを2つただそう。」
そう言って正純は右手に黒い穴を作りその中右手を突っ込む。
「一つ、俺をここに連れてきたことだ。」
黒い穴から右手を引っこ抜くとその手には拳銃が握られていた。
盗賊たちは見たこともない物が現れて目を丸くした。
「耳塞いだほうがいいぞ。」
ティグの目にはいつの間にしたかわからないが正純の耳に詰め物が詰まっているのが映っていた。
まずいと思いとっさに正純に言われたよに耳を塞いだ。
そして正純は拳銃を報告に来た盗賊の頭に狙いを定め引き金を引いた。
それと同時に爆発音が轟、盗賊が吹き飛ぶ。
「なっ!!」
「二つ、俺を戦力外だと思っていることだ。」
再び、銃が火を吹きティグの護衛の盗賊が吹き飛んだ。
そして、ゆっくりと銃口をティグに向ける。
「これで、形勢逆転だが。どうする。」
そう言われてティグ耳を抑えた手を放し正純をジッと見つめる。
「そんな武器、見たことねぇぞ。」
「そりゃそうだろ。名前をフランキ・スパス12って言うショットガンて武器だ。」
「聞いたことねぇな」
「だろうな。それで、残るはあんただけだが?」
「さまか、ここまでのやつとはなぁ。これは俺らにはお手上げだ。」
ティグは持っていた武器を床に落としその場に座り込んだ。
「随分と潔いいんだな。」
「その武器の力をみせつけられたからな。お前が殺した俺の護衛だが俺達の中でも一二を争うほどの実力者だ。それがなんの抵抗もできず死んじまうんだ。恐れいったよ。抵抗しても無駄だろう。好きにしろ。」
「ここで殺すのも芸がないか。一役かってもらう。それが嫌ならこの場で殺す。」
正純は銃を肩に掛けティグを見る。
「俺になんかさせようってか?」
「あぁ。ついてこい。罪を償うチャンスをやる。」
そう言って正純は出口の方に歩き出した。
ティグは立ち上がり正純のあとに続いた。
■
~トレンティー大陸・南部 ラムールの村・東側~
「マサズミさんは、大丈夫でしょうか。」
イリーナは、不安そうに犬未の顔を見る。
「万が一にも、ご主人様が失敗することはありません。」
犬未の信頼はどこから出てくるのだと言いたくなるが、イリーナは黙って周りを見た。
近くには木で出来た案山子が等間隔で立てられていて松明を持っていたり旗を持っていたりとたくさん並んでいる。
追ってきた盗賊団はこれを見るなり大慌てで村の方に引き返していった。
脱出に成功した村人たちは疲れ果てた様にみんな横になっている。
「まさか、こんなにうまくいとは思いませんでした。」
「暗いと見間違えることなどよくあることです。」
「それもそうですね。」
そう言ってイリーナの案山子を撫でる。
「なんだか村の中央が騒がしいですね。」
「なにかあったんでしょうか。」
犬未が目を凝らして見るも木々が邪魔であまりはっきりと見えない。
「見に行きましょう。」
「大丈夫なんですか。」
「ここに、盗賊団が来ることはありません。怖いならついてこなくていいですよ」
「いきます。」
「そうですか。」
犬見は「ふふ」っと笑い歩き出した
イリーナは犬未の後を追う様に村の方に移動し始める。
村の中央に到着してイリーナは目を疑った。
そこには盗賊団たちが正純を囲むように武器を掲げている。
当の正純はと言うと、イリーナが見たことも無い武器を正座しているティグ頭に押し付けたまま椅子に座って片手で本を読んでいた。
「ご主人様。何をなさっているのですか。」
物陰からイリーナを連れて出てきた犬未が正純の方に歩きながらそう言った。
正純を取り囲んでいた盗賊団たちは犬未を見ると波が引くように別れて道を開ける。
それをみた正純は本を閉じて立ち上がり口を開いた。
「何をしているかってか?この通り盗賊団の頭を捕えてお前たちを待っていた。」
「待っていたって。この状況はなんですか。」
「お坊ちゃん、あんたを待っていたんだよ。」
「ぼ、僕をですか。」
「あぁ。あんたに決めさせてやる。この男をどうするかを。」
「どう・・・するかですか。」
「もう、こいつは抵抗する気がないそうだ。本来ならこのまま自警団か衛兵団に渡すが。お坊ちゃんにこいつらの結末を決めさせてやるよ。」
正純にそう言われてイリーナは盗賊団の頭・ティグを睨みつける。
こいつさえいなければ村は平和で誰もあんなように傷つかなかった。
村の女達もひどいことをされずにすんだだろ。
そう考えると怒りがこみ上げてくる。
そして、うつむいたイリーナは冷たく言い放った。
「殺してください。」
イリーナの言葉を聞いた正純は黒い穴を創りだして拳銃を持った手をその中に突っ込む。
手を引き抜くと手には今度は一振りの剣が握られていた。
そしてその剣をイリーナの前に投げ捨てる。
「どうやら俺にも付が回ってきたようだなぁ。」
座り込んでいたティグは立ち上がって近くにある剣を取り、構えた。
「ご主人様。どういうことでしょうか。」
「どうもこうもない。お坊ちゃんはこいつを殺すと言った。だったら、そうしてもらおうじゃないか。犬未。手をだすなよ。」
イリーナは、戸惑った。まさか自分がやるとは思っていなかったのだ。
あのまま、正純が倒して終わりか犬未が斬って終わりだと持っていた。
「おい。ボウズ。よくもとんでもねぇ野郎を村に呼んでくれたもんだ。おかげでこっちは散々なめにあったんだぜ。」
イリーナは犬未の方を見るが犬未は剣を抜かずに首を振った。
「お坊ちゃん。どうした?剣を取らないとそのまま殺されるぞ?こいつを殺したんだろ?今がそのチャンスだ。無論、相手を殺すんだったら自分も殺される覚悟が必要だけどな。人を殺すってことはそういうことだお坊ちゃん。そして、一度口から出た言葉は二度と戻ってこない。剣を取れお坊ちゃん。」
イリーナはまだ幼い。そんなイリーナがティグに勝てるはずがない。そんなこと考えなくてもわかりきっていることだ。
すがるように再び犬未を見たが、犬未はそんなイリーナを置いて正純の横に移動する。
1人取り残されたイリーナは剣とティグを交互に見る。
足元の剣を取ったらおそらくティグは一瞬で自分を斬り伏せるだろうと考えてイリーナは怖くなり剣を取れないでいた。
なんで自分がこんな目に合わないといけないんだと思いイリーナは正純を睨みつける。
「僕が、こいつに勝てるはずはないじゃないですか・・・。」
イリーナは悔しそうにそう言った。
正純は、そんなイリーナを見て口を開く。
「じゃ、なぜこいつを殺すといった。」
「それは・・・」
「俺達が殺してくれると思ったか?」
イリーナは黙って頷いた。
正純は溜息を付きながら言う。
「っは!自分の手を汚さずに他人の手を汚すか?いいご身分だな。おい。どこまでも、甘い考えだ。いいか、俺達にしてみれば無理に手を血で染める必要はない。さっきも言ったよに衛兵団に突き出せばそれで話は終わりだ。それをお前は殺せといった。自分で始末するならともかく、あまつさえ他人に任せだ。お坊ちゃん、あんたはどこまで他人に任せれば気が済むんだ?」
「僕は、子供です。」
「だからなんだ。」
正純は冷たく言い放った。
「それが許されるのはお前がこの村を諦めて子供らしく孤児院に入って暮らしていた場合だけだ。それだったら、皆んなが同情して子供だから仕方がないと言っただろう。けどなぁ、お坊ちゃんあんたは俺に依頼して覚悟を決めてここまで来たんじゃないか?その時点であんたは子供じゃない。だったら最後ぐらい自分の手で決着を決めたらどうだ?」
イリーナは黙りゆっくりと足元の剣を取った。
そして、震えながらもティグにその切っ先を向ける。