第三話 3-1
~トレンティー大陸・南部 ラムールの村・門の前~
あたりは暗くなっておりラムールの村見張り台には明かりが灯っている。
村の入り口には門があり、ちょっとした防塞の様になっていた。
その門に向かってフードを被った者が歩いていた。
正純である。
門の前には盗賊団の一味と思われる男たちが長槍を持って門に近づいて正純を牽制していた。
「おい、そこのお前、止まれ。」
男たち呼び止められは正純は足を止める。
正純が足を止めるのを見計らって男たちは口を開いた。
「何者だ。」
正純はゆっくりとした動作でフードを脱いで門番たちを見る。
「やぁやぁ、ご両人!私は、近くを通りがかったチンケな商人でございます。」
芝居が言い回しに門番たちは目を丸くして正純を見た。
「ちょうどこの辺を通りかかりましたら、村が見えるではありませんか。これは、商売の匂いがしましてねぇ。よろしければ商品を買っていただくか、何か売っていただく品があれば買い取らせていただきますが。それとできれば一晩泊めていただけたらと。」
門番の男たちはそれを聞くとニヤニヤとし始めて言った。
「そうか、商人か。おい、頭に報告してこい。」
男がそう言うともう1人が足早に門の中に入っていた。
「そこで、待ってろ。」
「仰せのままに。」
しばらくすると、門の中に入っていた男が戻って来て正純は村の中へを案内される。
案内された先は、村の中央の開けたところでそこには簡易的に作られている玉座とは名ばかりな椅子が置いてあった。
その前で立ち止まると案内していた男が正純の方に向き直り口を開く。
「頭が会うそうだ。よかったな。」
何がおかしいのかわからないがそう言った男はニヤニヤとしていた。
正純はあたりを見渡す。
中央の広場を囲むように家が建てられている。
どの家も焦げ跡や剣で傷つけられた様な跡が目立つ。
そこには村人らしい影は見当たらない。
村を観察をしていると、大男がこちらに向かって歩いてきていた。
頬に大きなキズがり、髪はボサボサで毛皮のベストを羽織っている。
コテコテの盗賊団の頭みたいな服装をしているため、正純は吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
その男は護衛と思われる男を1人を連れて椅子の前に行くとドカっと座り手すりに肘を置いて正純をジロジロと眺める。
「これはこれは、私は正純という、チンケな商人でございます。お会いできて光栄です。えーと」
「ティグだ。」
「ティグ様」
正純はティグに向かってお辞儀をする。
ティグはそれをつまらなそうに眺めて口を開いた。
「それで、この村に何のようだ?」
「いやぁ偶然通りかかりましてねぇ。良ければ商売をしようかと。」
「何を売っている。」
「よくぞ聞いていただきました!!私、取り扱っていない商品はないと自負しておりまして食料に武器に調度品にほしい品があればなんでも言っていただければ、すぐに用意いたしましょう。」
「ほぉ、なんでもか。」
ティグは今一度、正純を爪先から頭の先までゆっくりと見つめる。
「はい。なんでもでございます。買うものがなければなにか良い品が有りましたら逆に私が買い取っても構いません。」
「なるほどな、商人にしては荷物が少ないみたいだが?」
「私これでも商人の端くれでございます。今、巷で流行っているゲートの技能を所持しておりまして、言っていただければ直ちに取り寄せてみせましょう。」
「それは頼もしいな。」
「そう言っていただけると私も、商人冥利に尽きるというものです。それでは、なにか欲しい品が?」
「お前は、盗賊団である俺達が大人しく金を払うと思っているのか?」
ティグの鋭い目が正純を見つめる。
正純はその問に笑顔で答えた。
「はい。もちろんでございます。人いればそこに金あり。人いればそこに商売ありでございます。商人たる者、人を選ばず品を選べでございます。お支払いさえいただくのであれば、商人の前では誰もが等しくお客様でございます。」
「なっはっはっはっはっは!!」
ティグは手を叩きながら笑い出した。
「いいぞ!楽しいぞ!どんなよそ者思ったがこれは、また随分と面白い奴が来たもんだ。いいだろう。食料が不足しているあと、武器だ。ただ、俺達にはあんまり金がない。どうだ?奴隷と魔石を引き換えにってのは。」
「奴隷・・・ですか。いいでしょう。まず、奴隷を見せていただけないでしょうか。それから交渉を・・・」
「おいおい。交渉なんどしちめんどくせぇことはなしにしようや。買い取るのか買わないのかはっきりしろや。」
「と言われましても、私もこれが商売ですのであまり使い物にならない奴隷を買わされるのも・・。」
「おい、あんまり調子に乗るなよ。俺たちは盗賊だ。お前を吊るしあげて出すもん出させてもいいんだぞ?」
「いやはや、それは困りました。私も、命が大事でございます。女の奴隷がいましたら話に乗りましょう。」
「そうだろうよ。命は大切だよな。」
「それで、女の奴隷はいらっしゃるのですか?」
「あぁ、いるとも。案内してやる。付いて来い。」
ティグは立ち上がり歩き出した。
正純はティグの背中を見つめながらあとに続く。
■
~トレンティー大陸・南部 ラムールの村・東側~
村の東側の防柵近くで動く影が2つ。
見張り台には頭にナイフが刺さった男が倒れている。
「イヌミさん、こっちの準備はできました。」
イリーナに言われて犬未は黙った頷いて腰に掛けた剣の柄に手を掛ける。
刹那。
防柵の一部分が綺麗に切り取られるように倒れ道ができる。
「流石です。」
「そんなこと言っている暇はありません。行きますよ。」
犬未の頬がほんのりと赤みがかっているのを暗いながらもイリーナにはわかったが何も言わずに犬未の後を追う。
村人たちが押し込まれるように入れられているのは村の東側にある倉庫の中に入れられているのは犬未の調査でわかっていた。
村の中に入り込んだイリーナたちは物陰を伝って倉庫に近づいていく。
倉庫の出入り口には見張りが二人いて、楽しそうに樽の上に座って杯を交わしていた。
「堕落した連中ですね。」
その様子を物陰から見ていた犬未が呆れるように言う
「まず、私があの二人を倒します。あとは手はず通りお願いします。」
「わかりました。」
イリーナの返事を聞いて犬未は物陰から飛び出した。
放たれた矢のように飛び出した犬未は一瞬で距離を詰め男たちを斬り伏せた。
その速さはイリーナの目に止まるものではない。
飛び出したと思ったら見張りの2人が倒れたのだ。
きっと、斬られた男たちも自分たちの身に何が起こったか理解できずに倒れたのだろう。
犬未の合図で倉庫の前に移動したイリーナは見張りの顔が先ほど仲間と楽しく飲んでいた笑顔のままで倒れているのに気がついた。
見張りから鍵を取り倉庫の施錠を外して、誰にも気づかれないように二人は倉庫の中へと入る。
「匂いますね。」
中には何かが腐敗したような匂いが漂っている。とても、人間が住むところとは思えない状況だ。
そんな中、村人達は雑魚寝のようにボロボロの布を被り震えながら横になっている。
イリーナはこの光景に叫び出したい気持ちをぐっと堪えて中を見渡しある人物を探していた。
壁に寄りかかりながらブツブツ言っている老人を見つけ周りを起こさないように静かに老人の元へと逝く。
「村長!僕だよ。イリーナだよ。」
静かにしかし、はっきりと声で虚ろな目の老人に話しかけた。
「はぁ、ついに幻聴まで聞こえおったか・・・。これは果てるのも近いかのぉ。」
「違うよ!本物のイリーナだよ。」
「イリーナ・・・」
虚ろな目で老人がイリーナを見つめる。
イリーナも、しっかりとイリーナを見つめた。
老人の目に次第に光が宿るがわかる。
「・・イリーナ!!イリーナか!!なぜ戻ってきたんじゃ!!」
「おじいちゃん!静かに!!気づかれちゃう!!」
そう言われた老人はハッとして小声で話す。
「どうして、戻ってきたんじゃ。お前はここに来ては・・・。」
「助けに来たんだよ。」
驚きの顔していた老人は何かを悟ったように顔を戻し下を向いた。
「・・そうか、そうじゃったか。・・・残念じゃが、少し遅かったのぉ。みな、この有り様じゃ。逃げる前に捕まってしまうのが落ちじゃ。それに、女と子供は別の場所に移されておる。」
みんな寝ているのに震えている者や、「ううぅぅ」と唸っている者、うわ言のように何かをつぶやいている者。
「大丈夫。何とかするよ。」
「じゃが・・・。」
「僕を信じて。」
イリーナは力強く老人の目を見つめる。
「イリーナ。時間がありません。」
出入り口の近くで見張っていた犬未から、声がかかる。
「あちらの方は?」
「私達を助けてくれる人です。」
「ほんとに・・・。」
老人の目から涙が溢れる。
「うん。来たんだよ。助けが・・・。もう、苦しまなくて済むんだ。」
イリーナも瞳に涙をためて言った。
「わかった。逃げよう・・・。みなを起こそう。」
老人は立ち上がり周りの人を静かに起こし始める。
イリーナもソレを手伝うように静かに起こし始めた。
村人の中にはイリーナの顔を見るや泣き出すものや「なぜ帰ってきた」っと叫びだそうとする者までいたが、すぐに口を塞ぎ黙った。
そして、倉庫にいる全員が起きてイリーナを見つめていた。
「みんな、遅くなってごめんなさい。」
村人の表情はどれも重い者ばかりだ。
イリーナは村人たちに今までのことを話し始めた。
それを聞いた村人たちは一旦は、喜んだものの助けに来た人数が2人という数に落胆した。
「ここに、いない人達のことも安心して。別の人が助けにいってるから。みんな無事に助けるから!!」
それを聞いて安堵する者もいれば、納得できていな様な顔をする者いた。
しかし、イリーナは皆んなの不安を振り切る様に力強く言った。
「みんな、行こう!東の山方に逃げるんだ!!」
イリーナの言葉に反応する者はいるが、誰も立ち上がろうとしなかった。
村人たちは思ったのだ、逃げてどうなる。
盗賊団たちを倒さないかぎり村は戻ってこない。
今更、他所の街に行ったところに生きていけない。ここは地獄だ。けれど、村を出たとしてもどこかで野垂れ死ぬだけなら、いっそここに残ったほうがと考える者が大半だった。
もっと早ければ村人たちの考えも違ったかもしれない。
しかし、連日の容赦のない労働に心も体も疲れ果てた今の村人たちには、逃げる気力すら湧いてこなかった。
イリーナの言葉は村人たちには、届かなかった。
すると、老人が腰を上げて口を開いた。
「儂は、イリーナと共に逃げようと思う。イリーナは儂らを助けに来てくれたんじゃ。逃げることが出来たのにじゃ。無理強いはせん。しかし、儂は明日を皆と共に生きるために逃げようと思う。みなはどうじゃ?」
老人の言葉に村人たちは頷いた。
ゆっくりだが次々と立ち上がりイリーナを見る。
イリーナも村人たちに応えるように頷き口を開いた。
「お年寄りや、けが人を優先して脱出させます。イヌミさんお願いします。」
「わかりました。私が殿を務めます。準備ができた人達から順にイリーナのあとに続いてください。」
出入り口にいた犬未がそう言うと村人たちは逃げる準備をし始めた。
よろしくお願いします。