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第二話 2-3

~トレンティー大陸・南部 ラムールの村・付近の山の中~


 イリーナは木の根元に縛り付けられていた。

 その近くには正純がいるが、イリーナには見向きもしないで何やら丸太を(のこぎり)を使用して人の大きさくらいに切断している。

 近くに犬未の姿は見えない。


「放してもらえませんか」

「頭は冷えたか?」


 無言で睨みつける。


「そんな目をしても無駄だ。」

「あなたは村の現状を見ても心が傷まなのですか!?」

「傷まないな。」

「今、ようやくわかった。あんたは悪魔だ。あの状況を見て心が傷まないのならあんたは、人の皮を被った悪魔だ!!何が契約だ!!もういい!!僕を放せ!!」


 イリーナの叫びを聞きながらも一切の反論をせず、正純はただ黙々と作業をしていた。


「聞いているのか!!僕を放せ!!」

「ギャーギャーとうるさいやつだな。お前を放してどうなる。」

「もう、あんたには頼らない!!僕が村の皆んなを助けに行く!!」

「はぁ。どこまでお前は考えてないんだ。これは雇うの考え直した方がいいかもしれんなぁ。」

「お前に、僕の気持ちがわかるか!!今こうしてお前が油を売って時にも村の皆んなは苦しんでるんだぞ!!」

「少しは考えて行動しろ。ここに来る前に言ったはずだぞ。作戦を練った上で村を奪還すると。」

「聞いた!!だけど、あんたがしていることは何だ!!丸太で訳の分からないものばっかり作っているだけじゃないか!!そんなことしているんだった1人でも多く盗賊団のやつを殺してきたらどうだ!!」


 正純は何度目になるか分からない大きなため息をした。


「はあぁ。全然ダメダメだな。人の話も聞かない。話にならん。」


 そういうと、正純はイリーナを無視して再び作業を再開し始める。


 ◆


 遡るほど7日前


 ◆


 正純たちはようやくラムールの村の近くに到着した。


「ここからは徒歩で行く。犬未。馬を回収するぞ。」


 正純は馬から降りる。

 犬未も後ろに載せているイリーナを下ろして馬の誘導をし始める。

 不思議に思ったイリーナは正純に尋ねた。


「馬をどうするんですか。」

「預ける。帰りも必要になるからな。」


 イリーナは首をかしげて考えた。

 周りにはこれといって馬を預けるところなどない。

 預けるとするならば1番近いところでここから東に4日行ったところにある南部ではルハナの次か同等の規模の街であるトナテルくらいだ。


「ご主人様。準備ができました。」

「じゃ、ゲートを開くぞ。ここらへんでいいか。」


 正純はなにもないところに手を翳す。


「犬未。確か動物は3番ゲートだったよな?」

「はい。3番ゲートで間違えありません。」

「札はつけたか。」

「はい。こちらに。」


 馬の首のところに青色の札が下がっているのをイリーナは見た。

 未だに首をかしげているイリーナをよそに正純は続けた。


「3番ゲート・オープン」


 正純がそう言うと何もないところに馬が通れそうなくらいの黒い穴ができる。

 イリーナは驚き口をパクパクとするだけて唖然と見つめいたいた。

 そんなイリーナを知ってか知らずか正純は行動し始める。


「犬未。渡してきてくれ」

「御意」


 犬未は馬を連れてその真っ黒な穴へと入っていた。


「正純さん!!これは一体。」

「ん?あぁ見るのは初めてたか。規模がでかい商人なら多かれ少なかれ持っているゲートって呼ばれる技能(スキル)で、自分が所有している倉庫と自分の位置を繋ぐ技能だ。まぁ、いろいろ制限はあるが便利な能力の一つだな。お前も訓練すればこれくらいは会得できるかもな。」

「技能ってそんな簡単に手に入れられるもんじゃ無いと思うんですが。」

「そうだな。基本的には強く欲した時にだったか?最近ではこういう手軽な能力であれば発生条件さえ満たせば少しの頑張りで手に入るぞ。まぁ、才能があればの話だがな。」

「そう、だったんですか・・・。」

「先人たちの知恵ってやつだな。まぁお前も俺のところに来たらいろいろ学んでもらうことになるから覚悟しろよ。」

「は、はい。そういう約束ですもんね。」


 そう話しているとゲートと呼ばれた黒い穴から犬未が帰ってきた。


「ただいま、戻りました。」

「ご苦労様。お坊ちゃん、村からできるだけ離れれてて村を見渡せ様な場所に案内して欲しいんだが心当たりは有るか?」

「一つだけ心当たりはあります。」

「そこは、人はこないか。」

「村の人しか知らないと思います。」

「じゃぁ、そこに案内してくれ。」

「わかりました。」


 イリーナを先頭にして正純と犬未は徒歩で移動を再開した。

 

 イリーナの案内でたどり着いたのは森の中で木々の間から村の様子が見える山の中腹あたりの場所だった。

 たどり付いた時に既に日は沈み月明かりを頼りにここまで来た。


「んー。ここからじゃ詳細に村の様子は見れないな。」


 夜ということもあり、村には明かりが少し灯っているばかりであとは真っ暗だ。


「ココらへんの木に登れば村を一望できると思います。」

「まぁいい。今日はとりあずここで野営をして明日からこの前話したよな段取りで動く。火は使うなよ。万が一、盗賊団に気づかれたら全てが水の泡だ。」


 そういうと3人で野営の準備に取り掛かった。

 月がちょうど頭の上に来るくるらいで天幕を貼り終わり床につくこととなった。


 ◆


 早朝、目が覚めたイリーナは焦る気持ちを必死で押さえ込んでいた。

 もうすぐだ。もうすぐ村の人達を助けるとこができる。

 まだ、太陽が顔を出し始めたろに目が冷めて天幕の外にでた。


「早い、目覚めだな。お坊ちゃん。」

「イリーナです。」


 外に出ると木の根のところに腰掛けて本を読んでいた、正純に話しかけられる。


「犬未さんは?」

「まだ、寝てる。」

「僕に出来ることはありませんか?」


 早く村の人達を助けたいと思って自分にできることが有るなら、それでより早く村の人達を助けられるならと思いイリーナはそういった。


「そうだなぁ。今のところ何もない。前にも言ったが、まず情報の収集だ。何をするにもそれからだ。」

「そうですか。」


 犬未が天幕から出てきたのは太陽が山から顔をだしてからしばらくたってからだった。

 イリーナは落ち着かずぐるぐると同じところを回ったり近くの木の根元に腰掛けたりして暇な時間をやり過ごしていた。

 犬未が天幕から出てきたのを見て正純は本を閉じて立ち上がった。

 イリーナは見た。いつもどこから取り出したかわからなかった正純の本が黒い穴の中へと入っていくのを。


「そうか、ゲートを使っていろいろ取り出してんだ。」

「ん?何か言ったか?」

「いえ、何も。」


 「そうか」と言って正純は犬未の方を見た。

 犬未もそれに気が付き足早に正純の元に駆け寄る。


「犬未、寝起きで悪がすぐに村周辺の偵察をしてきてくれ。」

「御意」


 正純からの命令を受け取ると犬未はすぐに行動して森の中へと姿を消した。


「さて、俺達だがすでに盗賊団もう動き出すだろ。木に登って村の様子を見たんだがあいにく俺は木登りが得意じゃない。頼めるか?」

「はい!!僕、木登りは得意ですし目はいいほうなんです。」

「そうか、なら頼む。」


 イリーナは元気よく頷いて早速木に登り始めた。

 そして、そこで見たものはイリーナにとってあまりにも悲惨なものだった。

 まさか、ここまでの事態になっているとは、イリーナには予想も指定なかった。

 笑顔で送り出してくれた村の人達の姿はそこにはなかった。

 男たちは奴隷が来ているようなボロボロの布にを羽織っているだけ、若い女は裸体に近い格好をされて檻に入れられてガタガタと震えている。歳を取った女は男たちに混じって何か作業をさせられていた。

 そんな光景をただ呆然とイリーナは見つめた。

 まるでそれは、夢でも見ているかのような光景だった。

 まるまる太ったイリーナの家の隣に住んでいたおじさんは顔の面影が少し残っているがガリガリになっていて虚ろな目でスコップで土を掘っている。

 その土を細い腕で懸命に運ぶのはいつも売れ残ったパンを譲ってくれていた優しいパン屋のおばあちゃんだった。

 他にも目を疑う光景がそこにはあった。

 あのやさしいお姉さんの狂ったような笑み、ちょっと意地悪だけど頼もしいお兄さんの絶望にも似た顔。

 自分を逃がしてくれた時は皆んな辛いながらも笑顔で見送ってくれた。

 村の皆んなが何をしたというのだ!こんなことされるいわれはない!!ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるな!!

 イリーナは何度も心の中で叫んだ。

 頭に血が上り頬には涙が滝のように流れ下唇が千切れそうなほど付くよく噛みしめて。


 『許さない!!殺してやる!!』


 イリーナはそう心の中で叫んで木から飛び降りた。


「村の状況はどうだった?」


 尋ねる正純を無視をしてイリーナは走りだそうとした。


「っぐ!」


 気が付くとイリーナは木押し付けられていた。


「おい。どこに行くつもりだ?」

「離してください!!皆んなが!皆んなが!」

「しばらく寝てろ。」


 そこでイリーナは意識を失った。

 何をされたか全くわからなかった。

 次に目がさめるとイリーナは木の根元に縛られていた。

 泣こうが叫ぼうが正純は無関心をよそおい黙々と作業をしていた。


 ◆


 そうして、今に至る。


「答えろ悪魔!!なんで村を助けない。あのあとあんたも見ただろう!!村の現状を!!」

「あぁ。見たとも。」

「ならわかるだろ!!皆んな苦しんでるんだぞ!!あれからもう何日も過ぎてる。もうみんな限界なんだ!!頼む・・・村をたすけてくれよ・・・お願いだ・・・お願いします。」


 イリーナは何度目になるかわからない。叫びを正純にぶつける。

 しかし、正純は一向に動こうとしない。


「契約をする!なんでもする!!僕の命を差し出す!!お願いだ。」

「いらんな。そんな価値はお前にない。」

「悪魔!!お前は悪魔だ!!」

「貴様。口がすぎるぞ!!」


 いつの間にか戻ってきた犬未がイリーナの首元に剣を突きつけた。


「犬未。やめろ。」

「しかし!」

「いいんだ。」

「・・・わかりました。」


 犬未は剣を下げると正純の横へと移動する。

 イリーナはただ黙って二人を睨みつける。


「っで。偵察はどうだった。」

「見張りの位置は固定と見て問題ないかと。村の周辺に作られた柵も壊れやすい様に細工は完了しました。それとこれを」


 犬未から渡されたのは黒い石だった。


「魔力石か。」

「純度はかなり低く粗悪品ですが売ればそれなりのお金になるかと」

「まぁ、国は買わないがそこらの小さい街に持っていけば小遣い稼ぎにはなるか。興ざめだな。」

「全くです。」

「俺の方も準備はできた。」

「では、そろそろ。」

「あぁ。村人もこれ以上は限界だろ。それにお坊ちゃんの小言も聞き飽きた。」

「ではいつ。」

「今日の夜だ。・・最終段階だ。」

「御意」


 動き出した二人を見て下を向いていたイリーナは顔を上げて声を出した。


「村をたすけるのか!?」

「だとして、お前は不要だ。計画の邪魔されたらかなわない。」

「僕も連れっててくれ!!僕も村の皆んなを助けたい!!」

「もう一度言う、計画の邪魔だ。そこで大人しくしてろ。」

「指示には従う!!いや、従います!!お願いです!!僕にも手伝わせてください。なんでもします!!」

「・・・」


 正純はジッとイリーナの目を見る。

 イリーナも正純の目を見つめ返す。

 しばらくして正純が口を開いた。


「犬未。縄を解いていやれ。」

「いいのですか」

「あぁ、こいつが暴走したら作戦は失敗に終わる。こいつの責任だ。」

「御意」


 イリーナは開放された。

 自由にならなかった体が数日ぶりに自由になり動こうとするが体がもつれてその場に倒れこむ。

 そこに、正純は歩み寄り腰を下げて倒れたイリーナの顔を覗き込んだ。


「いいか。これから何が起きても俺の指示に従え。もし、指示に逆らったら村人たちが死ぬと思え。いいな。」


 いつになく真剣な目をした正純に飲まれイリーナは生唾をごくりを飲み込む。

 そして、決意をした顔をして言った。


「わかりました。」


 正純は立ち上がり大きく息を吸ったあとに口を静かに開いた。


「今から作戦の内容を話。」


 正純の作戦を聞いた3人は静かに行動を開始したのだった。

 盗賊団に気づかれないように静かに・・・。

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