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ダンジョンでお祭りをしよう!  作者: 夜々里 春
夏祭り編・第二章【お祭り開始!】
7/15

◆第一話「お祭り準備完了!」

「たかいたかーい。もっとたかいたかーい!」

「ボス。ココ、もうそんなことで喜ぶ歳じゃない」

「そ、そうか。では、お馬さんごっこはどうだ? 特別にワシが馬になってやるぞ」

「それも面白くない」

「……うーむ」


 困った。

 子どもの喜ぶことがわからない。


 地下九階の広間でワシはココと戯れていた。

 コガラシもこの場にいるが、視界には映っていない。

 奴は天井に足を貼り付けてぶら下がっているのだ。


 あやつの足はどうなっているのか。

 初めの頃は不思議でしかたなかったが、疑問に思うことをやめた。

 忍者だからしかたない。

 すべてはその一言に尽きる。


「ボスーっ!」


 ブリコスが大声をあげながら広間に飛びこんできた。

 ココが驚いたのか、それとも人見知りを発動したのか。

 ワシの背後に素早く隠れた。


「何事だ、ブリコス」

「お待たせしました!」


 そう言ってブリコスが得意気に笑った。


「もしや出来たのか!?」

「へい! 夏祭りの準備が整いやしたっ!」

「おぉおおおお!」


 思わず広間に響き渡るほどの声をあげてしまった。

 実は一週間前ぐらいから部下たちは夏祭りの準備に取り掛かっていた。


 もちろんワシも準備を手伝うつもりだった。

 だが、幹部連中から「ボスはボスなのですから偉そうにして待ってて下さい」と言われ、しかたなく厚意に甘えることにしたのだ。

 ワシが手伝えば進行が捗らないだとかそういうことでは決してない。


「では早速見にいこうではないかっ」


 勇んで歩みだしたところでココに手を握られ止められた。


「どこに行くの……?」

「楽しくて美味いものが沢山食べられるところだ。ま、ワシも行ったことないので知らんがな。ココもついてくるがよい」


 なにをして遊ぼうか迷っていたところでもあったのでちょうど良い。

 ココが不安そうな顔を向けてくる。


「人多い?」

「安心せい。今はワシの部下だけだ」

「……行く」


 少し悩んだのち、ココはこくりと頷いた。


「ラング様、お待ちを!」


 天井に貼りついていたコガラシがしゅたっと眼前に下り立った。


「なんだコガラシ。ワシは今すぐにでも夏祭りとやらを楽しみたい気分なのだが」

「み、水を差してしまって申し訳ないでござる。ただ、ジャポンヌの夏祭りにはある物を着ていかなければならぬでござる」

「ある物……それはいったいなんなのだ?」


 存分にもったいぶるように間を置いたあと、コガラシは人差し指をぴんと立てた。


「浴衣でござる」



◆◆◆◆◆


「これが浴衣か。ワシの愛用するバスローブと似ておるな」


 コガラシが用意した浴衣とやらを早速着てみた。

 紺色でワシにぴったりな渋めの柄だ。


 ほかに身につけているのはパンツのみ。

 おかげですごくスースーする。


 こんな格好で外を――ダンジョン内を出歩くのはさすがのワシでも少し恥ずかしい。が、コガラシに言わせればそれがまたいいのだという。

 ジャポンヌ恐るべし。


 あと下駄とやらがなんとも歩きづらかった。

 重いし、歩くたびにカタカタと音が鳴る。

 鍛え抜かれたワシの足もすでに悲鳴を上げはじめているぐらいだ。


「しかし、あやつら遅いな」


 コガラシがココの着替えを手伝っているらしいが、ワシに比べてかなり時間がかかっているようだ。

 ワシ、早く夏祭りを見に行きたいのだが。


「ボス、かっこいい」


 どうやら着替えが終わったらしい。

 ココが広間に戻ってきた。


 ワシと同じく上下一体の服を身に纏っている。

 が、なにやら腰に巻いたものがゴツイ。


 それに女性用だからか柄が華やかだ。

 白生地に青い糸で花が幾つも描かれている。


 ワシは思わずココの全身をまじまじと見つめてしまう。


「ほう……ココもなかなか良いではないか」

「ほんと?」

「うむ。頭のお団子二つもなかなかに似合っておるぞ」

「コガラシにやってもらった」


 言いながら、ココが後ろを指差した。

 そこに立っていたコガラシがうんうんと頷いている。


「お二人ともよく似合っているでござる」


 なにやらご満悦といった様子だが、コガラシは装束のままだ。


「なんだ、お前は浴衣を着ないのか? 夏祭りに浴衣を着るのがマナーだと言ったのはお前だぞ」

「それがしは忍者なので……ラング様以外に肌をさらすわけにはいかぬのでござる」

「ふむ……お前なら似合うと思うのだがな」

「な、なにを仰っているのですかっ!? コガラシをからかってもなにもでませんからっ」


 たしかに金貨も美味い飯も出ないが、お前の地と思しきものが出ているぞ。

 そう教えてやりたいが、面白いので放置推奨だ。

 コガラシがもじもじしながら呟く。


「い、いつか機会があれば……」

「うむ、楽しみにしておるぞ」


 そう答えて、ワシは階上を見やった。


「では今度こそ行くぞ! 夏祭りの舞台へ!」

「お~」「おぉー!」



◆◆◆◆◆


「ほう、ほう、ほう! よいではないか! よいではないか!」


 夏祭りの会場となる地下一階。

 そこに辿りついた瞬間、ワシは思わず感嘆の声を漏らしてしまった。


 天井から吊るされた提灯の下、四つの通路を作るように幾つもの屋台が並んでいた。カラフルに彩られたテントに「かき氷」やら「たこ焼き」「焼き鳥」等などコガラシの絵で目にした店名が記されている。


 なんだかダンジョンの中とは思えない雰囲気だ。


「待ちくたびれましたよー!」


 屋台の店主を務める魔物たちが叫んでいた。

 今はまだ冒険者たちはいない。

 つまりワシとコガラシ、ココだけが客というわけだ。


「ボスー! 手始めにこちらへどうぞ!」


 この丁寧な口調は……。

 声の聞こえたほうを見やると骸骨の店主がいた。

 やはりホネロンだ。

 奴のところまで行くと、そばにいたココがすっとワシの後ろに隠れた。


「肉がない」

「たしかココさんでしたね。ボスから聞いていますよ。わたしは骸骨戦士のホネロンと言います。以後、お見知りおきを」

「……ん」


 こくりと頷いた。


「おや、あまり驚かないのですね」

「ココは死霊術師だからな。骨には慣れておるのだ」


 くいくいとココに裾を引っ張られる。


「ね、ボス。この骨、使っていい?」

「ダメだ。ワシの大事な部下だからな」

「そっか。残念」


 そんな会話を交わす中、ホネロンが絶句していた。


「あ、あの。今ものすごく物騒な会話が聞こえたのですが……」

「気のせいだ気のせい。それよりも、これはなんなのだ?」


 ホネロンのそばに置かれた四角い台。

 そこから九本の棒が突き立てられていた。


「輪投げというもので、わっかを一定の距離から五つ投げていただき、この棒に通すのです。そして通った数に応じて景品をもらえる仕組みとなっております」

「おいホネロン。いま気づいたが、その棒は……」

「お察しの通りわたしたち骸骨戦士の骨です。あ、昔に死んだ同胞の骨ですのでご安心ください。決して自分からは取っておりません」

「ならば安心だ」


 しかし、なんとも簡単そうな遊びだ。

 こんなもの誰だってできるだろう。

 そんなことを思っていると、コガラシが意気揚々と歩み出た。


「ここは経験者のそれがしが手本をお見せいたしましょう。このように……ほいほいっと、せいっ、やーっ」


 コガラシは五つのわっかをポイポイ放り投げると、すべてを棒に通してしまった。

 そして少しばかり得意気にフフンと胸を張る。


「こんな感じでござる」

「「おぉぉぉ!」」


 周囲にいた魔物全員が拍手をした。

 いや、たしかにすごい。

 だが、それほど難しいことだろうか。


「よーし、次はワシだ!」


 忍者だから、コガラシだから五つすべてを通せたわけではない。

 誰だってできるものだ。


 そう勇んで挑戦してみたのだが……。

 一つしか棒に通すことができなかった。


「な、なんということだ……こんな簡単な遊戯だというのに……!」


 どうしよう。

 ワシすごく格好悪い。

 どこかに穴があったら入りたい。


 部下たちの視線から逃れるように身を縮めていると、つんつんとココがワシの腰を突いてきた。


「ココもしていい?」

「う、うむ。もちろんだ」

「うん」


 ホネロンからわっかを受け取り、今度はココが輪投げに挑戦する。

 と、ひょいひょいっといとも簡単に棒にわっかを通していった。


「一つ外しちゃった」

「すごいでござる。ココ殿!」


 コガラシの拍手に続いて部下たちも「おぉ」と驚いている。

 なんということか。

 子どものココに大敗してしまった。


 穴、穴……!

 そうしてワシが身悶えていると、喝采を浴びるココが顔を覗き込んできた。


「ボス、ココすごい?」

「う、うむ……すごいぞ」

「えへへ」


 へにゃっと顔を崩してココが笑った。

 ぐぬぬ……。


 部下の成功を喜ばないのはボスとして器量が小さすぎる。

 ここは恥など捨てて心からココを賞賛すべきだ。

 そう思ってワシがココの頭を撫でてやっていると、ささっとコガラシが耳打ちしてきた。


「さすがでござる、ラング様。幼きココ殿に花を持たせて差し上げるとはっ」

「ま、まあな。よくわかっておるではないか」


 そう、実はそれを見越していたのだ。

 断じてワシの技量が低かったからではない。

 ……ない!


「次だ、次っ」


 ワシは身を翻すようにして次なる屋台を探しはじめた。

 と、奇妙なものが目に入った。

 いや、どれも奇妙だが、その中でも郡を抜いていた。


 店主を務めるのは、うっすらと透けた体を持ち、見るからに柔らかそうな魔物。

 スライムのネバダだ。


 そのネバダの前に大きくて四角い容器が置かれていた。

 容器には水が入れられ、緑のふにゃふにゃした丸いナニカが幾つも浮いている。


「これは……ネバダ。お前のものか?」

「その通り。ボクの体から切り離した肉破片デス」


 まだ細胞が生きているのか。

 どれも意思を持ったように動き回っている。

 なんとも気持ち悪い。


「コガラシ。ジャポンヌではこんな遊びをしているのか?」

「それは誤解でござる。ジャポンヌでは金魚という魚をすくうのですが、あいにくとこの地域には生息していないようなのでネバダ殿の体を拝借することにしたでござる。そしてすくうのはこれ、特別製穴あきポイでござる」

「なるほどな。よい機転のまわし方だ」

「ありがたきお言葉。では早速、どのようなものかそれがしがお見せいたすでござる」

「待て待て。お前ができることはわかっている。今度は手本を見ずに――」

「う、うぅ……」


 コガラシがポイを片手にしながら涙目で訴えてきた。

 どうやらやりたいらしい。


「わ、わかったわかった。では手本を見せてくれるか」

「承知でござるっ」


 先ほどとは打って変わって声を弾ませたかと思うや、コガラシが袖をまくった。それから目にも留まらぬ速さでポイを水中に突き込むと、クイクイと手首をひねらせてスライム破片を次々に空中に打ち上げていく。


 それらを左手に持ったカップでキャッチし、一瞬にしてこぼれ落ちるほどにスライム破片を積み上げた。コガラシが見せつけるようにしてカップを掲げ、ポーズを決める。と、またも周囲の魔物タチから歓声が沸き起こった。


 うん、知ってた。

 素直にすごいけどコガラシがこれぐらいできるの知ってた。


 その後、ワシはココとともにスライムすくいをして遊んだ。

 結果はワシは二つ、ココは一つも取れなかった。


 すくったものは袋に入れて持ち帰りができるとのことだったのでワシのをココにくれてやった。別にスライムが気持ち悪くて手元に置いておきたくないなどという理由ではない。ココが物干しそうな目をしていたからだ。


 触り心地が面白いらしく、ココはスライムをつんつんしている。

 そんなココを横目にしながら歩いていると、視界に気になる屋台が目に入った。

 そこにはマクレガに住まう魔物たちの顔を模った仮面が幾つも飾られている。


「これはなんだ?」

「お面といってこうやって被るのでござる」

「楽しいのか?」

「これ単体ではさすがに……ただ、訪れた者たちがこれらをつけていると夏祭りに来たんだなぁ、といった雰囲気を楽しめるでござる」


 つまり普段とは違う格好をして非日常を感じるということか。

 そう思えば、この浴衣とやらもそういうことなのだろう。


 ワシは今一度お面に目をやった。

 飾られているのはワシやホネロン。

 ボンバーやブリコスなど幹部の顔が多い。


 ドミコのものもあったが、なかなかに強烈だ。

 おぞましさで言えば一番は間違いなし。

 これ、買う奴いるんだろうか。


 ワシは在庫処分など絶対にせんぞ。

 そんなことを思っていると、ココが指を差しながら言った。


「ボスのお面欲しい」

「おお、ワシのを選ぶとはココもわかっておるではないか」

「一番かっこいい」

「はっはっは! そういうことだ。『一番格好良い』ワシのお面をココにくれてやってくれ」


 ココは一番格好良いワシのお面を店主から受け取ると、早速顔に被った。


「はっはっは。ワシ、一番かっこいいだろう」

「よく似ておるでござるっ、ココ殿!」


 ココの物まねにコガラシが絶賛。周囲の魔物達も「すげー似てる」「いつものボスだ」「ウケる」などと声を漏らしていた。


 え、なに。

 ワシ普段こんな感じなの。

 なんかイメージと違うんだけど。

 というかウケるとはなんだ。ウケるとは。


 なんとも消化しきれない気分に陥りながらもワシは次なる屋台を捜しはじめる。

 そして目に留まったのは棒に刺さったリンゴが並んだ屋台だ。


「これがリンゴ飴というやつか」

「はい。その通りでござる」

「こんなに大きいの食べられない」

「小さいのも取り揃えてあるわよ」


 と、だみ声がして改めて店主を見やった。


「って、ドミコ!? なぜお前が……!」

「料理全般はドミコ殿が監督してくれているでござる」


 コガラシがそう補足説明をしてきた。

 ワシはまじまじとドミコを見やる。


 下手くそな化粧にオークの厳つい体。

 とてもではないが料理が得意そうには見えない。


「ドミコよ……お前料理できたのか」

「失礼しちゃうわ。アタシ、良いお嫁さんになるよって数えきれないぐらいの男から言われてきたんだから。この子だっていつもアタシのご飯を食べて喜んでるのよ。ねー?」


 ドミコが満面の笑みを背後に向けた。

 その先には人間の少年の姿をした人形が椅子に座っていた。

 以前、ココによって作られたものだ。


「う、うん。お姉さんの料理はいつも美味しいよ」


 力なく答える少年。

 その肌はもう大半が紫色に染まっている。


 あ、やばい。

 腐りかけてる。


 ドミコが料理を監督していると言っていたが、大丈夫なのか?

 訪れた人間が食中毒で倒れたとか言ってもワシ知らんぞ!


 そんなことをワシが心配する中、ドミコが一回り小さなリンゴ飴をココに差し出した。


「はい、ココちゃん。どうぞ」

「ありがとう。ドミコおばちゃん」

「おばっ――ちょっとボスっ!!」


 ドスの利いた声でドミコが抗議してきた。

 躾がなってないんじゃないの、と言いたげだ。


 いや、ワシ知らない。

 ココもきっと思ったことを言っただけだ。


 しかしドミコを怒らせると後々面倒だ。

 主にダンジョン崩壊的な意味で。

 ここはなんとかして機嫌を取らねば、と思っていたところ――。


「ドミコ殿。以前、ココ殿から聞いたのでござるが……実はココ殿の地域では『おばちゃん』というのは村でもっとも美しい者に与えられる呼び名だったそうでござる。つまり――」

「アタシがマクレガで一番キレイだってこと? アイドルだってこと?」

「その通りでござるっ!」

「まぁっ」


 コガラシの機転によってドミコが途端に機嫌を良くした。

 両手を頬に当てながら、くねくねと身をよじりはじめた。


「あらやだっ。もう、ココちゃんったら照れるじゃない。いくらアタシがキレイだからって皆の前でそんなこと言ったら嫉妬されちゃうでしょう? ただでさえアタシの美貌は羨まれてるっていうのに」

「コガラシ。おばちゃんはそういう意味じゃ――」

「あ、あはは! ココ殿は正直者でござるなーっ!」


 ココが本当のことを言いかけたが、コガラシによって口を塞がれたことで事なきを得た。


「これからはいくらでもおばちゃんって呼んでいいわよ。もちろんココちゃんだけね」

「わかった。ドミコおばちゃん」


 そう答えると、ココは早速リンゴ飴をぺろぺろと舐めはじめた。


「甘くておいしい」


 どうやら気に入ったらしい。

 黙々とリンゴ飴に舌をはわせていた。


 ふと気になるものが映った。

 ココの舌の色だ。


「なんだその舌は? 真っ赤ではないか」

「うん……? んべー」

「はっはっは! やはり赤いぞ!」


 なんとも奇妙な食べ物だ。

 ワシも試しにリンゴ飴を舐めて舌を出してみると――。


「ボスの舌もまっかっか」


 くすくすとココが笑みをこぼした。

 こんな楽しそうなココを見たのは初めてだ。


 ダンジョン存続のために開かせた夏祭り。

 ココのためにも開いて良かったとワシは思った。


 その後もコガラシの説明を受けながら幾つかの屋台をココと一緒に見て回った。

 どれも見たことのない遊戯や食べ物だ。

 訪れるたびに新しい出会いが待っており、新鮮な気持ちで胸が満たされた。


 会場脇に長椅子や机が幾つも置かれていた。

 歩きつかれた者たちが休憩するのに持ってこいの場所だ。

 そのうちの一つにワシはコガラシやココとともに腰を落ちつける。

 ワシは一階を埋め尽くす屋台郡を視界に収めながら口にする。


「なかなかに良い出来なのではないか、コガラシよ」

「はいでござる。少し……いえ、かなりマクレガ風味ではござるが、これもまた一興かと!」


 発案者であるコガラシも納得の出来のようだ。

 これならば冒険者たちも楽しめるはずだ。


 と、ブリコスが遅れてやってきた。

 奴はなんとも派手な衣装を纏っていた。

 コガラシ曰く、半被と鉢巻というものらしい。


「チャロには一ヵ月後と言ったが、もう呼んでもいいかもしれぬな」

「ボス、今日がその一ヵ月後なんすが……」

「な、なんだと……!?」


 ワシが驚くと、ブリコスから細めた目を向けられた。


「……本日に夏祭りを合わせたのはそのためだったのですが」

「お、覚えておったぞ……うむ。ただの一度も忘れたことはない」

「そうでござる。聡明なラング様がまさか忘れたなんてことはあるわけがないでござる」


 コガラシの援護によってブリコスが追撃を止めた。

 呆れたようにため息をついていたが、きっと誤魔化せたはずだ。

 間違いない。


 そうしてワシがひやひやしていると、会場にドスドスと地鳴りが響いた。

 聞き慣れたものだ。

 これは……ボンバーの走る音だ。


 予想通り入口のほうにボンバーが顔を出した。

 奴はワシを見つけるなり、慌てて駆け寄ってくる。


「何事だ、ボンバーよ」

「先ほど人間が来ました」

「おぉ、ついにか!」

「ウス」


 とうなずいたボンバーだったが、「ただ」と言葉を繋げた。


「すぐに帰っちまいました」

「ぬぁに――っ!?」



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