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圧倒的ガチャ運で異世界を成り上がる!  作者: ケンノジ


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88話

◆Side Another◆



 王都のとある地下。

 ジギーは施設の一画にある自室で、紙束をめくりながら気難しそうに眉を寄せた。

 手にしているのは、鑑定スキルで鑑定した勇者候補生たちの情報だった。


「おやおや、旦那。また眉間に皺が出来てますぜ?」

「おまえか。……入ってくるときは、扉から入ってこいといつも言っているだろう?」


 呆れたようにジギーは後ろに立っている人物に言う。

 ミカエルという名でクリスティの監察役をさせていたはずだが、何の用だろう。


 ここは地下で、窓なんてものはない。

 出入り口は正面の扉ひとつきり。

 だが、気づけばいつも後ろから軽薄そうな声が聞こえてくるのだ。


 ジギーの目の前にいるミカエルは、七歳ほどの幼い女の子――のように見える。

 声もころころ変わるし、容姿も背丈も自在に変えられるそうだ。


 興味本位で鑑定スキルを使ったが、名前も強さも何もわからなかった。

 ……実のところ、本当の性別も本当の声も知らない。


 知っていることと言えば、大金を積めば諜報活動を完璧にこなしてくれる、ということだけだ。


「クリスティが負けたぜ? ありゃあ、もう使い物にならねえよ、旦那」

「何? ……クリスティが?」


 ジギーが驚くと、ミカエルはくすくす楽しそうに笑った。


「ガチャ荒らし――奴はホンモノだ。旦那が『作っている』勇者もどきとはモノが違う。使い物にならないって言ったのは、クリスティにガチャ荒らしが弱体化する呪いをかけたんだ」


 クシシシ、とおかしそうに笑って、ミカエルは机の上に尻を載せた。


「見ていたのなら、手助けしてやってくれてもいいだろうに」

「おっと、すまない。そいつぁ、契約に含まれてなかったんでね」


 ミカエルのことだ。加勢しようと思えば出来たが見逃した、といったところだろう。


「それで――クリスティはどうするんだい、旦那」

「……弱体化しているのなら、生かす意味もないだろう。処分する必要がある。アレは魔神対策機関のことを深く知り過ぎている」


 現状、クリスティが最高の『勇者』だった。

 ジギーとしても最高傑作だっただけに、落胆も大きい。


 だが、クリスティを倒したガチャ荒らしが、最終的に『勇者』にとって代わる存在になるのであれば、文句はない――。


「あの子を、処分してくれないか?」

「カハハハ、冗談。寝ぼけたことを言うのはやめてくだせぇ旦那。俺は面白おかしく監察してそれを旦那に報告する……それだけの仕事だったはずですぜ?」


 ミカエルは幼い少女の姿でそう言った。


 報告の一部始終を聞いていると、ガチャ荒らしの仲間に気になる存在がいた。

 もう二度と会うこともないだろう、と思っていたが、縁があるらしい。


「……今はクリスティのことだな」


 さて、どう始末しようか、と頭を悩ませたとき、ひとつ思いついた。

 手近にある紙を引っ張り出し、ペンを走らせる――。

 書きあげた手紙を読みなおし、一度うなずく。会ってくれるかどうかは、五分(ごぶ)と言ったところだろうか。



◆Side ジンタ◆



 王都観光の翌日。


 朝、扉をノックする音で目が覚めると、メイドさんが手紙を一通届けてくれた。


 冒険者ギルドから送られてくるものよりも厳重で、高価そうな封筒は封蝋で閉じられている。


「誰からだろう……?」


 封筒に差出人は書かれていなかった。

 おれは封を切り、中の手紙に目を通す。


 ――――――――


 カザミ・ジンタ殿


 突然の手紙で驚かれたことだろう。

『勇者』クリスティを倒した君に会ってみたくなり、今こうして筆を取っている次第。


 耳に挟んだところ、君は勇者ザイードのことを調べているそうだね。


 こちらとしても、公になっていない情報を提供出来るかもしれない。


 城外南側の平原に案内役の子供を立たせておく。


 もし興味があるのなら、訪ねてくるといい。



 魔神対策機関 所長ジギー


 ――――――――


「…………」


 魔神対策機関っていえば、クリスティがいた場所だったな。

 そこの所長が、彼女を倒したおれに会いたい……?


 意図がさっぱりわからないが、こっちとしては、勇者に関しての情報提供は願ったり叶ったりの話だ。


 もし何かの罠だった場合、みんなを巻き込んでしまう。

 この手紙のことは黙っておこう。


 身支度を整えると、おれは一人で屋敷を後にした。


 朝早い城下町を進み、城外に出てしばらく歩くとぽつん、と小さな男の子が一人立っていた。


「おはよう。君が案内役?」


 こく、とうなずくと、何も言わずに歩きはじめた。

 ついて行くと小さな林へ案内され、その中にある一軒の古びた家に入った。


 奥の扉を男の子がノックする。

 中へ促され部屋へ入った。


 この部屋は応接間か何かなんだろう。

 部屋は明るく家具はキレイだった。


 ソファに座っていたエルフの男がおれを見て立ちあがった。


「呼び立ててしまってすまない。それと、会えて嬉しいよ。手紙を出したジギーだ」


「ああ、どうも。風見仁太です」


 握手に応えると、ソファをすすめられて腰掛けた。

 じい、とエルフの男――ジギーはおれを見つめる。


 ほうほう、と面白がるようにうなずいている。


「確かに。これは、これは……フフ。十分務まるだろう」


 十分務まる……? 何の話だ?


「どうしておれに会いたかったんですか?」


「クリスティは、私が作った最高の勇者だった……それをあっさり倒した君に会ってみたかったんだ」


「……それだけですか?」

「もちろん、それだけじゃない。……私の願いを聞いてくれるのなら、勇者ザイードの情報を提供しよう。どうだ?」


 取引ってわけか。

 ただで情報はくれないらしい。


 ……けど、どうしておれたちが勇者の情報を集めているって知ってるんだ?

 クリスティからこのエルフに情報が伝わったんだろうか?


「ちなみに、その願いっていうのは何なんですか? それがわからない限りは承諾しようもないです」


「願いと言うのは、君がクリスティの代わりに勇者になって欲しいというものだ」

「勇者に……? おれが?」


 クリスティは魔神と戦うって話だったから、最終的にその役目をおれがやることになるのか。


「公にされていない勇者や魔神に関する情報はたくさんある。それを得られるいい機会だと思わないか。もしそうしてくれるのであれば、こちらの指示には従ってもらうが」


 要するに……首輪が付けられるってことか。

 けど、おれが考えている冒険者生活とは、ちょっと違ってくるんだよな。


 そりゃ、この世界に来たときや来る前はガッツいていたけど、リーファやクイナ、ひーちゃん、シャハルがいる。


 おれは、みんなと、自由気ままに楽しく暮らしたい。


 魔神なんて、その生活が脅かされれば倒そうとするだろうし。


 ただ、情報は欲しい……。


「ちょっと、考えさせて下さい」

「いいとも。クリスティは、強かったかい?」


「まあ、それなりに」


 それなりか、とジギーは苦笑した。


「君がいるのなら要らない子だ。自慢の『勇者』だったがな」

「え?」


「しかも弱体化の呪いをかけているそうじゃないか」


 何でそんなこと知ってるんだ。

 これもクリスティからの情報なのか……?


 そんなことよりも――クリスティは今まで勇者として自分が育ててきた女の子だろう。

 要らない子って……こんなにあっさり――!


「納得いかなさそうな顔だな。復活する魔神に備える……それが私の、この機関の至上命題なんだよ。弱者に用はない」


「要らなくなれば切り捨てるってのか」

「当たり前のことを口にするんだね、君は」


 ジギーの呆れたようなもの言いが、癪に障った。


「残念だよ、本当に。手塩にかけて育てた子だ。成長すれば君以上に――誰よりも強くなるはずだった」


「もし、あなたがクリスティを狙うっていうんなら、おれたちは彼女を守る」


「どうしてまたそんなことを。君には関係のない女だろう? いや、どちらかというと敵だったはずだ」

「敵だったけど、もうそうじゃない。今は友達だから」


 奇妙なものでも見るような眼差しでジギーはおれを見る。


「そんなこと言って、恥ずかしくないか」

「…………うるさい」


 勢いで言ったけど、今思えばちょっと恥ずかしい……。


 ああ、と思い出したようにジギー。


「妹がお世話になっているみたいだね」

「妹?」


 リーファは女神で、ひーちゃんはドラゴン、シャハルは魔女……。

 ジギーはエルフだ。

 ってなると……。


「もしかして、クイナのこと?」

「ああ、ずいぶんと会っていないけれどね。父上から手紙で許嫁が出来たと聞いた。その相手っていうのは、まさかとは思うけれど……?」


「おれです」


「やっぱり君のことだったのか。じゃあ私のことはこれからジギー義兄さんと呼ぶように」

「呼ばねえよ」


「さっぱりわからないね。あんなゴミに等しいエルフ、どうして君が選んだのか見当もつかない。あんなどうしようもない妹の何が良いんだい?」


 クイナに対して当たりがキツいというかかなりの言い草だ。

 会ってないって言っていたから、兄妹仲はあまり良くないのかもしれない。


「趣味が悪いとしか言えないね」


 妹がリアルにいる人は妹萌えしないとかいう、あの感じなのか?

 にしては、心底嫌いそうに口を曲げている。


「クイナは、美人だしお淑やかで気の利く良い娘だ。一緒にいると落ち着く。料理出来ないのがたまに傷だけど」


 あとおっぱいが大きい。

 それに何よりも、おっぱいが大きい……。


「そんなことより、君のことだ。ホモに好かれやすいのかい?」

「そんなことねえよ――断じてだ!」


 ジェラールとおれの関係(?)もクリスティから聞いたのか?


 おれがソファから立ちあがって部屋を出ようとすると、


「良い返事を期待しているよ」


 ジギーは不敵に笑いながら言った。


 こいつ、おれの元に万を超えるホモを送り込む気つもりだな……!?


「ケツには気をつけておく」

「何を言ってるんだい、君は」


 呆れ混じりの声を聞きながら、おれは林の中の家を出ていった。



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