8話
「ジンタには女神の加護があるんだから、これくらいあったりまえよね!」
喜色満面のリーファは隣を弾むように歩いている。
加護を与える側の女神様は惨敗してたけどな。
でも、こんなに喜んでくれるなら、当てた甲斐もあったもんだ。
「エルム湖ってところのそばにある木造の家なんだとさ」
「エルム湖か……。歩いて半日くらいかな」
「結構歩くんだな……車か何かがあったら便利なんだけど」
「この世界に自動車はないから、馬か馬車が一般的な乗り物になるわよ?」
うーん、おれは馬に乗れないしなあ……。
「馬車乗ろうか」
「うん。馬車はあっちで乗れたはず」
リーファマップに従って歩くと、西側の出入り口で馬車と御者のおじさんを見かけた。
エルム湖までなら、1万リンほどかかるそうだ。
歩くのも嫌だから承諾して、おれとリーファは馬車に乗り込んだ。
馬車が動き出したのはいいけど、ガタガタと結構揺れる。
ときどき尻が浮くほどの衝撃があったりなかったり。
「日本の道と一緒にしちゃダメよー? うぅぅぅ……」
「きちんと整備されてるからなぁ、現代は。おい、リーファ大丈夫か、顔真っ青だぞ?」
「こ、こんなに揺れるなんて……酔ったぁ……」
早ぇな! まだ出発して5分くらいだぞ。
そんなリーファの体調を考慮してか、馬車が止まった。
って、考慮するわけないか。……じゃあ、どうして?
小窓から外を見ると、抜き身の曲剣を持っているヒゲ面の男が何人かいた。
……うん、これ、あれですわ。盗賊の襲撃的なやつですわ。
馬で追いかけてきたらしい。
ガチャ屋で後をつけられたか、ガチャ屋が情報を流したかのどっちかだろう。
「おい、降りてこい!」
とか言われてる。
「ぎもぢ、わるい……」
おれは一人で馬車を降りた。
リーファは、まあいいだろう。どうせグロッキーだし。
周囲には、盗賊風の男たちが7人いる。
御者のおじさんは膝立ちになって両手を頭の後ろに回していた。
「おい! お前、ガチャで家が当たったらしいじゃねえか!」
リーダーらしき男が言った。
「あ。よくご存知で。すごいでしょ?」
「ああ。金石は数年に一回当たるかどうかって話だし――ってそうじゃねえよ。俺はてめえと世間話してえんじゃねんだよ」
「もしかして……家を寄越せとか、そういう話ですか?」
「話が早くて助かる。そいつを売れば、少々のカネになるからな。もらったんだろ、鍵?」
ニヤけ面のリーダーは手をちょいちょい、と動かす。
鍵を寄越せって?
……家が欲しかったのは、おれよりもリーファのほうだ。
おれだけの物ならさっさとくれてやればいい。
でも、一応、一緒に住むんだからリーファの家でもある。
こいつらなんかに、渡せない。
「兄貴ぃ!」
馬車のほうから声がして、別にいた盗賊の男がリーファを連れてきた。
もう一人いたのか。
女神様の顔がひでえ。
グロッキーな顔面をしてらっしゃる。
「ぅぅぅ……やめてぇ……揺らさないでぇ……そっとしてぇ……」
「この女どうです? すっげー上玉でしょう?」
「ほぉ、こいつはなかなか楽しみがいのありそうな女じゃねえか……!」
「やめてぇ…………こっちはキモチワルいんだからぁ……」
リーファは目をグルグル回して、へなへな、と倒れ込む。
その拍子に、手がリーダーのズボンにかかった。
ずるっ。
上手い具合にリーファがズボンを下まで引きずり下ろした。
「――っ!? こ、こいつ、ず、ズボンを離しやがれ!」
「やめてぇ…………いやあ……」
やめるのは、リーファ、おまえのほうだ。
ズボンから手を離して差し上げろ。
いや、しかし。リーダー顔真っ赤。
「兄貴……ブリーフ派だったんすか」
「見るな、見るんじゃねぇえええええ!! くそ、こいつ! 手を離しやがれ!」
「プスス、パンツ丸出し! 全然嬉しくないサービスシーン! これで兄貴とか。腹痛い! しかもいい歳して白ブリーフとか! 草生える!! 小学生かよ!!」
おれは腹抱えて地面をのたうちまわった。
やべー。こういう攻撃ズルいわー。
立ち上がれねえじゃんか。
「てんめぇええええ! ぶっ殺す!」
ようやくズリ落ちたズボンを元に戻したブリーフリーダー略してブリーダー。
顔色は怒りで真っ赤になって、ぷるぷる震えていた。
周囲の盗賊たちが一斉に殺気立った。
「兄貴を笑いやがったな! この野郎ぉおおおおおお!」
おれは目じりの涙を指ですくった。
はぁー。笑った。ここ最近一番笑った。
気づけば、みんな剣を抜いてヤル気満々な感じだった。
…………。
「――えっ? 戦うの? この状況でブリーダーと? ぶはははは、今は無理、今は無理! 顔見るだけで吹いちまうっ」
「こいつ、絶対ぇ許さねえ……!!」
えー。戦うのかよ。
――――――――――
職業:盗賊
Lv:12
HP:2777/2777
MP:80/80
力 :172
知力:21
耐久:129
素早さ:43
運 :22
スキル
恫喝
――――――――――
多少違いはあれど、だいたいみんなこんな感じだった。
Lv12ねえ。へえ……。
―――――――――――
職業:一般人
Lv:18
HP:8000/8000(3200)
MP:4000/4000(360)
力 :2980(200)
知力:2660(130)
耐久:125
素早さ:170
運 :999999
スキル
【黒焔】1/10
【灰燼】1/10
――――――――――――――――
今のおれ、こんな感じです。
せっかくだし、【灰燼】使ってみよう。
おれは腰の魔焔剣を抜いた。
「【灰燼】!」
スキルを発動させると、刀身が真っ黒な焔に包まれた。
前回同様、焔が禍々し過ぎ……。
盗賊たちが顔面蒼白になった。めちゃくちゃビビってる。
御者さんもだ!
目ぇ回しているリーファは相変わらずグロッキーだ! 土気色の顔色をしている!
ちなみにおれもビビってるからな! みんなと一緒だよ!
怖ぇえよ……この剣。
魔王が使ってたって言っても即信じるわ……。本当に勇者が使ってたのかよ……。
「な、何だその焔は!」
ガクブルっているブリーダー。奥歯がガチガチ鳴っている。
他の仲間たちは、チビるやつ続出。
何だそれ、って言われても。
……仕様です。としかおれは答えられない。
「ベヒモスを殺ったのも、おれなんだぜ? この剣でな!」
「「「「――ッ!?」」」」
リーファ以外の全員がさらに驚いた顔をする。
効果は焔を剣にまとう、程度のことし書いてなかった。
その焔の魔法が大量破壊兵器みたいなものだったし、その一部を巻き付けているって認識でいいのかな。
恐る恐る、かるーく振ってみる。
ザンッッッッ!!
大地が焼き切れた……。亀裂がぱっくり……。
それが30mくらい。
「「「「うわぁあああああああああ――っ!?」」」
みんな腰抜かした。
……おれも腰抜かしそうになった。どうにか堪えたけど。
なにこれ。すごい。
………………。
「――おいおいおい、盗賊さん。さっきの威勢はどこ行ったんだよ? あぁん?」
明らかにこっちが上と見るや否や、態度がデカくなるおれ。
「鍵が欲しいんだろ? 奪ってみろやぁああああああ!!」
「ひいっ……」
ずりずりと盗賊たちは後ろへ下がり、一斉に逃げ出した。
「「「「すんませんっしたぁあああああああああ!!」」」
呆気ないなー。ま、いっか。
「あ、ありがとう。助かったよ」
感謝してくれる御者さんに、おれは苦笑で応える。
「いえ。元はと言えばこっちが原因だったので」
御者さんはそのまま御者台に戻っていった。
剣を収めてリーファの様子を確認しに行くと、さっきより顔色がましになっていた。
なぜかおれの顔を見るなりしくしく泣きはじめる。
「おいおい、どうしたんだよ」
「連れてかれたとき……どうにゃるのかと、思ったの……ぐす」
「助けるに決まってるだろ?」
「……くすん。ありがと……」
「これでも、リーファの情報には感謝してるんだぞ? 見捨てたりしないって。今度は、揺れないようにゆっくり走ってもらおう?」
笑いながら手を取って立たせてやる。
リーファは涙をぬぐうと、ほんのちょっとだけおれに体を預けてきた。
「ありがとね……?」
控えめに手を握ってきたので、おれも握り返した。
次回の更新は、明日10時17時の2回を予定しています!
よろしくお願いしますー!