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7話



 店内に入って列の最後尾に並ぶ。

 どことなく、昨日感じた熱はなく、みんなどこか淡々とガチャを回している。


 小さくガッツポーズしたり、ため息ついたりするのは、まあ、よくある光景だろう。

 一番豪華な景品がもうないからかもしれない。


 順番が回ってくると、受付のお姉さんの前に立つ。


「いらっしゃいませ」


 顔をあげたお姉さんの表情が一瞬険しくなって、元のにこやかな表情に戻った。

 お姉さんだけじゃなく、他の店員も仕事の手を止めてこっちを見ている。


 ガチャ屋の空気がガラリと変わった。


「また来ました」

「昨日は、見事なビギナーズラックでしたね」


「どうして初心者だってわかったんです?」

「何が当たるかわからないから、と試しに1000リンを投資するのは、初心者だけですから」


 なるほど。よく見てるな、この人。


「また、『試し』にやってきたんですか?」

「いえ。今日はウチの女神様が、家が欲しいって言うんで」


 店員たちがひそひそと耳打ちをしている。


「もらいに来ました――家」


 おぉ、とおれの啖呵を聞いていた客がざわついた。


「出るといいですね」


 笑顔は笑顔だけど、どこか不敵な雰囲気が出ているお姉さん。

 当てられるものなら当ててみろって感じ。


 おれがどこか不審に思っていると、


「ここは【アイテム賭場】です。運営側に有利な仕掛けやお客様に不利になるような仕掛けは一切ございません。例外はございますが、ご安心ください」


 それもそうか。万一イカサマやってるなんて知れたら、誰も来なくなるだろうし。


「いくら投資されますか?」

「1000リンで」


「ちなみに、毎回カプセルは補充していますので、誰がいつ回しても確率は同じです」

「閉店近くに行けば良い物が出やすいなんて、セコい考えしてないんで」


 自信満々な風を装っているけど、実のところ、家を当てたいなんてあまり思ってない。

 リーファのせいで1万を無駄にしたから、ぶっちゃけもう無駄遣いしたくない。


 1万分を取り返せるくらいのアイテム当たればいいなーっていう程度だ。

 それでも、ゴミアイテムが当たる確率は高いんだろう。


 だって、お姉さんの後ろにいる店員たち、

『プスス、あんなこと言って、当たったのはゴミアイテムですって。ざまあ!』

 って、すごく言いたそう。


「では、どうぞ」


 筐体の前でハンドルを掴む。なんか、レアアイテム出ないかなー。

 リーファに応援された手前、ゴミアイテムでした、じゃカッコつかないし。


 ぐりぐり、と回すと、がらがらと中のカプセルが動く。

 ことん――。カプセルを拾って、中を確かめる。


 あ。……やっちまったかな、これ……。

 黄色じゃんか。黄色って何がもらえるんだ?


【黄色石 使い古しの皮盾】


 あー、微妙だなぁ……使えなくはないけど。

 ん。どうしたみんな? 固まって。


「あの……お姉さ――、うわ、だ、大丈夫ですか!?」


 お姉さんが立ったまま白目むいてる――!?

 リアルで白目する人はじめて見た!


 け、痙攣をはじめたっ!!!??

 ビクンビクンしてる!!


 こ、このガチャ屋にお医者様は――!?


 バタリ。そのままお姉さんは真後ろに倒れた。

 他の店員も、めまいを堪えるようにこめかみを押さえたり、うずくまったりしている。


「ひ」


 店員と目が合っただけでズザザザザザと距離を取られた。

 何気に傷つく……。


 店内の空気がおかしい……。

 みんな、おれのことを化け物かなんかみたいに見てくる。


「ジンター! どうだったー?」


 リーファが窓の外から訊いてきた。


「黄色だった」


 石を見せると、お客さんの一人が言った。


「あの、それ……黄色じゃなくて、金ですよ……?」


「へ? あ、そうなんですか。金ってはじめて見るもんでつい勘違いを……ハハハ」


 あ。ホントだ。景品表の下に見本がある。

 ん? 金? 金って何が当たったんだっけ……。


「…………」


 い、家当たっとるぅうううううううううう――!?!?


 おれがビビるわ!!


「金!? ホントに!? すごいじゃん、ジンタ! 家だよ、家っ!!」


 喜びいっぱいのリーファは、また外できゃーきゃー騒いでいる。


「あ、当たりました」


 ガッツポーズすると、パチパチパチ、とお客さんたちから拍手された。

 どうも、すみません、なんか。また当てちゃって。ははは……。


 険のこもった視線がいくつもこっちに飛んでくる。

 どれもこれも店員からだ。


 え。なに。何か文句あるワケ?


 お客様は神様って言葉知らねーの? ねえ? んん?


 ゴミアイテムが当たると思った?

 残念、家でしたー!


「こ、こちらへどうぞ……」

 別のお姉さんが声を震わせながら奥の部屋へとおれを案内した。


 なんか、怒りを堪えているような。けど、怒るのも仕方ないか。


 景品をエサにしてみんなにガチャしてもらうものなんだし。

 案内されたのは、昨日通された事務室だった。


 お姉さんが金庫の中から鍵を持ってくる。


「場所は――」


 地名は聞いたけど、どこにあるのかさっぱりわからない。あとでリーファに訊こう。

 また地下道へと促される。


「帰り道、くれぐれもお気をつけくださいね?」

「はい」


 何かされるのかと思ったけど、そんなこともなく、地上に出てリーファと合流した。



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