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6話

 町を歩いていても、この世界基準の普通の人に見えるようになったみたいだ。

 最初来たときは、チラ見の嵐だったもの。


 それでも、隣を歩くリーファに集まる男どもの目線の数は減ることはなかった。

 顔が良いとかそういうのもあるけど、なんかちょっとしたオーラがある。


「さすが女神様……」

「何か言った?」

「いや、何でもない」


 道具屋を出てしばらくは、よそよそしい態度だったリーファ。

 でもこの格好に見慣れたのか、今ではもういつも通りだった。


「永晶石を買い取って、あのおばちゃんはどうするんだろう?」

「あぁ、それを国に後で売り渡すの。前、特別な道具があれば魔力を抽出できるって言ったでしょ? 悪用を避けるために国が魔導器を管理しているんだけど、有事のときのため抽出した魔力を溜めこんでいるの」


「有事のとき?」

「うん……戦争とかね。魔法使うためのエネルギーみたいなものでしょ、魔力って。ステータスで言えばMPだけど。アルガスト王国では、それだけ魔法使いの『火力』を重要視してるの」


「じゃ、永晶石はおれが直接持ち込んでもいいワケだ」

「それがね、出来ないようになってるのよ。鑑定資格っていう公式の資格があって。それを持っている人じゃないと取引はさせてもらえないの。ロクデナシが、色を誤魔化して売りつけようとするでしょ?」


 なるほど。そんなふうになってるのか、永晶石を売った後って。

 町を歩いていて聞こえてくる話は、魔焔剣を当てたやつが出たって話題ばかりだ。


「【アイテム賭場】ってボロ儲けだよな。みんなお金を使っていくし」


 宝くじを感覚に近いのかな。

 おれがぽつりと言うと、リーファが応えた。


「そのお金で、有名ギルドに依頼してレアアイテムの探索をしてもらったり、他の武器屋から持ち込まれたアイテムを買い取ったりしてるのよ」


「そういう仕組みなのか。けど、暴動とか起きないの? 景品が当たらねえぞって」

「だから、極々まれに、大当たりを出すんじゃない」


 それを見たり聞いたりした人たちは希望が湧いてくる、自分も当たるかもしれない、と。

 そんで、またガチャに投資するワケだ。なるほどー。


「けど、おれの魔焔剣とか景品にしても良かったのか? おれみたいに使える奴で、そいつが悪い奴だったら相当ヤバい代物のような……。悪用されたらどうするんだろう」


「ベヒモス倒したって聞いたあたりで何かおかしいなぁって思っていたんだけど……。その剣のステータスってどうなってるの?」


 不思議そうな顔をするリーファに以下を伝えた。

 HP+4000 MP+3000 力+2000 知力+1500


「………………ジンタそれ、本来のスペックの10倍……」

「ふぁ!?」


「ゼロ一個多い。……なんでだろう??」

「原因があるとしたら、やっぱり限界突破した【運】の数値にあるんじゃないか?」


「【運】で武器のスペックを10倍、なんてことは出来ないけど、そもそもジンタ自身がイレギュラーだから、その不規則性と限界突破した【運】が武器をおかしくさせているのかも。剣が抜けるってことも含めて」


「じゃおれが持ってないと、このスペックにならないってこと?」

「試しに私に貸して?」


 おれが魔焔剣を渡すと、リーファは眉を寄せた。


「どうかした?」

「え? ううん……なんかこの剣、変な感じしない?」

「変な感じ?」

「不快っていうか、気分悪くなるっていうか……」

「そうか?」


 リーファは気のせいかしら、と納得いかなさそうに唇を曲げた。


――――――――――――――――

種族:神族

名前:リーファ

Lv:1

HP:11/411

MP:14/314

力 :203

知力:153

耐久:2

素早さ:1

運 :1


スキル

【黒焔】1/10 消費MP-

【灰燼】1/10 消費MP毎分15

――――――――――――――――


「あ、ステータス、おれが装備したときのちょうど10分の1。消費分もだ」


 リーファが剣を抜こうとするが、ビクともしなかった。


「やっぱりダメね……。何なのかしら、収めているだけで感じるこの邪気……」


 ステータスを見ても、剣がどうしてそうなったのか、なんて説明はない。

 ていうことは、リーファもこの剣についてそれ以上のことはわからないんだろう。


 魔神を倒したのが、最初の持ち主である勇者らしい。その後持ち主たちが転売を繰り返したそうだけど、謎の多い剣だな、これ……。


 リーファから剣を返してもらい、腰に戻した。


「……ところでジンタ。今の所持金はいくらなの?」

「何で急にそんなこと訊くんだよ?」


「あのぅ……、一回私もやってみたいんだけど……」

 ちょん、ちょんと袖を引っ張ってくるから、何かと思って歩くと。


【アイテム賭場】に連れてこられた。


 ……なに? やりたかったの?

 瞳を爛々と輝かせながらリーファは言う。


「私女神だし、イケると思うの!」


 いや、イケねーよ?

 レベル1だってお伝えしましたよね??


 何でそんな自信満々なんだよ。それで残金訊いてきたのか。


「何か欲しいモンでもあるの?」

「これ!」


 ズバッと指差した先にあるのは、【金石 湖畔の一戸建て(推定価格約1千万リン)】。


 ちなみに一番上の【魔焔剣】のところには大きく二重線が引かれている。

 その節はどうもお世話になりました。


「家か……ずっと宿生活ってワケにも行かないのは確かだけど……」

「ね? ね? 重要でしょ?」


 こいつ、家を口実にガチャやりたいだけなんじゃ……?

 おれがガチャやるときは散々無駄遣いすんなって言ってたクセに。


「そんな簡単に当たんないって。リーファの【運】の数値【1】なんだぞ? ムリムリ」

「やってみないとわかんないじゃない! だから一回だけ!」


「まあ、おれもやったし……一回だけだぞ?」


 アイテムボックス――略してアイボから財布を取りだす。

 1000リンを渡すと、リーファは不満そうに唇を尖らせる。


「1万リンのほうがお得なのよ、ジンタ」

「わかった、わかった」


 1万リン札を渡してやると、無邪気な笑顔をのぞかせた。


「ありがとっジンタ!」


 コホン、とおれは咳払いする。


「ガチャをする町の人は、おれの御利益に預かろうとしておれに抱きついてきたんだが、リーファもどうだ?」


 正確には握手だけど。


「イヤッ。なんかエロいこと考えてそうだから」


 なんでバレたし。


「そんな胡散臭いジンタの御利益なんかよりも、本物の女神の力ってやつを見せてあげるわ」


 そう言い残して、リーファは意気揚々と店内に入っていく。


 盛大にフラグ立てて行ったけど大丈夫か……?

 店内は昨日ほどの人はいないけど、それでもお札を握りしめた人たちが列をなしていた。


 しばらくすると、ガラッとリーファが中から出てきた。


「お。どうだった?」


 11個のカプセルと引換券を抱いているリーファはすでに半泣きだった。

 ……きちんとフラグ回収してきやがった。


「ねぇ……もう一回! もう一回やったら絶対出るからぁあ!」


「出ねえよ。そういうこと言う奴は一生出ないって相場が決まってんだよ」


 まともなアイテムなら、カプセルの中には色付きの石。

 それ以外のゴミなら、適当な字で景品名が書かれた引換券が入っているんだけど……。


 何当てて来たんだ、このポンコツ女神様は。


【N 平原の石ころ】×5

【N カビの生えた雑巾】×3

【N 落書きに使える枝】×3


 掛け値なしのゴミアイテム……つかまんまゴミ。頭抱えるわ……。


「――そ、そんなに落ち込まないでよっ! つ、次は当てるもん!」


 良いカモかよ。


「どうすんだよ。1万リンつったら、あの宿にもう1泊してまだ2千余ったんだぞ? ちょっと美味しそうなおやつとか買い食い出来たんだぞ?」


「お、おやつ……。で、でも家を当てれば全部チャラなんでしょ? やったげるわよ」

「やらせないから」


 リーファはしょんぼりと肩を落とした。


「昨日と立場がまるっきり逆だな」

「……私は、ちょっとでもジンタの負担を減らそうって思っただけなのに……お金だってすぐなくなっちゃうだろうし……」


 ……急にしおらしくなると、なんか調子狂う。

 むしろこの感じ、悪いのは金渡さないおれのほうな気が。


「なあ、リーファ。家が欲しいのか、ただガチャしたいのか、ぶっちゃけどっち?」

「家に決まってるでしょ!」


「じゃ、別におれが家を当てても問題ないわけだろ?」

「んー、それはちょっと違うっていうか……」


 気持ちはなんとなくわかる。

 自分で当てた、っていうのは結構気分が良いから。


「それに、ジンタ意地悪だから家を当てても、『ココ、おれんちなんですけど? おまえの家じゃないんですけど?』って言いそう」


 なんだ、その似てないおれのモノマネは。


「そんな意地悪言わないって。もし当たったら、一緒に住めばいい」

「あう……っ、わ、私もそのぅ……そのつもりだったんだけど……、なんだろう……言葉で言われると、なんか、照れるかも……えへへ……」


 はにかみながら女神様は言う。


「待ってろよ。家じゃないにしても、売れば当面金の心配しなくてもいいレベルのアイテム当ててくるから」


「うん、がんばってね!」


 女の子の素直な応援って、なんでこう男をやる気にさせるんだろう。


 ……当ててくるとは言ったけど、大丈夫なのか、おれ。

 さっき自分で言ったセリフは、失敗フラグだったのではないでしょうか。


 前回のは、超絶ビギナーズラックだったのではないでしょうか。


 でも、やるしかない。



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