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5話


「私、ジンタのお手伝いしようと思うの!」

「……何だよ急に。まあ座れよ。みんな見てるし」


 ガタッと立ち上がったリーファにむかって言った。

 朝食中にいきなり何を言い出すのやら。


 みなさん、朝っぱらからお騒がせしてすみません。


「手伝うって、何を?」

「冒険者になるんでしょ? だから、その手伝い」


 寝起きしばらくは、おれもリーファもお互い意識しまくり。

 目が合うたびに慌てて目をそらすの繰り返し。

 一言もしゃべらなかったけど、朝食をとるころには元の調子に戻っていた。


「他に行き場所なんてないし、巻き込まれたのも何かの縁ってことで納得することにしたの」


 リーファが教えてくれる情報は、かなり役立つ。

 この世界の外の存在だからなあ……おれもそうだけど。

 地形と魔物のことをナビしてくれれば、ダンジョンの難易度がぐっと下がりそうだ。


 それに、リーファみたいな可愛い子が手伝うって言ってくれるのは素直にうれしい。


「手、出して。改めてよろしくね!」

「うん、こちらこそよろしく」


 改めておれたちは握手した。

 朝食を終えて宿屋をチェックアウトすると、おれたちは道具屋へむかうことにした。


「また永晶石を換金するの? って、いつ魔物倒したのよ」

「ああ、夜のうちに。ベヒモス? だっけ、あのでかいの」


「へ? ベヒモス? あれを?? ジンタ一人で???」

「うん」

「またまた、そんな嘘ついてー。あのサイズを一人でなんて無理無理」

「よいしょっと」


 アイテムボックスから鱗やら牙やらを取り出す。


「嘘じゃないぃいいいいいいいいっっ!?」


 ひっくり返りそうなほど仰天するリーファ。

 良いリアクションするなあ。


「ガチャで当てた剣あったろ? そいつでドカンと」

「うーん、本物っぽいわね……この鱗とか。にわかには信じられなかったんだけど、本当に倒してきたのね、ベヒモス……。剣、使えたんだ?」


「普通に使えたぞ?」

「良かったわね、使えて」


「うん。なんか、チョイだったぞ。ベヒモス倒したとき。チョイ」

「チョイ? そんな簡単に倒せるわけないじゃない」


 つってもな……そうやって倒したんだけど。

 そこれもこれも剣のお陰だ。

 この剣が使えるんなら、おれじゃなくたってベヒモスは倒せただろう。


「どうしてみんな、使えないんだ?」

「鞘から抜けないらしいの。それで転売の繰り返し」

「それで……。おれは普通に抜けたんだけどな……」

「どうしてジンタは使えたのかしら」


 ステータスには詳しいことは書かれていないから、リーファにもわからないようだ。

 結果としての事実や世界的な常識や情報はわかるけど、どうしてそうなったのかという過程は、天界にいてもわからないそうだ。


 お互い首をかしげなら、町を歩き昨日と同じ道具屋に着いた。

 店内は教室半分くらいの広さで、様々な薬や雑貨、日用品などが棚に並べられている。


「まいどどうもぉ」


 カウンターに座る店主らしき人の挨拶に、おれも「ども」と簡単な会釈を返す。


 短めの髪に両耳にピアスをしている。

 判断に困るけど、この人は、おじさん風のおばさんだ。


「持ってきた物を見てもらえますか? 値段次第では売却したいんですけど」

「いいわよぅ。どれ? 見せてみなさい」


 おれはベヒモスセットをアイテムボックスから取り出し、カウンターに載せる。


「あらぁ、どこから出したのよぅ?」

「あーええっと、そういう魔法です」


「ずいぶん便利な魔法ねぇ。――って、アナタ、今噂のベヒモスの鱗じゃないのよ」


 噂?


 昨日この世界に来たばかりのおれたちがそんなのこと知るわけない。

 ナントカカントカっていう人たちが討伐に失敗したっていう話は聞いたけど。


「何の噂? 私たち、この町に来たばかりなの」


「あら、そうなの。……どこにいたベヒちゃん?」


「そこの平原にいたやつです」


「やっぱりぃ? あなた、冒険者には見えないけれど……。ベヒちゃんがクエスト対象の魔物だっていうのは知ってて?」


 そうなの?


「知らなさそうねぇ。難易度は上から二番目のSSなのよぅ?」


 ……マジですかい。

 でかい魔物だったし、おっかない雰囲気だったけどそんなに強い魔物だったとは。


「これねえ、アタシのところで売っちゃあダメよぅ? これ、クエストの成果みたいなものだから。……だけれどアナタたち、クエストを受けていたわけじゃあないんでしょう?」


「はい」


「そうよねぇ。クエストを受けるには最低40人の冒険者が必要なんですもの」


「「…………」」


 40人も……?


 確かに、はじめてベヒモスを見たとき戦っていた人は、それ以上いたかも。


「冒険者ギルドのほうへ持って行きなさい、これは」

「わかりました。それと、服を買いたいんです」


「あら。それなら良い物を見つくろってあげる」

「あまり高いのじゃなくて、ユ○クロ的なやつで――」


 あ。ユ○クロなんてあるわけないか。ここ異世界だってのを忘れてた。


「なかなか良いセンスしているじゃない。ユ○クロを選ぶなんて」


 あるんかい!


「ジンタ、よくユニバースクロースのこと知ってたわね?」


 はい? ゆにば……? え。なに。


「ここ最近、有名になった服飾専門ユニオンのことで、略してそう呼ばれてるの」


 この世界にも、ユニ○ロがあるのか。

 おばちゃんの呼ぶ声がして奥へ行くと、何着か用意してくれていた。


「こういうのとか、いいんじゃないかしら? 彼女も喜ぶんじゃない?」

「いやっ、ちが、リーファとはそういうんじゃ、ないんで……」


 そんな風に見られてたのか。なんか恥ずかしいな……。

 オススメの一着を渡されて試着室で着替えると、サイズはちょうどだった。


 襟付きのジャケットにシャツ。下は細身のジーンズにブーツ。

 不思議と堅苦しくないし、肩や脚も動かしやすくて良い。

 ベルトも剣を吊るための仕組みになっていてかなり便利だ。


 似合っているかどうはわからない。元々ファッションに興味あんまなかったし。

 値段は1万2千リン。上着にズボンにシャツに靴を揃えてこれなら安いほうだろう。


 買うことにして表に出ると、店内を見回っていたリーファが戻ってきた。


「もー、いつまで時間かけてるのよ」

「そんなに時間かかってないだろ。せいぜい10分だ」


 こっちを改めて見ると、あ。っていう顔をするリーファ。


 服、変だったかな……?


「どぉ? いいでしょう?」


『なにそのカッコ! あはは、微妙ー!』


 みたいな反応だろうなー、と思っていたら。

 チラッとこっちを見て、小さくリーファがうつむいた。


「…………カッコいい、です……」


 すごく小さな声だったけどそう聞こえた。


 や、やめろよ、リアクションに困るだろ! カッコいいとか言われ慣れてないんだから!


 ちょ、おばちゃん。おれたち見ながらニヤニヤすんな!

 その生温かい眼差しをやめろ!


「はぁー、ステキねえ、若いって。いいモノ見せてもらったし1万にまけてあげるわ」


 見せモンじゃないんですけどねえ? でも、安くなったからいいや。


「冒険者ギルドに報告するときに、絶対必要になるから書いてあげるわねえ?」


 そう言って、おばちゃんは用紙にさらさらとベヒモスの鑑定書を書いてくれた。

 永晶石を換金して、おばちゃんにお礼を言っておれたちは店を後にした。



次回も明日17時更新です!

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