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4話

 一泊二食付きで8千リン。

 リーファいわく、どこもこんな感じの値段だそうだ。


 二人でこの値段なら日本と同じくらいか、それよりも安いかも。

 まず食事することにして、飲み屋も兼ねている一階の食堂に入った。


「魔焔剣を当てたやつが出たらしいぜ?」

「マジかよー。おれ狙ってたのに」


 すでに飲み食いしている人たちがそんな話をしている。

 当てたの、おれなんです。ぐふふ。ニマニマが止まらない。


 席に着くと宿泊客用の夕食が出された。

 パン二つにスープとパスタ。


 さっそくリーファはパンにかじりつく。

 おれもパンを食べ、ジャガイモのスープを飲む。

 うん、美味い。口に合わないかと思ったけどそんなことはなくてひと安心。


 夕飯を食べ終えたおれたちは、二階の一室へ入った。

 ばふっとリーファがベッドに飛び込む。


「はー、お腹いっぱい~。天界から連絡はないし、本格的にこの世界でやっていくことになりそうね……」


 おれも別のベッドに腰掛けた。


 隣のベッドで美少女がごろごろしてる。

 女神ドレスから伸びる細い脚。真っ白な太もも。小ぶりなお尻。

 どうしてもチラチラと目がいってしまう。


 落ち着かねー!


「ねえジンタ、これからどうするの? 冒険者にでもなるの?」

「冒険者っていうと、魔物を討伐したり宝探ししたりしてクエストをこなすあれのこと?」

「そう。能力さえあればお金も稼げる。もちろん、安全な仕事じゃないけど」


「危険上等」

「ふうん……そう……」


 そのまま、リーファは眠ってしまった。


 おれも寝ようかな。結構疲れたし。

 けど……思った通り、全然寝付けない。


――――――――――――――――

種族:人間

名前:風見仁太

Lv:1

HP:3012/4012

精神:2007/3007

力 :2009

知力:1506

耐久:5

素早さ:6

運 :999999

スキル

【黒焔】1/10

【灰燼】1/10

――――――――――――――――


 HPもMPも結構回復してる。

 ……どうせ寝付けないし、魔焔剣を試しに行こう。


 宿を出て、レフォン平原に続く町の出入り口を目指す。


 ほとんど町は寝静まっているけど、酒場にはまだ明かりが灯っていた。

 出入り口が近づくにつれて、警備兵らしき人が二人立っているのが見える。


 盗賊対策とか、そんなところだろう。おれ、怪しいヤツって思われないかな。

 身分証とかもないし、服装も社畜コス(カッターシャツにスラックス)のままだ。


 ここは、同僚風のこなれた挨拶ですり抜けるしかない――!


 警備兵の二人はあくびをしたり、話をしたりして退屈を紛らわしている。


 よし――。

「つかれぇーっす」


「おう、お疲れ」


 よし、通れた! このままサクサク立ち去って――


「おい、あんた」


 げ。


「もしかして――昼間のあんちゃんか?」


 ん? あんちゃん? あ。この人、ガチャ沼にハマってた旦那さんだ!

 防具つけて、THE兵士みたいなカッコしてたから全然気づかなかった。


 昼間ガチャ屋にいたのは、今日夜勤だったからか。お疲れ様です。


「えと、どうも」


 軽く会釈していると、旦那さんが同僚にガチャ屋の出来事を説明しはじめた。


「え。じゃ、この人が特賞を一発で当てたっていう、あの?」

「ああ。スゴかったんだぜ? オレにゃあ、ちょっとしたオーラみてぇなもんが見えたもんさ」


 おぉー、と同僚さん。

 ……そこ、そんな感心すること?


 同僚さんがずいっと近寄って、おれの手をぐっと握った。


「おーし! これでおれも何か良いアイテム出るかもしれないな!」


 おれ、なんか縁起物的な扱いされてる。

 旦那さんも「じゃオレも」とついでに握手。


「あんちゃん、こんな時間にどこ行こうってんだ? 夜はあまりレフォン平原に行かないほうがいい。ベヒモスがいるの知ってるだろ?」


「ちょっとした散歩なんで、大丈夫ですよ」


 おれはそう言って町を出た。

 あんなふうに脅されると、パンピーとしてはかなりびびる。


 こちとら、戦った経験はゼロなんだ。あのゴブリンはノーカウント。

 でも、冒険者としてこれからやっていくんなら、ちょっとくらい経験積んでおかないと。


 月明かりを頼りに道を進んでいると、黒い大きな岩のようなものが遠くに見えた。


 でっかい岩だな……。

 あんなところに岩なんてあったっけ?

 ま、いいや。


 柄に手をかけて、一気に鞘から剣を引き抜いた。


「……? リーファ、使えないって言ってたけど、使えるんじゃないのか?」


 よし、あの岩にむけて軽く試し撃ちしてみよう。


「……超長距離から撃てるって話だったよな、魔法」


 つか、どうやって撃つんだ?

 これだけでもリーファに訊いとけばよかった。


 剣を抜いて体の前に立ててみる。


 すると。足元に真っ赤な魔法陣が広がった。


「うわ。すげー、魔法使いみたい!」


 子供みたいな感想だと自分でも思った。

 やっぱ使えるんだ、この剣。


 剣を見れば、禍々しい黒い焔が刀身を包んでいる。

 撃てるのか……? てか、当たるのか?


 体の中からごっそり力が抜けていくような感覚がある。

 どうやら、MPが吸い取られていっているみたいだ。


 刀身には、いつの間にか剣の根元から切っ先にむかっていくつも赤黒い魔法陣ができていた。

 剣を上段に構えて、スキル名と共に振り下ろしてみた。


「【黒焔】!」


 瞬間、焔が剣先に収束し、黒い炎弾となって放たれた。

 炎弾は唸りをあげて、一直線に岩へ飛んでいく。


 ドガァァァアアン!


 直撃したと思った直後、真っ黒な光が夜を塗りつぶす。

 轟音が響き、凄まじい衝撃波が原っぱを駆けた。


「グガァアォオオオオオオンンンンンンン――ッ!????」


 岩だと思ったそれが大きな悲鳴をあげた。

 手があって、足があって、尻尾があるのが見える。

 ……あれ……岩じゃないの?


――――――――――

種族:巨竜種

Lv:60

HP:0/28600

MP:590/590

力 :710

知力:211

耐久:474

素早さ:189

運 :46

――――――――――


「――あ。ベヒモスだった」


 岩じゃなかったのか……てかHPゼロになってるんですけど!?


 もくもくとあがる土煙の中で、ベヒモスは黒い炎で焼かれて塵になった。

 一帯の煙が晴れると、あたりには100mほどの巨大なクレーターができていた。


 あんなに強そうだったベヒモスは、永晶石を遺して跡形もなく消え去っていた。


「ナニコレ」


 さっきの魔法、ちょっと可愛い核兵器じゃねーか。

 狙いがどうとか関係ないですね、これ。


 超長距離+超広範囲+超絶破壊力


 戦闘素人のおれにも、安心して魔物をやっつけられました。


 周囲の草や樹木は例外なく塵になっている。


 もう、【燃える】っていうレベルを通り越してる……。


 クレーターの中を進んで、爆心地にやってくる。


 落ちていた永晶石の色は、今回も白銀だった。


 一応おれが倒したんだし、回収しておこう。


 遠くからじゃわからなかったけど、ベヒモスの破片がところどころに落ちていた。

 牙らしきもの、角らしきもの、鱗などなど。


 これも回収しておくことにして、全部アイテムボックスに放り込んでおく。

 あ。ベヒモス倒したおかげでLvが18になってる。


――――――――――――――――

Lv:18

HP:3220/5400(1400)

MP:329/3600(600)

力 :2200(200)

知力:1650(150)

耐久:120

素早さ:170

運 :999999


スキル

【黒焔】1/10

【灰燼】1/10

――――――――――――――――


 耐久値も素早さもそれなりの数値になってきた。

 でも、さすがにMP消費が激しい。

 もうちょっと加減出来たらよかったんだけど。


「けど、初めてだし、上出来だろう」


 焦げ臭さの残る平原に背をむけ、来た道を戻り、町へと帰ってきた。

 町をでてから、まだ15分も経ってないだろう。


 さっそく見張りで入口に立っていた旦那さんと同僚さんに見つかった。


「おいあんちゃん、大丈夫だったか!? さっきすげー音がしたが……」

「ああ。あのベヒモスをちょっと倒してきました」


「「なにぃいいいいいいいいいいいいいいい!?」」


 声ぴったりだ。


「ベ、ベヒモスっていやあ、今日あの【クレセントライツ】が討伐に失敗したんだぜ……?」

「くれせん……え、誰ですかそれ」


「兄さん知らねえのか。ランキング4位の超有名討伐ユニオンだ」

「でも、ほらこれ。角とか、鱗とか、牙とか」


 アイテムボックスから一個ずつ出して見せる。

 爆風のせいか服が焦げ臭くなってる。こりゃ、新しい服買わないと。


「じゃ、じゃ、何か? さっきのドでかい音はあんちゃんがやったっていうのか?」

「あ、はい」


 同僚さんは目を白黒させながら後ずさっている。


「クレライが7時間戦って倒せなくて撤退したのに……」


 旦那さんは、唖然とおれを見つめている。

 おれにそんな趣味はないから、じっと見つめるのはやめてほしい。


 魔法を使ったこともあって、いい具合の疲労感がある。

 これならベッドに入れば即眠れそうだ。


「じゃ、おれは宿に戻ります。おやすみなさい」


 唖然としている二人に別れを告げて宿へむかう。

 部屋へ戻ると、リーファが起きていた。


「どこ行ってたの……?」


 ん? なんで涙声?


「ちょっと外に。なんか寝付けなくて」

「私を置いてどこか行っちゃったかと思ったじゃない……一人にしないでよ」


「そのくらいで泣くなって」


 リーファのベッドに座り金色の頭を撫でてやった。


「泣いてないわよぅ……」


 とか言いながら鼻をすすって目元をぬぐっている。


「泣いてるじゃねーか」


 むう、とリーファがこっちを見つめてくる。

 あれ。意外と顔の距離が近い。


 暗がりなのに、綺麗な顔の造りをしているっていうのがよくわかる。

 リーファの顔が真っ赤なのがすぐわかった。


「わ、私、あ、あっちで寝るからっ」


「え。それならおれがあっち行くから、リーファはこのベッドで寝れば――」


 移動しようとするリーファを引き寄せようとすると、ちょっと強かったみたいで。


「え? わわっ」

「――」


 むちゅ、と次の瞬間には唇同士が衝突していた。


「んっ……~~っ!?!?」


 目が合うと赤い顔のままリーファはグルグルと目を回しはじめ、そのままベッドに倒れた。

 い、今のは……。…………、き、キスで、いいのか……?

 訊こうにも相手は目ぇ回してるし……おれもなんか顔が熱い。


 きょ、今日はもう寝よう……。



「…………………………………………………………」



 魔法使おうが何しようが、結局、全然眠れない転生初日だった。


次回も明日17時頃更新予定です!

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