2話
ドンッ!
「いってぇえ!?」
尻もちをついたおれは声をあげた。
あれ。転生ってか、まんま転移してないか?
体のサイズ感も生前と一緒だし。
転生っていうよりは、この異世界でリスタートって感じなのかな。
「ま、いっか」
周囲は見渡す限り原っぱばかり。
大きな風車があったり、小川があったり、どこか牧歌的だ。
もちろん日本の景色じゃないし、空を見上げれば翼竜が飛んでた。
本当に異世界に来たらしい。
ん? なんかケツのあたりがモゾモゾする……。
「ギャギャ……ギャ……ギ……」
下を見ると、尻の下にゴブリンらしき魔物が敷かれていた。
「うわっ生ゴブリン!?」
おれは慌ててそこをどいた。
小型犬より少し大きいくらいの体格をしている。
どうやら、尻もちついたときに下敷きにしてしまったらしい。
「ギ、ギギ……」
なんか、苦しんでる?
ガクッ
――――――――――――――――
種族:ゴブリン(一般)
Lv:2
HP:0/9
MP:2/2
力 :7
知力:1
耐久:5
素早さ:2
運 :5
――――――――――――――――
あ、逝った。HPゼロだ。
意識的にそれを見ようとすると、ステータスが見えるみたいだ。
ゴブリンは口から何かを吐き出すと、そのまま動くことはなくなった。
おれなんかのヒップドロップで死ぬなんて、ちょっと可哀想だな、あのゴブリン。
近づいて吐き出したものを手に取ると、銀色のキレイな石だった。
「なんだ、これ?」
何かは知らないけど、ポケットに入れておこう。
これが何なのかは、町かどこかで人に訊けばいいや。
「さて……なんか知らない間にファーストバトルが勝手に終わったんだけど……。これからどうすればいいんだ?」
町に行けば何かしら情報が得られるだろうし、町に行こう。
でも、どこにその町があるのかまったくわからない。
一応、道があるからそれに沿って歩けば……。
食糧とかどうすんの?
「自給自足? え、マジで……?」
異世界ハード過ぎんだろ。
あ……すいません、ティッシュに転生したみなさん。
ティッシュ1枚に比べればベリーイージーですよね。
ステータスのレベルや体力とかに文句はないけど【運:999999】って何でこうなってんだ?
事情を訊こうにもその女神様がいない。
と、思っていると、
ドシンッ!
「いったーいっ」
物音と声に振り返れば、女神リーファがお尻をさすっていた。
「もうー。巻き込まれちゃったじゃない……。もしもし、死生課のどなたか聞こえますか? こちら死生課の女神リーファ。天界への転移をお願いします。――あれ、おかしいな? もしもーし? あれ……通じてない……!?」
「おーい、何してんだよ?」
「あ! さっきの……! えっと……」
「ジンタでいいよ。誰に話かけてたの?」
「交信して天界に転移してもらうつもりなんだけど……誰かさんが強引に転生するから……天界と交信出来なくなっちゃってるの……」
「思ったんだけど、もしかしてバグったんじゃないのか?」
「そんなはずは……。あれ、ステータスが見えない……女神は絶対に見えるのに」
「おれのステータス、運が999999になってるんだ」
「え? 運の数値はMAX99よ? それに、何でジンタがステータス見えるの?」
……原因があるとすれば、おれが無理に転生ボタンを押したことだ。
大変なことになるって言っていたし。
リーファはもう半泣きの状態だった。
「え~、どうしよう……ジンタが無理にボタン押すから……私、帰れなくなっちゃったじゃない……」
「……それは、本当に悪かったと思ってる。巻き込むつもりはなかったんだ」
おれが小さく頭をさげると、ため息が聞こえた。
「もういいわよ……」
「おれはこの世界で生きていくつもりだけど、リーファはどうする? 天界からの連絡待ってみる?」
「う~ん……連絡はどこでも受け取ることができるから……」
リーファは困ったような思案顔をする。
おれが原因だもんな……ここにいるのって。
「じゃあ一緒に来る? 多少のお詫びくらいは、出来るならさせて欲しい」
「……そういうことなら、じゃあ、ちょっとだけ」
きちんとリーファを視認すると、ステータスが見えた。
――――――――――――――――
種族:神族
名前:リーファ
Lv:1
HP:10/11
MP:14/14
力 :3
知力:3
耐久:2
素早さ:1
運 :1
――――――――――――――――
ずいぶん低いけどこれが女神のステータスなのか……?
さっきのゴブリンと大差ないぞ。
「ちなみにだけど……、リーファって、レベルいくつなの?」
「私? 上限の999だけど?」
「ちなみに、運っていくつだった?」
「98」
ってことは、おれの運の数値は、リーファのステータスが一部移ったってことでもないのか。
「あのな……リーファのレベル、今、1だぞ」
「え…………力、無くなってるの?」
リーファががっくり落とした肩をおれは叩いた。
「……元気だせ?」
「ジンタのせいなんですけどっ」
「ごめんごめん。……まあ、怒るなよっていうほうが無理か……」
まったく、とリーファは息をつく。
「でも、ジンタは幸運ね。私としばらく一緒だなんて」
「何で? リーファが美少女だから?」
ぽふ、とリーファの白い顔が赤くなった。
「そ、そ、そ、そういう意味じゃないわよ! ……私、この世界の地理地形、町の名前や魔物のこととか、この世界の知識や常識は全部全部わかるのよ?」
ふふん、とリーファはドヤ顔でおれを見てくる。
「さすが女神様」
「簡単に言うとステータス上の情報と世界的な事実や常識はわかるから。けど、もう天界にいないから、変動した情報はわからないんだけどね」
そう言って、リーファはチロっと舌を出した。
リーファの話によると、歩いて約2時間のところにホヒンという町があるらしい。
そこへまずむかうことにして、おれはその道中にこの世界のことを色々と教えてもらった。
この世界【リバリア】は、いわゆる剣と魔法のファンタジー世界。
今歩いているここは、アルガスト王国北東部にあるレフォン平原というらしい。
「敵を倒せば能力もあがるし、ドロップアイテムだってある。今は魔王とかトンデモ野郎がいるわけじゃない平和な時代よ。ただ、レベルとかステータスとかは私たち世界の外から来た存在しか知らないからね?」
「魔王はいないのか。……そういやこれ、ゴブリンから出てきたんだけど」
おれがポケットから銀色の石を取りだしてリーファに見せた。
「あぁ、これは永晶石って言って魔物からドロップするんだけど――って、白銀じゃない!」
「?」
「色によってレア度が変わるんだけど、上から二番目に白銀はレアなの」
「へえー。で、これって何に使えるの?」
「魔力の結晶体でもあるんだけど、特殊な道具がないと抽出できないから、普通の人にとっては売却素材よ。好きな人は集めたりするみたいだけど。白銀だと売れば10万リンくらいになるはず」
「リン?」
「10万リンは、日本円で10万円よ」
そのままか。
物価が日本と同じくらいだとすると、しばらく宿なし飯なしは避けられそうだ。
「しばらくは野宿しなくて済みそうだな?」
「え? ……私もいいの?」
「うん。お詫びも兼ねて、多少のお世話くらいさせてもらうよ」
この世界のことを色々と教えてもらえるし、そのお礼込みだ。
リーファは世界の外側からやってきたチートなナビでもある。
「ありがとね? ジンタ」
……。
見入ってしまった……。
女神の微笑みっていうのは、すごい威力だな……。
さらに訊くと、死んだ魔物や人間の残留魔力の影響を受けた動植物が魔物になるらしい。
その魔物が体内で生成する結晶体が永晶石なんだとか。
だから、永晶石の元をたどると魔力に行きつくそうだ。
あとリーファから聞いたのは、ステータスの意味。まあ、そのままだった。
HP:体力。無くなれば死ぬ。
MP:マジックポイント。魔法を使うときに消費される。
力:物理攻撃に関係する。
知力:魔法攻撃、魔法防御に関係する。
耐久:物理防御に関係する。
素早さ:回避、命中に関係する。
運:戦闘でクリティカルを出しやすくクリティカルを受けにくい。その他日常にも影響する。
どうせなら、力か知力があの数値になれば良かったんだけど。
「グルォオオオオオオオ!!」
突然聞こえた音におれは首をすくめた。
遠くに怪獣みたいなデカい魔物がいるのがわかる。
二本の角に血色みたいな二つの目。長い長い尻尾と牙があった。
体の表面を覆っている黒い鱗らしきものが太陽を鈍く反射している。
あいつが吠えたのか。おっかねぇえ……。
そいつを数十人の男たちがを囲んでいるのも見える。
比較してみると、人間の10倍くらいはある巨大な魔物だった。
「ベヒモスね、あれは。クエストか何かでみんなで協力して倒してるみたい」
――――――――――
種族:巨竜種
Lv:60
HP:28043/28600
MP:590/590
力 :710
知力:211
耐久:474
素早さ:189
運 :46
――――――――――
あんなにでかい魔物、倒せるのか?
……ま、おれが心配することでもないか。
街道を進みホヒンという町に到着した。
のどかな田舎町といった風情で、町の周囲を背の高い鉄柵が囲っている。
入口では、警備兵が二人雑談をしていた。
町に入るとき、リーファの美貌に見惚れていたり、おれの風貌をジロジロ見ていたりしたけど、旅の者です、と言うと警備兵は不思議そうにしながらも通してくれた。
レンガ造りの異国風情ある街並みを珍しげに眺めながら、リーファの案内で道具屋を訪れ、永晶石をすぐにお金に換えた。
「そうそう、ステータス以外にもアイテムボックスがあるの。たぶん出せると思うけど……ボックスオープンって言ってみて?」
「ボックスオープン」
ふわ、と空中にブラックホールが出来た。
「出せた? 他人には見えないようになっていて、いつでもどこでも好きな物を取りだせるから」
何をどんなに入れてもオーケーで、重量制限もないらしい。
もらった10万リンを財布に入れて、さっそく財布をアイテムボックスへ放り込む。
「クローズって言うと消えるから」
「クローズ。あ、ほんとに消えた。便利だな」
「ちなみに転生者じゃないと、アイテムボックスも使えないからね?」
「結構生活しやすいように世界が整えられてるんだな」
ご飯にするかどっちか迷ったけど、今のうちに宿屋を押さえておこう。
あちこち目をやって宿屋を探していると、隣からくぅぅ、と小型犬の鳴き声みたいな音が聞こえた。
リーファがぱっとお腹を押さえてそっぽむく。
「…………」
「お腹すいたのか? それじゃあ先にご飯にしようか」
「そ、そう? ……それなら、飲食店はあっちの通りにあるから――」
リーファが道の先を指差すが、おれの意識はとある店の看板にむいていた。
看板に書いてある文字は、なぜだかちゃんと読める。
【アイテム賭場】
ここ……もしかして――?
次回は23時頃更新しますー!