露出狂のアカリ
ミルは小動物のように怯えながら、アカリとパメラを交互に見ていた。
「そうだ。アリカ。あんたさ、あたしの犬になりなよ」
「はあ?」
アカリは小さく舌打ちをした。それがパメラの耳に届いたのか、彼女はベッドから跳ね起きると、不愉快そうに、アカリを睨み付けた。
「何舌打ちしてんの。随分と偉そうじゃん。ここがあたしの城と知らずにさ」
「あんたこそ何様よ。悪いけどね。この私は、中学時代は鬼の朱莉として、同期はおろか、後輩や先生からも恐れられていたんですからね」
「だったら何だ?」
パメラはアカリの胸倉を掴んだ。
「ちょっと止めなよ」
ミルは声を震わせながら、パメラを止めようとした。しかし、もう遅い。中学時代恐れられていた鬼の朱莉が目覚めてしまった。
「苦しいじゃないの」
アカリはパメラのツインテールを思い切り掴んだ。
「テ、テメー、あたしのツインテールを」
「何、自慢のツインテールだったのかしら。ごめんねぇ。でもこのツインテール、まるで男のチ〇コ見たいよ」
「んだと、言ったな。このメス」
パメラはアカリの胸倉から手を離すと、即座に彼女の頬を右手で平手打ちした。
「あぐ・・・・」
アカリは後ろに吹き飛ぶと、ベッドに背中を強く打ちつけて、そのままぐったりと項垂れた。
「ちょっと、パメラちゃん・・・・」
「や、やっべー、ちょっとからかってやろうとしただけなのに。いやマジだって」
「もう、先生に言い付けるから」
「まってミル、知らんぷりしてれば分からな・・・・ぐへ」
パメラの語尾がおかしかったのには理由がある。パメラが油断して眼を離した隙に、アカリは立ち上がると、彼女の顔面に強烈なエルボーを喰らわせたのだ。
「ふん、だから言ったでしょ。私を舐めるなって」
「お、お前やるな。大した根性だ。今に見てろよ」
パメラは鼻血を出しながら、フラフラと部屋を出て行った。
「ふう、ざまあないわね」
その夜、相変わらず険悪ムードのアカリとパメラは、ミルを間に挟んで、ずっと床の上に座り睨み合っていた。
「あんたさー、パメラって言ったわよね」
「ああ、だったら何だよ」
「恋ってしたことある?」
「へ?」
アカリからの意外な質問に、パメラは凍り付いてしまった。口を金魚のようにパクパクと開いたり閉じたり、すっかり動揺してしまっていた。
「無いわよね。あるわけ無いでしょうね。だってそんなガサツな女の子、誰も好きにならないからね」
「へん、だったらお前はどうなんだよ。アリカちゃん」
「私、悪いけど、私ってさあ、経験人数は二桁だし、声を掛けられた男性も数に入れちゃうと、三桁になるのよね」
「え、嘘」
パメラはグラッと体のバランスを崩して、正座のままひっくり返ってしまった。隣でじっと聞いていたミルの顔にも緊張が走っている。
「本当よ。うん本当」
(本当は、露出趣味のせいで誰とも付き合ったこと無いのよね)
アカリの心の声は誰にも聞かせられない。
「し、師匠」
「へ?」
さっきまであんなに憎まれ口を叩いていたパメラは、急に立ち上がると、両手でアカリの肩を強く叩いた。そして両目をキラキラと輝かせて、羨望の眼差しで彼女を見つめていた。
「ちょっと待ってよ」
「お願いお願い、今までのことは水に流して、私にも男との出合い方レクチャーしてよ」
「ああ、もう、分かったわよ。特別よ」
アカリは両胸を張ると、勢いよく立ち上がった。その拍子にスカートが捲れて、中身がパメラの前に露わになった。
「ありゃ?」
「ちょっと、アリカさん。お前はパンツを履かないのかい。それともノーパンこそが男にモテる条件」
「違うわよ。これは趣味よ。そう性癖みたいなものね」
「性癖って・・・・」
ミルが小声で呟いた。
「性癖って言うか、なんて言うのかしらね」
「お前まさか露出狂?」
パメラにズバリ言い当てられて、アリカは顔を青くした。こいつやりおる。そう心の中で呟いていた。
「これは暑いからよ」
「ほう、暑いとパンツ脱ぐのか」
「いやあ、これはね・・・・」
「はっきり言えよ。好きなんだろ。露出が」
「分かったわよ。好きよ。人の前で見えるか見えないかギリギリの格好して、もし見えたらどうしようって想像するだけでイケる女よ。でも悪いのかしら。人にはそれぞれ趣味嗜好があって」
「それは趣味じゃねえ。病気だよ」
パメラの言葉に撃沈するアカリ。しかし彼女は挫けない。
「例えばよ。自分が片思いしていた男の子に、自分の性癖がバレたらどうなるか分かる?」
「軽蔑されるだろうな」
「そうよ。軽蔑されるの。あんなに憧れていた男子に、痴女だって思われるの。濡れるでしょ?」
「濡れねーよ」
「と、とにかく、私が男をレクチャーしてあげるから来なさい」
アカリは半ば強引にパメラとミルを連れて、消灯時間間際の学校をうろつくことにした。