時を越えた想い
かつての少女だった女は、グリニカ孤児院に戻って来た。生涯のほとんどを過ごした孤児院だったが、あの男が現れたのは、一度だけだった。後は施設を経営している女性の職員達に囲まれて、平穏に過ごしていただけだが、その日、男があのソファーに腰掛けて、依然と同じように子供達と戯れているのを見つけた。
「あ、あの・・・・」
女は胸をときめかせながら声を掛けた。男は依然と同じように首だけを女へと向けた。昔と変わらない、まるで時がそこで止まってしまったかのように、彼は若いままだった。
「久しぶりだな」
男は女を覚えていた。まだ5歳のクマのぬいぐるみを抱いていないと、夜も眠れないような、弱虫で引っ込み思案な彼女を覚えていたのだ。
「あなたは、あの時、どうして怒ったのですか?」
「ああ、簡単なことさ。人は生きている。しかし見えない運命という物に怯え、時には悩み、苦しむ。私は考える、果たして運命などというものが、この世に存在しているのか。もしかしたら、全ては自分次第でいくらでも曲げられるのではないかとね。事実、君達の崇めている存在は、君達を救ってはくれない」
「すると、神も・・・・」
「さあな。それを決めるのは、神に仕えている君達だろう。神に仕えることで何か変わるというのならば、是非、その教えを乞いたいところだが」
女は何も言い返せなかった。しかし、男は気に入ってくれたようで、それからは頻繁に会うようになった。
交際を始めてから1年後、グリニカ孤児院のソファーの上で、男は初めて、自分のことについて彼女に話した。
「もうすぐ、私は死ぬかも知れない・・・・」
「え?」
突然のことに、女は激しく動揺した。しかし男の顔に笑顔は無い。
「ある男がいる。始末すべき男だ。そいつともうすぐ闘うことになる。負けてやるつもりは無いし、自信もある」
「では、どうして・・・・」
「念の為さ。確率は0じゃない。だから君を呼んだ。もしかしたら、これが最後になるかも知れない。私の遺品を受け取って欲しい。1年後の今日に、私はここに帰って来る。もし私が無事であった時は、遺品を返してもらい、私が死んだ時は、文字通りの遺品として、君が大切に保管しておいてくれ」
男の言葉の意味は理解できなかったが、男は1年後、グリニカ孤児院に戻ることは無かった。女はずっとそこで待ち続けた。大学も中退し、ずっと毎日、ソファーの上で彼を待ち続けてたが、結局彼は戻らなかった。後で知ったことだが、彼を殺したのは、ジンという当時高校生の男だった。そこから、彼女の復讐の人生が始まった。




