女の園はただの地獄
朱莉は、ジンの人を威圧するかのような態度に怯んでしまった。それを察したのか、ジンは少しだけ口調を和らげた。
「ああ、済まない。周防朱莉さんか。何処の生まれだ?」
「ええ~と、生まれたのは千葉県だけど、今は東京で暮らしています」
「以前に何か強いショックを受けなかったか?」
「そう言えば、階段から落ちました」
「やはりな」
ジンは溜息を吐くと、近くにあった大木に手を突いて項垂れていていた。
「あの、私何かしました?」
「いや、君の責任じゃない。きっと天界の転生プログラム・・・・、いや今のは忘れてくれ。とにかく君は死んじまったんだ。それでこの世界に転生した。信じられないと思うが、状況は変わらない」
「わ、私が死んだ・・・・」
朱莉は事の重大さに気付いたらしく、突然、ペタッと両膝を地面に付けて、大声で泣き始めた。
「うわああああ。私死んじゃったあああ。彼氏いない歴年齢で、処女のまま死ぬなんてえええ」
「おい、少し落ち着けよ。泣いたって、これからはこの世界で生きて行くしかないだろうが」
「でもでも・・・・」
「俺に付いて来な。このままじゃ餓死するぜ。住む所ぐらい融通してやる」
「あの、ここって電波ありますか?」
「携帯か。諦めな。この世界にそんなオーバーテクノロジーは存在しない」
朱莉の絶望は言うまでもない。一人っ子で親の愛情を受けて育ってきた彼女にとって、これほどの恐怖を味わったことは、今までに無かっただろう。
「さあ、行くぞ」
「何処に行くんです?」
「学校さ。この世界にも学校はある。エンシャント学園という全寮制の学校だ」
「でも私・・・・」
「こうなっては仕方がないんだ。とにかく今はこの世界で生きて行くことだけを考えろ」
「はあ・・・・」
ジンに連れられて朱莉は森を抜け出た。そして西洋風のオシャレな校門を通って、そのまま下駄箱まで行くと、ジンから渡された上履きに履き替え、そのまま階段を上って行った。
「ちょっと、本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、俺はこの学校の教師でな。俺のクラスの生徒にしてやる。ほら、そこの教室だ」
ジンは半ば強引に朱莉の手を引っ張ると、彼女の制服の胸に名札を付けた。
「これ・・・・」
「アカリ・シャーロック。この世界での君の名前だ。周防朱莉という名前はここでは不自然だ。今日からはこう名乗ってもらうぜ」
ジンは教室の扉を開けると、アカリを前に立たせて軽く押した。
「ほら、ホームルームだ」
「ええ?」
アカリが教室の中に入ると、すでに席に着いている周りの生徒達の眼が彼女に集中していた。ジンは生徒名簿を机の上に置くと、アカリを隣に立たせて、勝手に話を進め始めた。
「突然で悪いが、転校生を紹介する。こいつはアカリ・シャーロックという。俺の遠い親戚だ。これから、このクラスで過ごすことになったから、よろしく頼む」
周りの生徒達がガヤガヤと騒ぎ始めた。無理もない。転校生と言えば、学校の一大イベントの一つだ。
「そこでだ。彼女の寮についてだが、パメラ、ミル、お前らと同じ部屋になった。くれぐれもお手やらかにな」
ジンが教室の後ろの方の席にいる二人の女子生徒にそう言った。二人は互いの顔を見合わせると、言瞬困惑したような顔つきになったが、すぐに笑顔に戻って、元気良く頷いた。
その後、今日は丁度、修業式だったらしく、授業は一切行わず、ホームルームだけで終わった。アカリは早速パメラとミルに案内されて、自分がこれから住むことになる寮の一室の中に入って行った。
「えっと、私の名前はパメラ・グリーンだ。ヨロシクな」
パメラは青い髪をツインテールにしており、少し気の強そうな少女だった。
「わ、私はミル・キャンティー。よろしくね」
対して、ミルは眼鏡を掛けた大人しそうな雰囲気で、声は透き通るように綺麗だったが、音量が小さくて聞こえ難かった。
「私は、確か・・・・」
アカリは慌てて自分の名札を見た。そこには、アカリ・シャーロックと書かれていた。
「そう、アカリ・シャーロックよ。よろしくね」
「そうか、よろしくなアリカ」
「え、アリカじゃなくって、アカリ」
「うん、分かってるよアリカ」
パメラはそう言うと、突然、アカリの肩を掴んで、自分の顔の前に引き寄せて言った。
「あのなー、あたしはこの部屋のボスだ。悪いけど、ここに住む以上はあたしの命令に従ってもらう」
ドスの利いた声で、パメラは言うと、そのままアカリを軽く突き飛ばして、自分はベッドの上に寝転がった。