裏切りは蜜の味
マインの能力によって、校舎に飛ばされたアカリは頭を押さえたまま、低い声で唸っていた。そしてそのまま廊下に入ると、正面からミルと、もう一人の見覚えの無い男子生徒が近付いて来た。
「あ、アカリちゃん・・・・」
ミルはバツの悪そうな顔をしている。どうやら彼氏と過ごしているところを、アカリに見られて、困惑しているようだった。
「ちょっと、ミル、嘘でしょ?」
アカリとしては信じたくなかった。ミルは三人の中で一番色気が無くて、モテるはずがないと信じていたからだ。しかし、アカリが傷付いたのは、それだけではない。
「あ、あの・・・・」
男子生徒はか細い声で、ミルとアカリを交互に見比べていた。変声期前の少女のような声だった。その男子生徒は、年齢で言えば14歳前後で、少女のような可憐な容姿に、白く透き通るような肌をしていた。体付きは華奢で、その上、鼻筋は通っており、瞳もパッチリ大きい。美少年という言葉があるとすれば、それは正しく、彼のために使うべき言葉であろうと、アカリは勝手に納得した。
「うぐう」
アカリは喉の奥から信じられいないような低温の声を出した。アカリの好みのタイプは、体育系などの男々したタイプとは真逆の、中性的でほっそりとした、少女のような少年だった。それだけに、ミルの今回の所業には、人一倍腹が立っていた。そこに丁度、間が悪いことに、パメラが通り掛かったのだ。
パメラはアカリ達を発見すると、鬼のような形相で、男子生徒もろとも、ミルを自分達の暮らしている女子寮の一室に連れ込んで、半ば監禁しているかのように、ドアの鍵を掛けた。
「さあてね。早速だけど、裏切り者のミルちゃんには、色々と聞きたいことがあるんだよな~」
パメラは笑顔を浮かべていたが、その瞳に笑みは無かった。アカリはこの世界に来てから日が浅いが、パメラの方は、生まれも育ちもこの世界で、ミルとの付き合いも、アカリよりずっと長いことだろう。
「派閥のクイン・ビーならまだしも、まさか地味グループ筆頭のあんたが、あたしらより先に男作るとはね。それも弱そうな、まるで女みたいな男ね。絶対インポでしょ?」
畳みかけるようなパメラの暴言にミルは眼を塞いだ。友人ですらこんな調子なのだから、その男子生徒も、青い顔をして、小さく震えていた。
「君さ、あたしらよりも年下だよね。名前は?」
「あ、僕はトトと申します」
「へえ、トトちゃんね~」
パメラは嫌らしい顔つきで、トトを見た。彼はぎょっとして、突然立ち上がると、そのまま彼女かに背中を向けた。
「ぼ、僕はこれで失礼します」
「ちょっと、待ちなさいよ。まだ話は・・・・」
言い終えるよりも早く、トトは部屋から出て行ってしまった。後に残されたのは、ミルの鳴き声と、パメラの罵声だけだった。
その日の夜、大半の生徒が寝静まっていた時間帯に、怪しげな人影が三つ、中庭に集まって屯していた。
「マイン、トト・・・・」
「はっ・・・・」
人影の内、二つはマインとトトだった。二人は膝を折ると、噴水の所に腰掛けている人影に頭を垂れた。人影は体付きからして女性であり、スラリと伸びた脚を組んで、二人を見下ろしていた。
「手筈通りに進行しているわね。二人とも、あの三人を見張っていなさい。パメラ、ミル、そしてアカリ。うふふ、ジンに味方するであろう愚かなる仔羊達には、もう少しだけ眠っていてもらわないとね」
「どうするのですか?」
トトが首を傾げた。
「奴らと仲良くするのよ。マインが余計なことをしてくれたせいで、すっかりアカリはマインを敵視しているようだけどね。これからは彼女らと仲良くなり、信頼を勝ち取るのよ。私の目的は彼女らの排除ではない。しかし、あの運命の日が訪れるまでは、少なくとも、彼女らに余計な動きはしてもらいたくない」
人影はそれだけ告げると、そのまま暗がりに消えて行った。この学園を中心に、何かが起ころうとしていた。




