ウエットにとんだ彼女
アカリとマインは正面で対峙していた。マインはクルクルと笠を楽しそうに回していた。今までの敵とは違って、敵意というものを一切見せて来ないので、アカリは調子を狂わされていた。
「あなたの背後には、きっと何か大きな誰かがいる」
「おほほほ、そう見えますか?」
「怪しいのよ。ジン先生を狙う奴はいるし、さっきのボール女もそう。きっと誰からが裏で糸を引いている」
「中々に楽しそうな話ですわね」
アカリは拳を握りしめると、マインに向かって走り、思い切りストレートを放った。
「おおっと、危ないですわ」
マインは咄嗟に自分の顔の前に笠を出して、顔を防御した。アカリの拳は笠にぶつかると、そのままツルッと拳を滑らせると、前のめりに転んでしまった。
「あだだだ」
「大丈夫ですか?」
「うるさい」
アカリは心配そうに手を差し出す、マインの手を叩くと、土の付着した額を手で押さえて立ち上がった。
「調子狂うわ」
「おほほほほ、では、少し私も戯れてみましょうか」
マインは笠を逆さにして、地面に突き刺すと、まるで氷の上を走るソリの様に、地面を靴底で滑りながら、アカリの正面まで行くと、そのまま足を上げて、彼女の顔を思い切り蹴り飛ばした。
「げほおお」
アカリはそのまま吹き飛ぶと、倉庫に頭からぶつかって行った。
「げほげほ、やったわねえええ」
「あら、御免あそばせ。私の能力を、もっと分かりやすく見せて差し上げようとしただけですのに」
アカリは倉庫の壁を背に立ち上がろうとしたが、手が壁に触れた瞬間に滑り、そのまままたも転んでしまった。
「その手はさっき、私の笠を殴り、慣性を奪われておりますので、ツルツルに滑りますわ」
「もう遅いっての。まさか一生このままじゃないでしょうね・・・・」
「ご安心を。私からある程度離れれば、自動的にパラソルの能力は切れますわ」
アカリは舌打ちした。どうもこの女は笠同様に掴みづらい。そう思っていた。
「私は争いは嫌いですの。ですが、もしあなたが闘いたいと仰るのならば、このようにして差し上げます」
マインはニコッと微笑むと、アカリの腕を掴んで強引に起こした。華奢な体付きからは想像もできないような力だった。そして何を思ったか、マインは手に持っていた傘を閉じると、それでアカリの顔を思い切り殴った。
「いだ・・・・」
アカリは殴られた右耳の辺りを手で押さえながら蹲ると、キリッとマインの顔を睨み付けた。次の瞬間、彼女は軽く、アカリの足首を突くように蹴った。
「へ・・・・?」
アカリは事態を理解すると、マインの顔を見て思い切り怒鳴った。
「この女あああああ」
アカリの体は石鹸のようにツルツルと地面を滑ると、そのまま廊下の方に突っ込んでしまった。
マインはアカリの無様な姿を見て、クスッと笑うと、笠を開いて何処かに行ってしまった。




