透明人間が来るその3
アカリはパメラを背負って外に出ると、彼女を草の上に寝かせて、倉庫の方に視線を移した。透明な男の行方を探しているのである。
「ここだ間抜け」
突然、アカリの顔がグニャリと曲がった。どうやら殴られたらしく、そのまま地面に倒れると、俯せになった。
「うう」
普通に殴られるならばまだしも、それが不意討ちとなると、肉体的なダメージに加えて、精神的にもかなりのダメージを負うことになる。
「けけ、この能力も使いこなせりゃ強いぜ」
倉庫の中からノコギリが現れて、宙に浮いている。
「物を持っているから、俺の場所は分かるだろう」
ノコギリは一人でに喋っている。
「あんたを倒す方法を思い付いたわ」
アカリは何を思ったのか、突然、自分の手首を爪で引っ掻いた。手首には赤い痕が付いており、僅かに出血していた。
アカリはまるでペンキのように、自分の血液をノコギリに向かって掛けた。透明人間の輪郭が赤色に浮かび上がる。
「ぐは、目が見えな」
言い掛けたところで、アカリの拳が透明人間の顔を殴り付けた。そして、そのまま強烈なラッシュが、透明人間を倉庫の外壁に叩き付けた。
「ふうう、すっきりしたわ。そうだジン先生に連絡しないと」
アカリはその後、ジンを裏庭に呼んだ。彼は手にいくつかの書類を抱えて、忙しそうにやって来た。
「どうした?」
「先生、こっち来て」
アカリはジンの手を引くと、透明人間が倒れているであろう場所を、手探りに触らせた。ジンの顔付きが真剣なものに変わる。
「能力者か。最近やたらと増えているみたいだがな」
「この人以外にもいるのがな?」
「ああ、かつて、エヌという薬物が町で流行っていた。寄生虫を材料にして造られたそれは、服用した者の脳に作用し、超能力の才能を目覚めさせる。きっとそのエヌが、この学園にある」
ジンは鉄の鎖をロープ代わりにして、透明人間を縛ると、それを右肩に抱えた。
「とにかく、これは他言無用だ。こいつみたいに暴走する奴が現れるかも知れないしな」
ジンはそれだけ告げると、足早に中庭から出て行った。そして去り際に、アカリの方を振り向いて一言、「さっき理事長が呼んでいたぞ」とだけ残して、その場を立ち去った。




