透明人間が来るその1
エンシャント学園の理事長アントワネットは、書類を片付けながら、自分が呼び出した生徒、アカリを叱っていた。
「アカリさん、あなた、一時間目を無断で欠席したようね」
アントワネットは水色の短いサラサラの髪を振り乱しながら、ヒステリックな声を上げた。
「いや、それにはわけがありまして」
「言い訳無用。罰として次の時間、中庭の掃除をすることを命じます」
アントワネットは清楚な美人だったが、一度怒らせると、烈火の如く舌を振るうので、口論に持ち込むことすら不可能だった。
アカリは溜め息混じりに廊下に出ると、パメラとミルが心配そうに駆け寄って来た。
「大丈夫かアカリ?」
「アカリちゃん大丈夫?」
「何とかね。でも次の時間に中庭の掃除を頼まれちゃった」
アカリは決まり悪そうに髪を掻いた。
「任せろアカリ。あたし達も手伝うぜ。なあ、ミル?」
「ええ、もちろん」
「あなた達、ありがとう」
アカリは目に涙を溜めていた。最も、パメラとミルの思惑は、次の時間をサボりたいという一点だけたが、少なくともアカリは友情を感じていた。
中庭にて、二人の掃除婦がモップ片手に倉庫で話をしていた。
「ねえ、聞いた。ベルさんのとこの息子さん、漁師になるんですって」
「あら、賢いのに勿体無い」
二人の小太りの中年女性は、誰も見てないことを利用して、立ち話に花を咲かせていた。
二人の背後にある戸棚が開いて、中に保管されていた、透明な瓶が宙に浮いていた。そして、ゆっくりと二人の元に接近すると、片方の頭上に落下して、バラバラに砕け散った。
「いぎゃあああああ」
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
片方の女性が顔をドロドロに溶かし、真っ赤な肉を晒しながら、苦痛に悶えていた。何と、瓶の中身は硫酸だった。
「い、今医者を呼んで来るわ」
もう一人の中年女性が助けを呼びに行こうと、外に向かった。
突然、女性の行く手を遮るように、倉庫の扉が閉まった。
「へ?」
次の瞬間、女性の目の前に角材が出現し、それは空中に浮かんだまま、女性の頭上に降り下ろされた
角材は鮮血で真っ赤に染まり、そのまま床を転がると、その女性は真っ二つになった頭部から、ゴボゴボと血を流し続けていた。
数分後、アカリ達は中庭で掃除をしていた。太陽が三人を心地よい眠りに誘おうとするが、そうしてもいられない。
「ああ、授業受けたかったなあ」
アカリの言葉に、パメラは信じられないという顔をしていた。世の中には変わった人間がいるものだと、勝手に納得していた。




