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オラルス王国物語(旧版)  作者: うい まろ
プロローグ
2/5

生まれ変わり?

中堅製造メーカーの事務件秘書。大江(オオエ) 真麻(マアサ)は日々の雑務に追われていた。

現場からのつき返しに社長からの無茶振り。はては会長の側付として会合の出席など、おおよそ業務の範囲外までを業務とした内容であったが、県内では有名な女子高を卒業し5年。同窓の中ではそれなりに充実した毎日を送っていたはずである。

会長の側付として夕食会に出席後した帰宅中に不幸は起こった。

突風にあおられた建設現場の足場が崩れ、彼女に襲い掛かったのである。頭部への直撃は免れたものの、あわてて転んだ体に足場が落ち、内臓への負担が限界を超えていた。痛みに朦朧とする意識の中、彼女は願ってしまった。


(ほんと、本の世界にあったファンタジー世界で生まれればよかった)


そんな願いの中、彼女は意識を手放したのである。


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--

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次に彼女が目を覚ましたのは白い天井に清潔感のある空気。そして、大きな人の影とぼんやりとした世界であった。

それからややあって気づいたのである。自分が生まれ変わったこと、そして自分の名前が「真麻」から「マーサ」に変わっていることも。

驚いた真麻はそれから1週間。医者も驚くほどの泣き方を見せたのである。


1才になると、周りの世界はクリアに、音も正しく聞こえるようになっていた。そして自分の母親がいないことにも確信を持った。

さすがにこの頃になれば自分が転生したことも受け入れ、それほど不安になることもない。


(毎回乳をくれる人が違うのよね。でもってお父さんっぽい人とお兄ちゃんっぽい人が毎日見に来てくれる・・・これは多分お母さんがいないって事よね)


1才という年齢は発声器官が未発達のため、意味のある言葉が話しづらい。と、いうよりまれに話せるといったくらいである。そのたびに父や兄は喜び抱きしめ、乳母(ウバ)・・・メイドは優しく頭をなでてくれた。

母親がいないことを理解していても、この愛が本物であることは十分に感じられたのである。


(家族に問題はない。と、するとここは何処で、どんな未来のわけ?間違っても生まれ変わった限りは過去って事はないはず)


3才になり、複合文が話せるようになってやっと知った世界は彼女の想像を超えるものであった。

今まで自分がいた世界。地球ではなく4つの大陸に別れた世界で、その西に位置する大陸のオラルス王国。そして自分は貴族の2子として生を受けていたのである。

さらに、この世界では科学の発展は遅く、ランプも火で明るくする。トイレは水道が整備されていないため、打ちっぱなし。お風呂はなく水浴びが主流のようだった。

アステル領はオラルス王国中原領の中でもっとも寒い土地でありながら、温厚な人々とアステル領主の民草優先統治のよりもっとも安全で旅人の往来が多い都市である。

とはいえ、領主ともなると執務が多いはずなのだが・・・


「マーサちゃぁぁん、パパと遊ぼ!」


金髪にグレーの毛が少し混ざったいけてるお父さん。それが真麻が感じたアステル伯の第一印象ではあったが、日々一緒に暮す内に印象大幅な書き換えが起こる。いけてる超子煩悩なパパであることが判明したのだ。

いや、マーサに甘かったのであろう。実際フィリコには優しくも厳しく接していた。


「とう様、マーサはご本が読みたい!」


「よーし、お父様ってばがんばって読んじゃうよ~」


この頃にはもう自分が「真麻」と呼ばれていないことに抵抗を感じることはなかった。「マーサ」と「真麻」音がかなり近いことも幸いしたのであろう。

語尾に「♪」までつきそうな声で、目じりを下げるアステル伯を止めたのは、メイドのティミオスであった。


「旦那様。旦那様にはこのアステル領領主としての執務がございます。マーサ様の読書については私がいたしますので、お気になさらず執務をこなしてくださいませ」


マーサが3才になってすぐ側付メイドとしてやってきたのがティミオスである。15才で燃えるような赤い髪を2つにまとめ、やや起伏は少ないながらもスレンダーな印象であった。そんな彼女も今では側付メイドとして立派に日々をこなし、隙あらば執務から抜け出す雇い主への苦言まで言えるようになっている。


「マーサ様。今日はどんな本をご所望ですか」


「えっとね、おいしゃ様のお話がいい!」


ティミオスは非常に困った顔をしながら、何とか絵がをを取り繕っていた。それもそうだろう。「お話」といえば昔からの伝承を記した「創世記」や「英雄 (タン)」などがそれだろう。しかし、マーサが希望しているのは「医者」だ。そんなお話は聞いたこともない。


(あ、やっぱり困ったかぁ。そりゃそうよね。3才児が医者の話っておかしいよね・・・でも)


マーサも意地悪でそれを依頼したわけではない。既に0才で自分が前世(?)の記憶を持っていることをに気づいたマーサは、そのギャップを埋めるべくできうる限りの努力をした。

前の世界で言う12・3世紀ヨーロッパのような服装である。被服はもちろん、文化様式や宗教観、医学など大きく違うはずなのだ。

特に重要視したのは宗教観と医学である。文学や歴史観などは「子供だからわからな~い」で押し通せるが、宗教観はこの時代においておそらく国家の根幹になるだろうと考えたのだ。さらに、医学の進歩が遅れていれば、前の世界では当たり前に治るような病気や怪我も致命的になる。


(私の常識がこの世界じゃ常識じゃない。ちゃんと知らないと。死ぬ!)


この時に初めて、医学というものがあまり発達せずに「魔術」というものがあるということを知った。


5才になれば会話はもちろん、文字も書けるようになる。マーサにとってありがたいことは、文字が1種類であったこと。日本のように「ひらがな」「漢字」「カタカナ」と3種類覚えなくても良かったことである。


(いまさら多言語覚えるとか勘弁して欲しいものね・・・)


前世で高等課程教育を修了しているマーサにとって、勉学は苦痛であった。女子であれば裁縫やお菓子作りなどもっと目を向けることがあったのであろうが、なぜか彼女の興味を引いたのは「剣術」である。

この話をした時のアステル伯の驚きは今でも思い出せる。温厚な土地柄だからか、本来の気質なのか、フィシン・A・アステル伯爵には男女の区別はほとんどない。

「女性であるから花をめでろ」や「貴族の娘は政略のための道具」とももちろん思ってはいなかった。

しかし、王国内に女性の剣士や騎士は数少なく、奇異な目で見られていることが「父親」として気になるのは仕方ないだろう。

もちろん、マーサとしても剣士や騎士になりたいという気持ちがあるわけではなかった。純粋に前世で経験のしたことがないことをしたかっただけであるし、戦争など無いほうがいいに決まっていると思っている。

しかし経験したいものはしたい。こういった時に有効な手は、女性も子供も一緒なのだ。上目遣いで不安そうにするのである。


「とお様?ダメ・・・?」


「い、いや、ダメという訳ではないんだよ?でもパパはもっと別の楽しいことがあるんじゃないかと・・・」


この精神攻撃に毅然とした態度で入れる父親ではない。なんだかんだといいながら、剣の師範をつけ、あまつさえ軍略も教えてしまったのだ。

子供の発展途上の身体能力と、前世の記憶から来る論理的な思考。二つを併せ持つマーサは瞬く間に技術や知識を吸収。神童と呼ばれるまでにいたった。

さらには、アステル領が属する候国で開催された少年剣士大会で優勝を収めてしまう。この時マーサ12才であった。

そんな神童の苦手とするところがあるとするならば、貴族として修めなければならない「隣国語の習得」であろう。

こちらは兄であるフィリコが得意とし、統治学をはじめとした領主としての才覚を発揮していた。

博学の兄フィリコと武芸の妹マーサ。二人の関係は非常に良好であるといえる。生まれ変わった当初、何かと羞恥を覚えてはいたがそこは兄弟。今では湯浴(ユア)みも同じくするようになっていた。

この年ではさすがにフィリコが恥ずかしがっていたが・・・


そして、4年後。オラルス3世がこの世を去った。

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