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仮面 の 名前

今回は時系列で見ると、

前々話「復讐するは彼にあり」の途中に挟まる閑話です。

(前話「我が輩アルボルさん。今、うぬの後ろにおるぞ」セルニア発―ネクタリス着―)

ネクタリス発―セルニア着の間になります。

 壁に並べられた仮面を見ていく。

 四面にびっしり掛けられた仮面を見ていると、むしろ私が見られている感覚に襲われる。

 何も言わず、何も映さない空洞の目で淡々と私を見定めているようだ。


「どうですかな?」


 陰気くさい部屋で陰気くさい声が私に尋ねる。


『そんでもって、メル姐さんは汗臭い、と。良いオチだ』


 イカ臭い剣がなんかほざいているが無視。

 周囲を見回していくが、「これだっ!」というものがない。


 おい、ファッキンソード。

 なんかいいのあるか?


『どれも一級品だね。……でも、この世界にあるはずのない仮面がある』


 どういうことだ?


『右の壁。さらに、その一番上の段』


 首を回して言われたほうを見る。


『銀色で、上向きの棘が額についてるやつ』


 あれか。

 右端の一番上に仮面と言うよりも、兜に近いものがある。

 あれがなんなの?


『あれは――』

「ほう、『真っ赤な帚星』が目に留まりましたか?」

『名前がちょっと違うけど……、間違いなく俺の世界の仮面だよ、あれ』


 ほーん、そうなんだー。


『しかも同じ段の仮面は全部そうだね』


 胡散臭い店主――仮面師ヌガドは先の仮面について解説を加える。

 虚無、白面、怪盗加圧加熱食品、裏切り者、武士道などなど見た目も様々だ。

 この仮面三号と仮面四号はどこが仮面なのかわからない。

 四号については眼鏡にしか見えないし、三号はそもそもなんなんだ。

 これらは数百年前に現れた伝説の仮面師カトゥーによって作られたものらしい。

 彼の仮面をつけた人たちが世界の舞台に立って活躍したようだ。


『活躍? 暗躍の間違いじゃ……』


 まあ、私にとってはどちらでもいい。

 とっとと気にいったものを選ぶことにする。


 ちょうど目に付いた位置にあったそこそこのものを指さす。


「これをもらおうか」


 ふむ、と言ってヌガドは私の指さした仮面を手に取る。


「気に入られましたかな?」


 気に入ったから、買うって言ってんだよ。

 さすがにそこまでは言えず、「ああ」と頷く。


『違う』


 なにが?

 唐突に違うと言われても何がなんだか。


『メル姐さんに聞いてない』


 ん?


 疑問の返答はヌガドからだった。

 残念ですが、と前置きをして述べていく。


「メル様は選ばれませんでした。当店には、メル様にお売りする仮面はございません」


 ――お引き取りを。

 ヌガドが言うと、彼が手に持った仮面が笑ったように小さく震えたように見えた。


 こうして私は仮面を手に入れることなく店から出ることになった。




 さて、私は再度ネクタリスを発ち西ルートからセルニアへと向かっている。

 ネクタリスではオネット元公爵の家族から手紙を授かった。

 アヴァール公爵の生誕祭には間に合う見通しだ。


 現在はマスケという町にいる。

 到着したのは今日の昼過ぎ、近くにあるダンジョンの情報は手に入れた。

 明日、本格的に攻略をしに行く予定である。

 攻略といっても初級ダンジョン。

 そこまで気負うこともない。


 日暮れにはまだ時間があるため、観光することになった。

 マスケは仮面が有名な町のようだ。

 あちらこちらで仮面の出店が見られる。

 一番良い店をギルドから紹介してもらった。

 せっかくなので一枚良い物を買おうと思った訳だ。


 結果は買うどころか手に取ることすらできなかった。

 なぜ購入できないのか尋ねた私にヌガドは言った。


「人が仮面を選ぶのではありません。仮面が被り手を選ぶのです」


 つまり私は仮面に選ばれなかったようだ。

 仮面が人を選ぶとか、ちょっとなに言ってるのかわからない。

 ぺらぺら喋るむかつく剣と同じくらい意味不明だ。

 もうその辺で気に入った奴を買おう。


『それがいいよ。あの部屋にあった仮面を被るには、メル姐さんじゃ器が小さすぎる』


 ひどい言われようだ。

 ふん。どうせ私は才能がありませんよ。

 仮面を被るのにも才能がいるってどんだけだよ……。

 別にどうだっていいだろ。仮面なんて被るだけなんだから。


『……もしもね。あの仮面を売ってくれると言ってても俺が止めてた。あの人はちゃんと選別してるんだよ』


 なんで止めるんだ。

 金銭的に問題ないだろ。


『言ったでしょ。メル姐さんじゃ器が小さすぎる。仮面に被られるよ。おとなしくその辺のやつにしなせぇ』


 仮面に被られるとか、訳わからん。

 そこらの仮面とあの店にある仮面で、いったい何が違うって言うんだ。


『逆に聞こうか。そこらで売られてるお面とあそこにあった仮面。何が決定的に違ってると思う?』


 きれいさ?

 あそこにあったのは埃っぽかった。

 そこらの出店で売られてるやつのほうがよっぽど綺麗に見える。


『それは室内か室外かの問題かな。あの部屋は採光もあまり良くなかったし』


 じゃあ、上手に彫れてるかどうか。


『その辺の出店にも彫りが上手いのはいくつもある。むしろこっちのほうが上手いのすらある』


 そうなのか。

 じゃあ、あそこで買う必要もないか。

 出店でもよい仮面はあるってことだそうだし。


『出店にも、上手に彫られてるお面はたくさんあるよ。だけど、今のところ一級品はない。どれもせいぜい二級品止まり』


 あぁ?

 上手に彫れてるかどうかが仮面の価値じゃないのか。

 結局のところ、仮面って見た目で判断される物だろ。


『なぁんにもわかってない……。あの部屋で何も感じなかった? ひょっとしてマグロなの? もうちょっとここらのお面をよく見てみることだね』


 そう言ってため息一つ。

 どうやら教えてくれる気はないらしい。

 とりあえず黙っていてくれるのはありがたい。

 今日の夜飯をどこにするか考えるついでに、仮面も見てみることにしよう。




 そして翌日である。

 昨日は実によく眠れた。

 体調は素晴らしい。今ならダンジョンごと消してしまえる気がする。


 ちなみに仮面はまだ買っていない。

 あまり気に入ったものがなかったし、興味も薄れていったためだ。

 記念程度のものだからわざわざ買わなくてもいいかという結論に達しつつある。


 とぼとぼ歩いてダンジョンの前に来た。


「なんとかお願いします!」


 浅黒い肌をしたやさ男が、ごつい男たちの一人にすがりついている。

 ごつい男どもは剣やらメイスやらプレートから明らかに同業者だとすぐにわかる。


『でも、あっちはメル姐さんを同業者とすぐにはわかってくれない……』


 うっさい。


 同業の男たちはやさ男を振り払ってさっさとダンジョンに入ってしまった。

 やさ男だけがダンジョンの前に一人ぽつん。

 関わりあわないのが賢明だ。


「どうしたんだ?」


 ……なぜだろうか。

 賢明だと思いつつも話しかけてしまった。


『一人寂しくぼっちでいたところを自分と重ねてしまったじゃないかと分析する』


 素敵な分析ありがとう!

 できれば黙っていて欲しかったよ!


「それでどうしたんだ?」


 気を取り直してもう一度声をかける。


「……冒険者の方ですか?」


 冒険者にミエマセンカネッ?!


 逆にきつく聞き返してしまった。

 シュウは噴き出して笑い転げている。


「しっ、失礼しました! さっそくなんですがお願いがあります」


 やさ男は必死に頭を下げる。

 言葉を差し込む隙も与えず、お願いとやらを口にする。


「僕をダンジョンに連れていってください!」


 あまりにも唐突だ。

 どうしてダンジョンに行きたいんだ。

 そこの理由を聞かせてくれないか、簡潔にな。


「仮面です!」


 ……?

 意味がわからないという私の表情を読み取ったようでやさ男は言葉を接ぐ。


「仮面のためです!」


 …………?

 ごめん、簡潔じゃなくていいからさ。

 もうちょっとわかりやすく話してくれ。


「仮面を造るためです!」


 チェンジ。

 駄剣、あとは任せた。


 そんな訳で私を介してシュウがゆっくり聞き取っていった。



 どうやらやさ男はギレというそうだ。

 なんとあの胡散臭い仮面師ヌガドの弟子らしい。


 彼の造った仮面を見せてもらったが、素人目でも非常によく彫られていた。


『見た目だけは立派だね。お面としてはいいんじゃない』


 言いたいこと言ってるな、こいつ。

 だが、師匠のヌガドにもシュウと同じことを言われたとギレは話す。


「見てくれは良いが、お前の仮面には足りていないものがある」


 こう言われたようだ。


 ほう。

 その足りていないものが昨日シュウの聞いてきた質問の答だろうか。

 それで何が足りていないんだ?


「魂です」


 ちょっと何言ってるのかよくわかんないなー。


『うん。それだね』


 シュウは師匠の言に同意している。

 魂ってなによ?


『ちゅるちゅるっと喉ごしを楽しむやつ。あっ、冗談だから引かないで』


 ときどき冗談を言ってるように思えなく感じることがあるが、まさに今そう感じた。

 ほんとに冗談だっただろうか。


『冗談だよー。でさ、あの部屋にいたとき、仮面に見られてる気がしなかった?』


 ……したな。


『外を歩き回ったとき、同じ感覚はあった?』


 ……いや、なかった。

 でも、あの部屋は狭いし、仮面の数も多かったからじゃないのか。


『違う。あの部屋にあった仮面は全て魂、あるいは霊や命と呼べるものがあった。ずっとメル姐さんを見定めてた。例え、一枚だけになったとしても見られてる感覚はあるはず。というよりも、あれだけの数に見られてたら常人は気が狂うはず。やっぱりマグロか……』


 なんかよくわからんけど、魂とやらが大切のようだ。

 で、魂はどうやって仮面に入れるの?


「僕には経験が足りないそうです。もっと獣を、植物を、人を、その本質を――魂を見つめろ、と先生は仰いました」


 さっぱりわからん。

 本質ってなによ。魂って目に見えるものなの。

 おい、やっぱりチートな目だと見えるのか?


『見えるわけないじゃん。草生えるわ〜』


 シュウは片腹痛しと笑っている。実にむかつく。


『でも、感じ取ることはできる。見ることはできなくても、観ることはできるね』


 だめだ。私の理解を超えた。

 もういいや。私にはどうでもいいし。


 それでどうする?

 ダンジョンに行きたいなら、連れて行くぞ。


「いいんですか?!」


 まあ、初級だからな。上級以上なら嫌だが。

 罠も少ないと聞くし、突っ走ったりされない限りは余裕だろう。

 おとなしくしてもらえれば問題ない。


「大丈夫です。無茶はしません」


 さて、それじゃあ報酬の話だな。


「実は、お金はほとんどないんです。最近はモンスターも強くなったらしくて、冒険者の方々も余裕がないそうでして……。雇うこともできません」


 ギレは申し訳なさそうに呟く。


 いや、お金はたくさんあるからいらない。

 そうだ。お前が造ったやつで良い仮面はないか?


「申し訳ありません。師匠から良しと言われたものでないと他人に仮面を渡すことはできないんです」


 面倒なことだ。

 まあ、報酬はあとでいいか。

 最悪なくていいし。早くダンジョンに行きたいからな。




 そんな訳で初級ダンジョンを攻略し始めた。

 足手まといが一人いるため進行速度は極めて遅い。

 ギレは時折立ち止まってモンスターを見つめている。

 魂とやらを見ようとしている。


『あかん。駄目だ。心に余裕がない。これじゃ何も観えない』

「どうすればいいんでしょうか?」


 ギレはシュウに教えを請う。

 パーティーを組んで、ギレは喋る剣にとても驚いていた。

 私も久しぶりに通常の反応を見て安心できた。


『もっと楽しめばいい』

「楽しむ、ですか?」

『そう。どうせ魂なんて目を擦っても見えないから。もっとダンジョンを感じるべき』

「感じるとはどうやってでしょうか?」

『あ゛ー』


 ギレは矢継ぎ早に問いをぶつける。

 シュウはときどきイラついて変な声をあげる。

 元々、男と話したがらないエロ剣である。

 どうやら今回も喋るのに嫌気がさしたようだ。と、思っていたが、


『楽しむ、か。方向を間違ったな。修正しよう……。あそこに棒きれが落ちてるでしょ。あれを持ってその辺のモンスターに斬りかかってみ』


 シュウは返事をした。

 ただし内容が滅茶苦茶だった。

 おい待て、何をやらせる気だ?


『聞いてたでしょ。こいつにも戦わせてやって。大丈夫だって。共有スキルでそこそこ強化されてるから一撃じゃ死なない。まあ、男が一人死んだところで俺は一向にかまわんがね』


 本音が出てるぞ。

 とりあえず死ぬにしても報酬を受け取ってからだろう。


『それもそうだね。やばそうなら俺が合図するからメル姐さんが止めれば良い。このままじゃ物見遊山にもならない』


 というわけだ。

 がんばれ。


「え……。冗談、です、よね」


 本気だ。

 はよ行け。


 ギレは私が本気なことに気づいたのか覚悟を決めた。

 頼りない足取りで時々こちらを振り返りつつ、落ちていた棒きれを拾う。

 これまたちょうどいいところで犬型モンスターが道角から出てきた。


 ギレは私を振り返りどうしようと無言で尋ねるが、私は顎をしゃくり「行け」と伝える。

 彼の足は竦み、動ける様子ではない。


『ダンジョンでは足を止めた奴から死んでいくのだ』


 たまには良いことを言うなと感心していると、モンスターが私たちに気づいた。

 犬ころはより近くにいたギレへと一直線に駆ける。

 ギレは腰を抜かし、地面に尻餅をつく。


『もうちょい引き付けて……今』


 おし。私も踏み込み、ギレの前へと走る。

 すでに口を開け、彼に噛みつこうとしていたモンスターにシュウで斬り付けた。

 初級の弱さもあって、一瞬でモンスターは光に消えアイテムが残る。


『どうだった?』


 シュウが尋ねるものの、ギレは呆けて返事をしない。

 仕方なく、私も尋ねる。


「目があって、逃げたくて、でも目を背けることもできなくて、動けなくて、自分が、とても小さくなって……」


 彼はぽつりぽつりと漏らしていった。

 言っていることは昔の自分も感じていたからよくわかる。

 自身の非力さを認めてくれるほどの強さを持つ場所。

 それがダンジョンだ。


『よしよし。恐怖に触れたね。でも、まだ触れただけで観てない。さて、もう一回行ってみようか。次はちゃんと叩いてみよう』


 ギレの表情に深い影が落ちる。

 こいつ、ほんと男には容赦ないな。




 その後、ギレは何度もモンスターと交戦した。

 正確には交戦させられたと言うべきだろう。

 服は土まみれ、顔や手も擦り傷が増えた。

 幸い、肉体に重傷は負っていない。


「なんとなく……、わかりました」

『そっか。観ることができたのかな?』

「観えたのかはわかりません。でも、今なら掘り起こすことができそうです」

『掘り起こす、ね……。それなら彫れるかもね』

「はい。ありがとうございました」


 まったくわからんが、どういたしまして。


 彼の中で何かが目覚めた。

 目覚めたと言うよりも、外見を見る限り何かを抜かれたというほうが近い。

 幽鬼のごとくぼんやりと私についてくる。精神が重傷かもしれない。

 本当に大丈夫なんだろうか。


 ボスを倒しても、ギレの様子は変わらなかった。

 ダンジョンから出て町へ戻り、彼はふらりふらふらと町並みに姿を消した。

 とてもじゃないが報酬をよこせと言える状態ではなかった。




 一夜明け、宿を出てセルニアへ発とうとしたところで来客があった。

 胡散くさくて陰気くさい男が宿のフロントに来ていた。

 ヌガドである。


「冒険者ギルドの方から宿を聞きました。是非とも仮面を受け取って頂きたい」


 それだけ言って、脇に抱えていた布たばをほどいていく。


 布の中から一枚の仮面が出てきた。


『ほぉ』


 シュウはしみじみとした感嘆の声を漏らす。

 私も声を漏らすほどではないが、よくできていると思った。

 彫りは決して丁寧とは言えない。

 出店やヌガドの店に置いてあった仮面と比べると私でもわかるほどに雑な彫りと塗りだ。

 だが、ぼんやりとした表情に何か不気味さ、あるいは畏怖を感じた。

 モンスターを題材にしたものだろうか。


『それギャグで言ってんの?』


 どういうことだ。


『これ、ギレが彫ったやつだよ』


 えっ、これギレが彫ったの?


「然様です。昨日、ぼろぼろな様子で帰ってきたと思ったら、何も言わぬまま夜通しでこれを彫りました」


 夜通しでか。

 道理で荒いわけだ。


「奴は、それを完成させてすぐに倒れました。今は眠っています。代わりに私が届けに来ました」


 おっと。

 師匠自らとは、わざわざすまんな。


「いいんです。メル様には感謝しています。弟子の面倒を見てもらったようで」


 いや、ダンジョンに連れて行っただけだ。

 それで、この仮面は本当にもらっていいのか?


「もちろんです。これは貴方にこそふさわしい。奴もそのために彫ったのでしょう」


 うむ。

 報酬ということで遠慮なくもらっておこう。


 こうして素敵な仮面を手に入れ、マスケの町を発った。




 道中、もらった仮面をぼんやり見つめる。

 良い仮面なのだろうが、なんとなく疑問が残る。

 残った疑問がなんなのかもわからないので落ち着かない。


『ヌガドは言ってたよね――』


 いつもどおりシュウがいきなり話を切り出す。


『ギレはダンジョンから帰ってきて、「何も言わない」まま徹夜でその仮面を造ったって』


 ああ、そうだったな。


『造り終わってすぐ寝ちゃった、とも言ったね』


 そうだった気がするな。

 ちょっと自信ないけど……。


『じゃあヌガドは、どうしてメル姐さんがギレを連れてダンジョンに行ったことを知ってたんでしょう?』


 はて?

 そう言えばそうだな。

 ギレに会ったのは昨日の朝。

 ダンジョンに連れて行ったのも成り行きだ。

 帰ってから話をしていないなら、私とダンジョンに潜ったとはわからないはず。


 ……他の人から聞いたんじゃないの? 

 ギルドの人に聞いたって言ってたよね。


『泊まってる宿を聞いたって言ってたよ。メル姐さんとダンジョンに潜ったってことはすでに知ってたんだ』


 ふーん、そうなのかー。

 で、なんで知ってたんだ?


『その仮面の名前はなんでしょう?』


 おいおい、さっきの質問の答は?

 話を変えないでくれ。


『話は変わってない。詰まるところ、答はその仮面の名前にある』


 ちょっと考えようかと思ったが面倒そうだったのでやめた。

 たぶん昨日のダンジョンにいた犬のモンスターかそのへんだろう。

 いや、猿みたいなボスモンスターかもしれない。

 記念と言うことで前線に蹴り出したらたいそう怖がっていた。

 あの恐怖をこの仮面という形で表したのかもしれない。きっとそうだ。

 うむうむ、よく見るとこのとぼけた顔があのボスに似てる気がしないでもない。

 果たしてあのボスはなんて名前だっただろうか?


 まあいいや。

 結論も出たし先に進むぞ。

 止まると落ち着かなくなるからな。


『やっぱマグロか。急がなくても生誕祭には間に合うでしょ。その仮面はさっそく使うと思うよ。よかったねマグロ姐さん』


 相変わらずよくわからんことをわかったように言っている。




 結局、仮面の名前はわからずじまいだった。

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