不幸
不幸が見える。子供の時から、私には人の不幸が見えた。「見えた」というのは文学的な表現ではなく、人の悲しんでいる姿、苦しんでいる姿が私の脳裏には確かに浮かび上がるのである。不幸を見るのには条件があった、不幸になる相手を激しく憎んだときだ。もしこれがいつでも見れたのならば、私は家族や友人の不幸を回避する為に駆使したのだろうが、何しろ相手は憎んでいる相手だ、どうなろうと私の知ったことではない。あまりに嫌いな奴のときなど、わざわざ見物しにいったこともある。そんな使い道の分からない能力が、今、妻に対して発動した。
妻の浮気が発覚した、随分前から続いていた関係らしい。妻が一方的に言うには、子供も成人して家をでた、淡白なあなたと二人で老後を過ごすよりも自分の事を愛してくれる男と共にいたい、だそうだ。ご丁寧なことに財産分与の見積もりや、離婚届、弁護士まで用意していた。身勝手な妻の振る舞いに私は我を忘れて怒ったが、彼女の気持ちは変わらず、後日離婚に合意することとなった。私が離婚届に判を押すと、彼女はひったくるように奪った。そして私に投げつけたのだ、結婚指輪を。怒りが、憎しみ、に、変わった瞬間だった。
彼女の「不幸」の場面はどうやら病院の中らしい。ベッドで寝ている男性を、妻と医師達が囲んでいた。彼女は泣きながら叫んでいる。医師の行動から察するにちょうど今亡くなったらしい。男の顔が見たいがよく見えない、名前が書いてある物でもないかと私は周囲を見回した。
名前、私の名前が書いてある。
しばらくその事実を理解することはできなかった。何故私の死が彼女の不幸なのだ、何故泣いている。しばらく悩んだ後、私は一つの結論を導いた。普通の関係を続けていた妻の急な浮気に離婚、事が上手く進みすぎている、これは仕組まれた離婚なのだ。きっと何か事情があるに違いない、なによりも彼女は私の為に泣いているのだ。
私はすぐに彼女の後を追いかけ街中を走り回った。何故気付いてやれなかったのか、私は夫失格だ。──見つけた。妻は市役所から出てくるところだった、私の姿を見るとハッと動きを止めた。もう大丈夫だ、俺に話してみろ、そう言いかけたときに私達に大きな影が迫ってきた、トラックだ!私はとっさに妻をはじき飛ばした。良かった、君を守れて。
病院
「何で死ぬならもっと早く死ななかったのよ。生命保険のお金入らないじゃない、たたでさえ稼ぎ悪かったくせに、クヤシー!」
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