驚きとトキメキ
その不快な音楽が終了し、やっと耳が休まる事に安堵。
何だよ何だよ、今のは何だったんだよいい加減私にも教えてくれよ?
仲間外れは良くないんだぞだとか何だとかぶつくさ口の中で呟く。相変わらずきゅーとな少年羽恋ちゃんを腕の中に閉じ込めたまま一人いじける那希。うつ向けていた視線をふとあげて、そこには。
い・け・め・ん、が。
「ぶほぉぅっ!」
思い切り吹いてしまった。
心臓に悪いぞ、先生ズといい彼といい。
類は友を呼ぶとはよく言うもんだ!呼びすぎてリアルラブゲーが出来上がってるぞ、この方もハーレム要員なのか兄ちゃん、えぇ?!
よくやった、よくやったぞマイブラザー!
にしても、にしてもだ。この日本家屋には容姿端麗な方々しかいないんだな。何かそんな決まりでもあるのか?てゆーか、誰だこのイケメン。
「そんなに分からないものなのかー?」
170少し位の身長と、イタズラ心満載といった表情の八重歯が可愛らしい彼。まるで那希の心を読んだかのようなタイミングでそんな事を言うもんだから、驚きを隠せない。
先生ズの時は間接的に名前を聞いた事があった、という事を思い出せたけれど今回はそうもいかないようで。
全くもってワカラン。……のはずなんだけど会ったことあるような……無いような。
でも、でもだ。この私がイイ男を忘れる訳が無いんだっ!
ワインレッドの落ち着いた色彩の髪をふわりと揺らして除き込んでくる。
そして両側を面白そうに持ち上げた唇から出てきた言葉に驚愕した。
「オレだよ、那希ちゃん。姫」
「……え、ひ、ひ、姫さん?!男装?!」
「いんや」
「じゃあ女装だったのか!」
「それも違うな」
「じゃあ何なんだ……そして王子さんは何処へ行ってしまったんだっ!あの音楽は何だったんだみんなも知ってるんだろ、なぁ知ってるんだろっ!!全部言わんかい」
再び兄ちゃんをがっくがっく揺らしながら問い詰める。
分かった分かった、ちゃんと説明するからと脳みそをすっかりミックスされた状態で応えをくれて、やっとがっくがっくするのをやめた。
「もう那希ってば、兄ちゃん髪の毛ぐちゃぐちゃだよ?」
「あっはーごめんにごめんに?今度羽恋ちゃんのいやらしいベビードール買ってくるから許してくれ」
「ん、よし」
「な、何もよくないぞ?!」
「いいよ。可愛らしい布の隙間から見える肌とか透けるレースの先にあるものとか――」
「ひゃわゎわわやめろー!!」
いやこりゃたまらんベビードールで運動してもらわないとな。
……じゃなくて。
話がそれたぞ。
「随分騒がしいですね?」
「だろー?でも楽しいんだよな……ん?」
ん?
ワタシノトナリノイケメンダレスカ?
いや、一人だけ思い当たる方がいる。
若草色の髪と、緑がかった灰色の瞳。スラッとしたスタイルに柔らかい微笑み、かと思いきや裏のありそうな雰囲気。
うへっ、今日は幸せだ。これなら学校も頑張れる気がする。
「…………」
「那希さん?」
じっと見つめるなんて事は出来ない。その高貴な雰囲気は、そんな不躾な態度を許しやしてくれないから。唇の左下にあるほくろが、上品さに質のよい色気を混じらせる。
「王子、さんだよな?」
「えぇ。姫から話は聞いているようですね。さっきはびっくりしましたよね?趣味の悪い音楽が流れて」
「趣味の悪いとはなんだ、悪いとは」
「事実でしょう?姫の音楽の趣味は絶望的です。人を不快にさせるものを無意識に好む時点で、アウト以外の何物でも無いですよ」
やれやれといった様子の王子さん。肩をすくめる所まで様になるとは流石だ!
「むっ……」
「しかも、あなたまだ那希さんにほぼ話して無いですよね?」
「な、何で分かった!!」
「何となくです。あなたのことなど何もかもお見通しですから」
早く話してさしあげたらどうです?こちらはお願いをしている身なんですから。
穏やかかと思ったら案外ズバズバ言う王子さんが後にそう続けてくれたおかげで、ようやく私は内容が見えてくる訳だけど。
それはあまりにもぶっ飛んだ、とんでもないものだった。