素晴らしく残念な美人
久しぶりです。思いのほか時間がかかってしまいました´`;)那希がなかなかうまく立ち回ってくれない上、今回から登場人物が増えてしまいました……。大変だ(笑)
どっか行くかなんて言い方をしたから、てっきり目的地も無くぶらつくものかと思ってたけどそうじゃないみたいで。
たどり着いたのは。
「な、んじゃこりゃ……」
左右対称に整えられたバラ園。真ん中に女神像が佇む噴水。そして
「えー……?」
なぜか日本家屋。
何で?何で日本家屋なの?ここは普通洋館とかだろ。何でこれセレクトしちゃったんだよ。何でお庭洋風で建物和風なんだよ。和風は和風でも、もっとこー……あるだろ他に。
残念過ぎるその光景にカルチャーショックだ。あれ、使い方あってる?
「うん、気持ちは良く分かるよ」
「んむ、同じく……」
「オレ達も最初は戸惑ったからね。でもね、ここなんだよ、遊乃先生のいとこさんの家」
ここ?!ここなのか、ここで良いのかっ……。
正直な所、激しく疑問だ。
「那希ちゃん、あんまり深く考えちゃ駄目だからね」
「そうだぞ、考えたら負けだ」
明らかに面白がってるこの方はどうしたら良い。私は分からないぞ。
どこか悶々としたまま、いざ日本家屋の中へ。
中に入ると、中世ヨーロッパ風みたいなドレスを着た二人の美女に迎えられた。だから何で日本家屋でドレス、なんて疑問は浮かばなかった。
あまりにも、二人が綺麗過ぎてそこまで思考が回らない。
「はじめまして。君が那希ちゃん?」
「はい。……めっちゃ美人だな」
「ありがと。オ……私は宇賀神姫。こっちは宇賀神王子」
「……どうも」
王子さんはふわりと柔らかな笑みをくれる。穏やかそうな人だ。
とりあえずリビングでくつろいでいてね、と言う事で勝手知ったるなんとやらで遊乃先生に案内をされる。
「ちなみに、先生のいとこって?」
「姫の方だよ。王子は姫の大事な人」
「へぇ…………え?」
大事な、人?おいおい、ちょっと待てよっ!!両方ともきっれぇなオンナノヒトだったぞ。まぁ男同士の愛があるんだから女同士の愛だっておかしかねーけど。先生、それは爆弾ぶっ込みすぎってもんじゃねぇのかよ?
いろいろ、いろいろと疑問はある。それを見抜いた上であえて遊乃先生は何も言わないでいるように見えるのは、私の考え過ぎか?それ所か遊乃先生以外のメンバーも、その疑問の応えを持ってるような気がするんだけど。
「大丈夫、その内分かるからね」
綺麗な微笑みすら計算尽くしに見えるのは、その言葉を聞いちゃうと仕方がないっつーもんだろ?
「那希、そ、そんな顔……すんなよ」
どうも私は気難しい顔をしてたみたいだ。ふかふかのソファーに腰を埋めている那希の頭を、羽恋ちゃんがふあんふあんと撫でた。
「羽恋ちゃん……!」
「わひゃ?!」
そしてそれに耐えられなくなる私。
思わず抱きしめちゃうよな!本当、この愛らしさは正義だよな!!
「むぅ……那希ぃ、苦しい、苦しいぞ?」
「わぁ、いーぃにほいぃ〜」
「あわわっ、くしゅぐった……!」
もうあれだよな、この癒やし一家に一人みたいな。
「尚輝が嫉妬しちゃうよ?」
「してませんよ」
「うっそだー、お前笑顔がひきつってるぞ」
「やだ兄ちゃんごめんなあ」
「わぁ……尚輝かわいーな」
「……みんな嫌だ」
羽恋ちゃんが私に抱きしめられたまま、兄ちゃんに後ろから抱きつく。先生達はソファーに座ったまま、にやにやイケメン崩壊な笑みを浮かべてて。ずっとこんな空間にいたいって、明後日の学校がすっげー憂鬱な気分になってくる。
お嬢様学校だから、こんなしゃべり方なんて勿論駄目だし、立ち振る舞いも気をつけないといけない。凛星高校は勉強だけじゃなくてマナー講座も授業にとりこまれている。
正直、私には合ってないと思うんだよな。女まみれだからドロドロしてるとこもあるし。うわー、登校拒否しそう。せめて共学だったらこのドロドロ感も無くなるだろうに。
小さくため息をついて、羽恋ちゃんの柔らかい髪の毛に鼻を埋めると、相変わらずいい香りがして少しだけ気分が紛れる。それはどこか懐かしさを感じるような、ほっこりするような気がして、ようやく分かった。
「羽恋ちゃん……にーちゃんと同じ香りする」
「っ……あ……」
甘めだけど、きつさは覚えない香り。兄ちゃんと羽恋ちゃんは同じシャンプーの香りがした。
「昨日洗いっこ、したからだ」
必殺ときめき笑顔にくらっときて、どこか嬉しそうな声音にきゅんとして、内容でノックアウトされた。
「もー……それは内緒ねって言ったでしょ」
なんて言って羽恋ちゃんを小突きつつ、やっぱりこちらも嬉しそう。くっそ、幸せいっぱいじゃねぇか。さっさと結婚しちまえよ。白い砂浜できゃっきゃうふふして来いよ。私は見てるだけで胸がいっぱいだ。
と、まぁこんな調子で完全に自分の世界に入り込んでたんだけど。
大音量の音楽が急に流れたもんだから現実に戻ってきた。しかもそれが、戦時中によく流れてたような、どこか人の不安を煽るもの。これ苦手だ……。
「はぁ……音楽変えなよって言ったけど……」
「何か、前回の方がマシだったな。姫の趣味を疑う」
「……前回は着○ありでしたよね」
「姫さんてば、何だかなぁ」
何だ、さっぱり内容飲み込めないぞ?!
ハテナマークまみれなのは那希のみ。思考回路をばっちり読んだかのようなタイミングで遊乃先生が本日二度目の
「そのうち分かるよ」
をプレゼントしてくれた。