飾らぬ美こそがふつくしい
朝食は焼きトマトとチーズのサンドイッチ、オニオンスープ、シーザーサラダ。相変わらずおしゃれな朝食をささっと作るにーちゃんには感心だ。
「どうぞ」
「ありがと。いただきます」
「召し上がれ」
十時を下っているこの時間を果たして朝と言えるかどうかは置いといて。
「なぁ兄ちゃん。何で家にいるんだ?てゆーか何で真城さまと奏さまが家に居るんだ?!てゆーかこの可愛い少年は誰だ!!先生って何!!」
聞きたい事はわんさかある。
わんさかあるんだ。
困ったような表情をする、相変わらず綺麗で可愛い兄の姿に若干和みながらも、疑問は全てきちんとぶつける。
「ほら、やっぱり急におじゃまするのは悪かったよ。那希ちゃんを混乱させちゃったし……」
ごめんね、と斜め左でまゆをひそめて申し訳無さそうに謝る奏。
その甘さを含んだ柔らかな視線に、見事射てやられた那希は勢い余って中腰になっていたものを、再び落ち着かせる。
薔薇を散らせる彼らのオーラに頭をくらくらさせつつ、朝食をぱくつく。
「そうですね、さすがに説明不足過ぎました。……那希、びっくりさせちゃったね」
兄が本当に悪いと思った際、瞳を細める癖は相も変わらず。
ふわりと乗った大きな手のひらがくしゃりと優しく頭を撫でる。
「ん……大丈夫だ。ちゃんと説明してもらうけど。えっと、まず始めに……真城さまと奏さまと兄ちゃんの関係について!」
きゅーとな少年も気になるけど、とりあえずはここからだ。
約一年前、綺麗過ぎるイケメンモデルとしてデビューしたこの二人が何故真田家に居るのか。それは間違いなく兄とどんな関係にあるのかが鍵になってくる。先程のやりとりを聞いていた限りでは、相当仲が良いようだけれど。
「……何て、言うべきなんだろうね」
「そうですねぇ。率直に言うのが一番ですけど、さらに混乱しそうだし」
「まぁそうだけど。ここはバサッと先生と生徒って言っちまえば良いだろ」
先生と……生徒。
せんせーと、せいと……。
「先生?!」
「そうそう。きもちいえっちの仕方を教えてんの」
「ちょっ……!!志摩先生何てこと言うんですか」
「ふふ、照れなくても良いよ。今夜はどんな事しようか?」
「……遊乃先生まで」
志摩と遊乃、という名前がさっきから妙に気になる。……どこかで聞いたことがある名前。しかもそれは最近。どこで、誰に?
確か兄ちゃんが通ってるのは比等学園だよな。
「ってゆうか、先生達ウィッグ取らないのか?」
え?ウィッグ?
「あぁ、そうだな。むれて変な感じだし取るか」
羽恋のその問いにかぽりとウィッグを取る二人。
「那希ちゃんごめんね。こっちが本当のオレ達。オレは奏じゃなくて遊乃、真城は志摩が本名なんだよ」
奏のワインレッド色ロングヘアーは、黒髪の姫カットショートバージョンがリアルだったらしい。
真城は金髪ショートから茶髪セミロングに。
「……ぁ」
それを見たとき、思い出した。
比等の志摩と遊乃。二人の噂は那希の通う地元の高校にまで届いている。……と言うよりも、那希独自の目の栄養情報網にだいぶ前から引っかかっていた名前だ。
最近はとんでもなくドツボな乙女ゲームを見つけちゃったから、それのスチルを集めるので必死だったから忘れてたけどな。
それでもいつか会えたら、と思っていた事も同時に思い出し。
「ま、まじ……?」
真城さまと奏さまが、噂の志摩と遊乃?!
私、どうしたら良いんだ……!幸せ過ぎる、幸せ過ぎるだろ!!だってまさかのコラボだぞ、というかまさかのご本人だぞ?!ご本人登場だぞ!!
「那希大丈夫?顔真っ赤だけど。……那希?」
「……ご本人登場……」
「…………大丈夫じゃないみたいです」
「そりゃこんな急な事言われたらな」
「しょうがないよね」
内心激しい葛藤をした後、まだ彼らの容姿をきちんと見ていない事に気付く。
も、勿体ねぇ……!!
伏せがちだった視線をふと上げて。
「…………!!」
そして今度は他の事に気付いた。
……私、変装解いた方が好きだ。