振り返れば素晴らしき光景
何で真城さまが、こんな所に……?!
これはあれか、幻。
そんな気持ちが拭えなくて、もう一度ちらりと視線をやると。
「ふふ、そんなにビックリしなくても良いだろ?」
「っ……!」
やっぱり居る!!
流石に頭がクラクラとしてきて、ついにおかしくなったのか視界が薔薇の花で埋まり始める。
金髪碧眼超絶美青年という言葉がぴったり似合う彼は、すとんと那希のベッドへと腰をおろして綺麗な笑みを浮かべた。
「にしても、流石兄弟。本当に尚輝とそっくりだな。でも那希には女性らしさもきちんとある」
「ふぇえ……」
どこか夢見心地になりながら、のぞき込んでくる彼に完璧に魅了され、きらきらとした輝きに目を奪われてしまったから気付くのに少し遅れてしまったが。
「ぁ……今、尚輝って……」
まさか、兄ちゃんと何かしら繋がりがあるのかっ……!
「あぁ。尚輝はオレの恋人だから」
いたずらっ子みたいな表情をして、那希の様子が段々と変わっていくのを愉快そうに見つめる。
えぇっと、真城さまの恋人が、尚輝……尚輝は私の兄ちゃんだからえぇっと……。
え。
……えぇえええ!!
「ににに兄ちゃんがこいび――」
「んな訳無いでしょ」
恋人、と言おうとしてどこか呆れたような声音で遮られる。
「嘘ばっかり」
「本当ですよ。勝手に恋人にしないで下さい」
「先生、それはめちゃくちゃだぞっ」
「えー」
あまりにも予想外な事態に頭が真っ白になって。いくつもの魅力的なそれが順に耳朶を打ってゆく。どんな状態になってしまっているのか、振り向きたいものだが上手く首が動かない。
出来るのは瞳をこれでもかという位見開いて、次の展開を待つこと。
「それに、女性の寝室に入るなんて頂けないよ?」
「オレの大事な妹に手出してないですよね?」
な訳無いっつーの!
頭が真っ白なら真っピンクに染め直せば良いし、振り向けないなら私の頭の中のスクリーンで勝手に想像すれば良い。
予想外な事態だって……いんや、予想外なその瞬間を楽しめば良いだけの話。だってこんなに魅力的なシチュエーションなのに、ぼぉおっとしてたら勿体無いだろ?それに、女性の寝室に入るなんて頂けないよ、って言った紳士な彼。……真城さまと一緒によくいるモデルの奏さまなんだよ……!しかも“先生”なんて気になるキーワードも出てるし!!
「出してねぇよ。だから尚輝が代わりに出されれば一件落着」
「残念ながら尚輝はオレのになる予定なんだよ、ね?」
……ま、真城さまと奏さまの兄ちゃん争奪戦?!
「ち、違う!尚輝はっ……!!尚輝は……オレ、だけの……」
中性的な声音だから、オレって言ってないと女の子かと間違えちゃう所だったけれど。最後に参戦した少年は尻すぼみになりながらも、しっかりオレだけのと言い切った。
何でこんなに兄ちゃんモテモテなんだ?これってまさにハーレムってやつじゃないか!生きてる内にこんなレアなもん見られるなんて、思ってもみなかった……。
「あぁ……もう分かった。みんなまとめてオレのになれば解決です。それで良いですよね」
に、兄ちゃん、何て強引なんだ……!強引だけど、昔から男女問わず天然タラシだと命名されてきた兄ちゃんらしいといえばらしい。それに何故だか歯の浮くようなセリフを言っても様になるから不思議だ。
「この天然タラシめ」
「え、志摩先生何か言いました?」
「無自覚が一番の罪とだけ言っておこうか」
「遊乃先生まで……」
ちょ、ちょっと待った!志摩先生と遊乃先生って誰だ?!真城さまと奏さまじゃないのかっ……。
頭がぐわんぐわんとして、全く状況が掴めない。いくら想像力豊かな那希でも追いつけない所まで来ていた。
「もういいです。羽恋に慰めてもらいます」
どういう事だどういう事だと混乱している所、もうここは気合いで振り返ってやると力任せにぎしぎし鳴る首を動かすと。
「っ……?!」
「オレの見方は羽恋だけ」
今までの中で類を見ない程柔らかな笑みを浮かべる尚輝が、とてつもなく可愛らしい少年を絡みつく様に抱きしめる様子。
眼差しはとても優しげで、その少年が“本命”なんだと一瞬で理解した。