第37話「紫炎の涙」
紫えんが明かす事実、驚愕するリューヤ。失われた記憶のもたらす物は・・・・・
リューヤが講堂に入ると後ろで扉が閉まった。
奥に蝋燭の光に囲まれた紫炎が見えた。
「俺はあんたの任務をこなしたらしいな。」
リューヤはそう大声で言って、紫炎の側まで大股で歩いていった。木張りの床の上を歩く靴音は講堂内に大きく鳴り響いた。
「そうです。ですがあなたは納得がいっていない。そうですね?」
紫炎は冷静にそう言ったが、リューヤには取り澄ましているように聞こえた。
「あんたは何もかも知ってるって事か・・・・・・」
「いえ、私も多くは知りません、ただ・・・・・」
「ただ?」
「あなたが結局、より難しい選択をしたという事は分かります。」
「より難しい選択?」
「記憶の喪失の事です。」
「あんたは俺に一週間の記憶が無い事も知ってるわけだ。」
「厳密には一週間ではありません。」
「数時間くらいずれてるかもしれないがな・・・・・」
「そういう意味ではありません。」
「何を知ってる?」
「言えません。」
紫炎は凛とした目でリューヤを見詰めた。その瞳はまるでリューヤを責めるようでもあった。
リューヤは一瞬紫炎から目を背けたが、紫炎の瞳に負けぬように力を込めて紫炎を見詰めた。
「何故言えない?」
「それは・・・・・・」
リューヤは詰問するかのように紫炎に対し、疑問を投げかけた。
「このままではリーンは高い確率で死ぬと言った。その事に関係があるのか?」
「・・・・・・・」
「何故答えない!」
リューヤの口調が激しくなった。
「それを選んだのがあなただからです!」
紫炎は泣き崩れそうな責めるような眼差しでリューヤを見詰めた。
「選んだ・・・・・・?」
リューヤは何を言われているいるのか分からないという表情で、紫炎をそのまま見続けた。そして、暫くして、今目の前に居るのは超越者としての紫炎ではなく、今にも泣き崩れそうな只の少女だという事を理解した。
「何故、あんたがそんな顔をしなきゃならない。俺の知らない間に何が起こって、これから何が起こるんだ!」
「・・・・何故、あなたが自分の記憶を封鎖しなければならなくなったか私は理解出来るつもりです・・・・・ですが、運命を変えるには運命を知るしかなかった・・・・・・例えそれがどれ程熾烈な運命だとしても・・・・・・」
紫炎という名の少女はボロボロと泣き始めた。
「待ってくれ!俺は運命を知ったと言うのか?そして自分の記憶を自分で封鎖したって言うのか?そしてそれはあんたが泣かなきゃならない程の事で、リーンの運命に関わる事だと、そう言うのか?」
紫炎は涙を浮かべたまま、小さく頷いた。
リューヤの頭は混乱した。あの状況を切り抜けただけでも奇跡的だ。そして、無事任務を果たしたという事はなおの事絵空事にしか聞こえない。その上、リューヤは運命を知り、その上で自ら記憶に封鎖をかけた。
この一週間に何が起こり、何を知り、何が出来たのかまるで理解できなかった。
「リーンは、」
リューヤは、呟くように小さくそう言いかけ、意を決して紫炎に問った。
「リーンは助かるのか?」
紫炎はゆっくりと横に首を振る。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「もしあなたが運命を受け入れた上でなお立ち向かう決心が出来ていたならば、あなたはここには来ていないのです。」
「・・・・・・・・手遅れという事か・・・・・・・・?」
紫炎はコクリと頷いた。その瞬間、リューヤには目の前の風景が闇に沈んでいくように見えた。




