第33話「短い手紙」
いきなり、待ち合わせのアパートの前に出たリューヤに、西城からの手紙が待ち受けていた。記憶を失った一週間に何があったのか?
リューヤは西城からの手紙の封を切り、中の便箋を取り出し開いた。
龍也へ
お前が帰って来るのはまだ先のようだから、この手紙を残して置く。お前が何を知り、何を覚えているかは不明なので結論だけ書いておく。
陽子と俺は無事だ。そして任務も無事果たせたはずだ。後はお前さんが紫炎に会う事でまるく収まる。
俺と陽子が何故お前を待っていないか疑問に思うかもしれないが、我々の任務は既に完成している事を俺達は知ったんだ。そして、我々はお前にとって足手纏いにしかならない事も知った。
だから我々はお前の元を去る。これはアレクシーナ様も承諾された事だ。お前とアレクシーナ様の武運を祈ってる。
西城 真治
文面はこれだけだった。任務を果たしたという事は、伝説の宝珠とやらは西城か陽子が見つけ紫炎に渡したのだろうか?それとも記憶に無い間にそんな事を自分がしたのだろうか?
何かがおかしい。西城や陽子が無事に逃げられたとしても、俺自身は絶体絶命の危機だったはずだ。あの局面から逃げ延びるのは不可能に近い。いや、それ以前にあれ程大規模な包囲網があったのだから、西城や陽子も逃げる事はほぼ不可能だ。だが現実には、あの状況で三人とも無事帰還出来たという事だ。しかも任務を果たし・・・・。
あり得ない話だった。
どうやって・・・何があった?リューヤは手紙を読み返した。そして、読み返し始めてすぐ、
「お前が帰って来るのはまだ先のようだ」
という文面に目が留まった。
この言葉を信じるならば、俺はどこかに行っていたという事になる。その上、西城はその事を知っていた。リューヤは、何があったのか必死で思い出そうとした。
だが、リューヤの現実感は、あの山の中から突然「A-3」の部屋の前に現れたという実感しかない。
記憶喪失にせよ何にせよ。こんな事があるのだろうか?リューヤは今目の前に突きつけられた現実に対応しきれなかった。
リューヤは暫く思案して、アレクシーナに連絡する事を思い出した。記憶が失われているだけならば、定時連絡を行っているはずだ。ならば、アレクシーナは何か知っている可能性が高い。
リューヤはそう思って、部屋の電話を手にとった。




