第10話「公国の老女」
リューヤ・アルデベータ、クライ公国の公女と出会う。アレクシーナと公女との新たな約束、リューヤはリーンに出会えるのか
「アレクシーナ様御一行はこちらへ。アルテイル=ヘン=ミュールがお話したいと申しております。」
兵士の一人が言った。
「分かりました。」
アレクシーナはそう答え、兵士の先導に従った。
連れられた先は、一際大きな聖堂のような場所だった。キラキラと輝くステンドグラス。アレクシーナの謁見の間もたいした物に思えたが、こことは比べ物にならないように思えた。
一番奥にある円卓の側の椅子に一人の老女が腰掛けていた。
アレクシーナが跪く。リッターがそれに従い通訳とリューヤがそれに続く。
「アルテイル=ヘン=ミュール閣下ですね。」
「そうです。遠いところをようこそ。」
ミュールは優しい口調で言った。
「お掛けになって下さい。あなたも一国の王女。そのような姿勢は似合いませんよ。・・・・・お連れの方にも椅子を御用意して。」
ミュールは下女にそう指示した。
「では。」
アレクシーナが円卓の椅子に座り、リューヤ達は用意された椅子に座った。
「まず、御無礼のお詫びとアール・アールの誅殺に手を貸してくださった事に礼を申し上げます。ありがとう。」
「いえ、こちらこそ国際問題になる前に手を打って頂いた事に深く感謝いたします。」
アレクシーナは頭を下げた。
「アール・アールは有能ではあったけど、私欲に走り過ぎていたわ。ベータ研究所の研究結果すら自分の私欲の為に使おうとしていました。お恥ずかしい限りです。あなたにはお礼をしなければならないわね。」
「・・・・・・」
「望みは何?」
「両国の繁栄と平和・・・・でしょうか。」
「それにはお互いがもっと信頼し合う事が必要ね。」
「は!お言葉の通りで・・・・」
ミュールはコクリと頷き、言葉を紡ぎ出した。
「ベータ研究所の統括には信頼出来る者を新たに送りましょう。そして・・・・あなたにベータ研究所への自由な出入り、そして研究結果の自由な利用を認めます。」
「は!有難うございます。」
「危険な事ですが・・・あなたがこの研究を悪用する者ではないと信じて許可を出すのです。」
「肝に銘じておきます。・・・・もう一つお願いがあるのですが・・・」
「何かしら?」
アレクシーナは一瞬言葉を止めてゆっくりとした口調で喋り始めた。
「ここにいるリューヤ・アルデベータのベータ研究所への出入り、そしてイレーザ病院特別病棟への出入りを許可して欲しいのです。」
ミュールはリューヤの方へ目を向けた。優しげな目だった。
「あなたが、リューヤ・アルデベータね。」
「は!そうであります。」
「アルファ能力の初めての実戦レベルでの成功例と聞いています。大変な事ですが期待していますよ。」
「は!ありがとうございます」
ミュールはアレクシーナの方を再び向いた。
「ベータ研究所は非常に危険な研究所です。あまり多くの者に出入りさせたくはないわ。」
「・・・・申し訳ありません。」
「ですが、一国の王女に護衛無しと言う訳にもいかないでしょう。護衛一人をつける事を認めます。あなたが誰を選ぶかは私の知るところではありませんが・・・・」
「ありがとうございます。」
「アレクシーナさん。あなたはイレーザ病院特別病棟の危険度を知っていますね?」
「はい。しかし、これはどうしても飲んで頂かなくてはなりません。先程のベータ研究所への特別なはからいをお返ししてもです。」
アレクシーナは強い目でミュールを見た。
「何故です?」
「この者と約束しました。幼馴染に会わせると。」
病院?病院にいるのか?危険?危険って?
「私は我が国の者がかけた迷惑にお詫びをしなければなりません。分かりました・・・・・リューヤ・アルデベータのイレーザ病院特別病棟への立ち入りを許可しましょう。」
「ありがとうございます!」
アレクシーナはほんの少し嬉しそうな顔をした。




