第13話 そしてそれから。
あの秋、王太子殿下の婚約式に出席するためにしぶしぶ領地から出てきたランドルフ。いつもの通り、妻の視線を避けてうつむいて黙り込む息子。
ユリアーネがわざとらしく、自分の侍女にお茶を出させている。聞かれてもいないのに「私の新しい侍女なの」などと説明している。下手な三文芝居を見ているようだ。私の胃がきりきりと痛む。
お茶を出していたフローラが、妻の言葉を受けて挨拶をする。
「初めまして若旦那様。フロレンティーナと申します。フローラとお呼びください」
「……」
ゆっくりと息子が顔をあげる。
ランドルフのあんなにも驚いた顔を見たのは初めてかもしれない。
「フローラ?」
「……え?」
私はユリアーネを連れてそっと部屋を出た。ユリアーネはまだ二人を見ていたかったようだが。
「ラウラが目を覚ますぞ?」
そう言うと妻は、いそいそとフローラの侍女用の部屋に引っ込んだ。私もドアの隙間からラーラの寝顔を眺めた。よく眠っているようだ。
***
ランドルフとフローラの結婚を機に、代替わりもした。
結婚式にはもちろんフローラの家族も、王都で看護師の仕事をしている彼女のおばさまも来てくれた。イング国にいる友人からお祝いも届いていたようだ。
私は3年前にお隣の国フールにもうちで産出する宝石の支店を出し、支店長にヘンリックを探し出して、据えた。ヘンリックの妻は流行に敏感だったしセンスも良かった。裸石以外にも加工した宝飾品も扱いだし、今ではフール国内に6つの支店を出すまでになった。代替わりするタイミングでヘンリックにうちの国内の店も任せた。ランドルフは販売部門を切り離し、今はヘンリック夫妻に丸投げしている。
冬になると王都にあるうちの屋敷に、息子たちの家族が集まってにぎやかになる。
私と妻はいつの間にか、7人の孫持ちになった。孫たちにあげるお小遣いが大変だ。うふふっ。
…そうそう。ヘンリックの嫁にユリアーネは床に頭が付くほど深々と謝った。
「ごめんなさいね。あなたたちのことを反対したのは息子の幸せを思ってのことだったの。あの子の本当の幸せなんて、私にはわからないのにね」
そう言って。
ちなみに…フローラの件は墓場まで持っていくらしい。ランドルフにはどうも薄々気づかれているようだが。
***
「おばあちゃま、運動をしないとまた腰が痛くなりますよ?」
嫁にそっくりな口調で、ラウラがユリアーネの手を引っ張って散歩に誘っている。
「あら、だって今朝は寒いわ」
ささやかに反抗している我が妻の肩に、ヘンリックの息子のハーラルトがふわりとショールをかけて笑った。
わらわらと集まった孫たちに引かれるように庭に連れ出されていくユリアーネを眺める。
「おやおや、母上はラウラの言うことは聞くんですね?」
面白そうに笑いながら、ヘンリックがつぶやく。
「…そうだな」
その隣で生まれたばかりの子供を抱きながら、ランドルフがやはり笑っている。
二人の奥様方は台所でメイドたちと賑やかにお菓子を焼いているようだ。
暖炉の火がよく燃えて、部屋はほんのりと暖かい。
庭からは孫たちの笑い声と一緒に、ユリアーネの笑い声が聞こえる。
お茶を飲みながら、私はその声に思わず微笑む。
なあ、ユリアーネ。本当の幸せなんて、よく見たら割とすぐそばにあるもんだな。




