第1話 理不尽な死
10月3日 23時59分 とある住宅街
「あと1分で16歳か〜」
枕元の時計を見ながら呟く。
その瞬間を目撃した所で特に特別なことが起こるわけではないが、なんとなく眠れなかったのでせっかくなら見届けることにした。
「⋯⋯なんか風強いなー」
さっきからゴーゴーと強めの台風くらいの風の音が聞こえる。
10月にも台風って来るものなのだろうか。
雨音は聞こえないしただの強風かな?
無性に気になったので窓を空けて外を見てみた。
「⋯⋯え?」
そこには、住宅街の風景に絶対にあってはならないもの⋯⋯こっちに向かって突っ込んできている旅客機があった。
「ぁ⋯⋯」
頭が理解するよりも早く。
身体が動き出すよりも早く。
そして、時計の表示が0:00に切り変わるよりもほんの少し早く。
世界が、壊れた。
────────────────────────
「ん⋯⋯ん?」
目が覚めると、四方八方が光の板で包まれているような空間にいた。
「ここどこ?私どうなったの?何?ドッキリ? ⋯⋯いやいや、旅客機が突っ込んでくるドッキリなんてあるわけないでしょ。それに私芸能人とかでもないし。」
「ドッキリではありませんよ、成瀬愛莉さん」
「!?」
誰!?なんで私の名前を!?
思わず声の方に振り返る。
するとそこには、まさに「女神」というのがふさわしい、神々しく美しい女性が立っていた。
「え、え、め、女神様?」
「おや、よくお分かりになりましたね。そう、私は女神です」
本当に女神だった。
「なんで私の名前を?」
「それはもちろん、女神ですから。」
いやまあそれはそうなんだろうけど⋯⋯
「私どうなったんですか?確か旅客機が突っ込んできて⋯⋯あ、もしかして夢?夢か。そうだ、きっと夢だ」
「夢ではありません。あなたは、死んだのです」
「⋯⋯は?」
死んだ?私が?
「いやいやいや、そんなわけないでしょ。今こうしてここにいるし、身体もある⋯⋯」
自分の目で見たものが信じられないこともあるんだな。
胸に当てようとした手が身体をすり抜けた。
「え⋯⋯嘘⋯⋯」
「意識ははっきりしていますよね?これはドッキリでも夢でもなく、現実なのです」
「夢じゃないのなら⋯⋯もしかしてさっきの旅客機に私は⋯⋯」
「はい。トラブルでコントロールを失った旅客機が不運にもあなたの部屋に突っ込み、それに巻き込まれてあなたは⋯⋯」
身体から力が抜け、その場にへたり込んでしまった。
ああ、私は本当に死んだんだ。
理解した途端一気に出てきた涙が頬を伝って落ちていく。
「受け止めきれないのも無理はありません。ですが⋯⋯」
「受け止めきれないに決まってるでしょ!こんな⋯⋯こんな急に終わっちゃうなんて⋯⋯」
「⋯⋯死とは、過程はどうであれ例外なく誰にでも起こる平等な最期。理不尽に突然襲ってくるものなのです。」
「平等?理不尽?『突然深夜に自分の部屋に旅客機が突っ込んでくる事故で死ぬ』のどこが平等なの!?理不尽とか不運とかそんなレベルの話じゃないでしょ!!!」
「⋯⋯申し訳ありません。言葉選びを間違えてしまったようですね」
「⋯⋯っ!」
怒りや悲しみでぐちゃぐちゃになった頭からどんどん言葉が溢れてくる。
「⋯⋯家族がいた。お父さんとお母さんと妹とペットの亀。友達も少なかったけどいた。やり残したこと、やらなきゃいけないことも沢山あった。それに、あと1分⋯ううん、きっとあと20秒もしないうちに私は16歳の誕生日だった。なのにこんな、こんな意味不明な事故で死ぬなんて⋯⋯こんなのあんまりだよ!!!!」
光の空間に私の声が響く。
女神は何も言わなかった。
初対面のよく分かんない人に向けて怒って、泣いて、何もかもをぶちまけた。
いくら喚いた所で何も変わらないことなんて分かってる。
だけど止められなかった。
────────────────────────
言葉も涙も枯れてきた頃、ずっと黙っていた女神が口を開いた。
「落ち着きましたか?」
「⋯⋯はい。その⋯⋯さっきは怒鳴っちゃってごめんなさい」
「いえ、私も慣れていますから。」
慣れてる⋯⋯他の死んじゃった人もさっきの私と同じように怒ったり泣いたりしてたってことか。
そうだよね。誰だってそうなるよ。
他にも私みたいなひどい死に方した人いるのかな⋯⋯
「それでは、そろそろ死後についての説明を始めますね。」
「え?このまま無に消えていくんじゃないんですか?」
「死んでしまったからといってそこで何もかもが終わりというわけではありません。むしろ新たな始まりに繋がるのです。」
「新たな始まり⋯⋯」
突然女神が私に向けて手をかざす。
すると、画面?みたいなものが出てきた。
「なんと、あなたは〝善行ポイント〟が基準値を上回っているので、死後どうなるかを3つのコースの中から選択することができますよ。おめでとうございます。」
善行ポイント?3つのコース?どういうこと?
というか死んだ人に向けておめでとうございますて。
「いやあの、ついていけてないんですけど」
「順番に説明しますね。まず善行ポイントというのは、簡単に言えば生前にどれだけ〝良いこと〟をしたかどうかが数値化されたものです。あなたはこれがかなり多いので、ご褒美として死後どうなるかの選択権が与えられます。」
良いことをすると自分に返ってくるっていうのはどうやら本当だったらしい。
もう今となっては伝えるすべもないけど。
「次に3つのコースについて。まず1つ目のコースは、『天界コース』です」
天界コース⋯⋯天国に行くみたいな感じかな?
「天界はあなた方のイメージする天国とあらかた同じものです。多種多様な娯楽が揃っていて、一人一人が好きなように楽しんでいます。」
「え、めっちゃ良いじゃないですかそれ。じゃあ天界コースに⋯⋯」
「話は最後まで聞いてください。良い部分ばかりではないのです。天界コースを選ぶと、天界で争いごとが起こるのを避けるために怒りや恨み、嫉妬や色欲などが思考から排除され、〝人間らしさ〟を失ってしまうのです。」
「自分が自分じゃなくなっちゃうみたいですね⋯⋯」
「はい。これも1つの幸せと考える方も中にはいますが、愛莉さんと同じ考えの方も多いですね」
一旦天界コースは無しだな。
自我を奪われる代わりに娯楽三昧ってだいぶ本末転倒な気がするし。
「次に2つ目のコース。『生まれ変わりコース』です。」
生まれ変わり。一番死後起こりそうなイメージが強いやつだ。
「前回の人生の記憶は完全に消去され、肉体も精神もリセット、どんな世界でどんな種族にどう生まれるかが全てランダムに決まります。生前の記憶を忘れたい方や全てに絶望しているような方にはこのコースが推奨されていますね」
なるほど。このコースはそんなに悪くないな。
けど記憶が無くなるのはちょっと嫌だな。
忘れたい嫌な思い出が無いわけじゃないけど、それ以上に忘れたくない大事な思い出が多いし。
このコースも一旦保留で。
「それでは最後の3つ目のコース。これは善行ポイントが一定値を上回っている方のみが選ぶことのできるやや特殊なコースです。その名も、『転生コース』」
「転生?転生ってあの?ラノベやらアニメやらでよく見るあの?」
「ええ、〝転生もの〟と大部分は同じですね。転生コースでは、肉体や精神、記憶などはそのままに別世界に転生することができます。」
おお⋯⋯本当にイメージのままなんだ。
「そして一番のメリットは、いわゆる『チート能力』のようなものを得ることができるという点です」
それもあるの!?
「本当ですか!?」
「ええ。やはり人間は『チート能力』に惹かれるものなのですか?」
「そりゃあもちろんですよ。私が中学生の頃なんて厨二病が大量発生してましたからね。みんな『俺が転生したらこんなチートスキルが〜』とか『この能力で邪神を瞬殺して〜』とか言ってましたよ。」
まあ私もそのうちの1人だったからあんまり人のこと言えないけど。
「どんな能力を貰えるのかって指定できるんですか?」
「実は、厳密に指定することができないんです。例えば『炎を操る能力』のような大雑把な指定しかできません。」
「なんでですか?」
「能力を細かく指定しても転生先の世界それぞれの仕組みや概念によって能力が少しずつ変わってしまうんです。」
「『炎を操る能力』を指定したのに『炎の温度を10℃上げる能力』みたいになっちゃうかもしれないってことですか?」
「いえ、基本的な性質は保証されるのでそこはご安心を。無数に存在している世界の中から、希望した能力を無理なく成立させられる世界を見つけ、そこに転生させるという仕組みなのです」
世界を検索するみたいなことができるのか。すごいな。
あれ?でもそれって⋯⋯
「無数の世界の中から条件に合う世界を探せるのなら、完璧に条件に合う世界を見つけられるんじゃないですか?」
「世界が無数にある分探すのにも時間がかかってしまうので、1人を転生させるだけなのに時間の無駄だと上層部がおっしゃっていて⋯⋯」
「えぇ⋯⋯」
こんないかにも上位存在な感じなのに会社みたいなシステムなのか⋯⋯
「申し訳ない気持ちもありますが、私にどうこう言われてもどうしようもないのでそこはご了承ください」
「は、はあ⋯⋯」
「他になにかご質問は?」
「『時を止める能力』とか『事実を改変する能力』とかそういうチート中のチートみたいな能力って指定できるんですか?」
「⋯⋯詳しくは省きますが、不可能、とだけ」
「そうですか」
「残念ではないのですか?」
「いや、時止めとか事実改変とかって強いけどロマンが無いじゃないですか。多少チートだとしてもちゃんと戦いたいんですよ」
「てっきり人間は皆無敵の力を欲しているものなのかと。」
「まあ、神みたいな力が欲しいって人も多いと思いますよ。」
すると女神はやや不服そうな顔をして言う。
「神だって自由に力を行使できるわけではないんですよ。」
この人も大変そうだな⋯⋯
「質問は以上ですか?」
「はい」
転生コースにしよう。デメリット全然ないみたいだし。
徳積んでて良かった。
「あ、すみません。転生コースのデメリットについての説明がまだでしたね。」
デメリットあるんかい!
いや、そりゃあそうか。明らかにメリットがおかしいもん。
「どんなデメリットですか?」
「得た能力の強さに応じて、相応に過酷な世界へと飛ばされてしまうのです。能力をフル活用してもすぐに死んでしまったケースも少なくありません。そしてすぐ死んでしまうと善行ポイントが貯まりませんので、コースを選べず強制的に天界コース行きとなってしまいます。」
「そんな⋯⋯」
「ですが視点を変えれば、その世界を救うチャンスでもあります。一般人でもヒーローになれるかもしれない。そんなコースです」
なるほどね⋯⋯ヒーロー、か。
「ちなみに、能力を弱めたりしたら過酷度も多少マシになったりするんですか?」
「それはおすすめできませんね。形は違えどそれぞれの世界にそれぞれの〝敵〟がいますので、半端な力ではそれこそすぐに死んでしまうでしょう」
「ハイリスクハイリターンってやつですね」
「そうですね。本当にうまく行けばいい人生が待っていますが、少しでも間違えてしまうと⋯⋯」
天界コース直行で自我を奪われ、抜け殻化と。
「それでは、3つのコースの説明は以上です。どのコースにするかは決まりましたか?」
「決めました」
半分は消去法、半分は「やり残したこと」を成し遂げられるかもしれない可能性への希望。
「転生コースにします」
「一度決めてしまうともう後戻りはできませんが、本当によろしいですか?」
「はい。」
「分かりました。それでは、手続きを始めましょう」
───────────────────────
「手続きって具体的には何をするんですか?」
私が聞くと、突然女神の前にに夏休みの宿題のワークくらいの量の書類が出てきた。
「この書類に情報を記入していただければ、あとはこちらで進めますので」
「⋯⋯神様でも書類使うんですね」
「転生コースには色々と複雑な事情が絡み合っていまして、この書類のような〝きっちりしたもの〟を使用しないといけないという規則でして。」
規則多いな。神様のイメージ崩れそう。
とりあえず書類を受け取る。
「えっと何々⋯⋯『転生希望届』⋯⋯」
いや市役所か。
もうイメージがボロボロだよ。
「あまり人間のものと逸脱していても記入に時間がかかってしまうかもしれないので、そのような形式になっています。」
合理的ではあるな。
読み進めてみると、最初の3ページはいわゆる〝自己紹介カード〟に書くような内容だった。
名前や誕生日はともかく、好きな食べ物とか趣味とかの記入欄があるのはおかしいでしょ。なんだこれ。
「なんか内容ちょっと変じゃないですか?」
「やはりそうですか⋯⋯」
「やはり?」
「書類の形式は何度か変更されているのですが、今の形式に変更してから毎回転生者に内容が変だと指摘されているんです。」
「じゃあまた変えればいいんじゃ?」
「上層部に何度か掛け合ったのですが、毎回『今は忙しいんだ』と追い返されてしまって⋯⋯」
「ご苦労さまです⋯⋯」
仕方がないので変な質問にも答えつつ書き進めていくと、ついに「希望する能力」の欄が出てきた。
「これって大雑把な指定しかできないんですよね。」
「はい。できるだけ大雑把にお願いします。」
厨二病の頃はどんな能力を妄想してたっけ。
こういう時に限って思い出せないんだよなあ。
炎とか雷とか水とかの属性魔法的なのは趣味じゃないし、催眠とかの精神操作系も違うな。
武器とかか?
剣、弓、槍、斧、ナイフ、刀⋯⋯
そうだ、刀だ。最強の刀を使って無双する妄想してた。
「『最強の刀を使いこなせる能力』にしたいんですけど」
「恩恵に武器を選ぶのはあまりおすすめできませんよ。付与された能力の補助があっても結局は自分自身の実力に左右されますし、身体能力自体は一般人のそれから何も変わりません。」
「確かに⋯⋯」
一理どころか二理三理くらいある。
「指定した能力以外に付与される恩恵は、言語理解などの『最低限無いと何もできないもの』のみなので、武器を扱うセンスなどは本人の実力次第です。」
無難な択ではないのは分かってる。
だけど、さっきこれを思い出した時に何かを感じた。
天啓なのか、それともただの気のせいなのかは分からない。
もしかしたら「運命」なのかもしれない。
それに、昔の私のくだらない妄想を叶えてあげられるチャンスだ。
「それでも、私は刀を使いたいです」
「⋯⋯繰り返しますが、これらの選択は決して後戻りができません。本当によろしいのですね?」
「はい。」
「力強い素晴らしい意思ですね。」
女神は少し微笑み、書類に手をかざすと、「希望する能力」の欄にしっかりと『最強の刀を使いこなせる能力』が刻まれた。
「それでは、引き続き記入をお願いします」
ああそうかまだあるのか。
勝手にもう終わりだと思っちゃってた。
そこからは服装の指定があったり、注意事項などが長々と続いた。
「ふう、これで終わりですか?」
「はい、終わりです。お疲れ様でした。」
ゲームのキャラメイクしてるみたいな気分だったな。
「気になることが無いようであれば書類を上に提出しますが、問題ないですか?」
「はい、気になることは大体聞いたので。」
「分かりました。それでは提出しますね。」
女神はそう言うと、書類を丸めて紐で束ね、上の方に飛ばしていった。
上に提出って本当に上なんだ⋯⋯
「すぐ申請は降りるので少々お待ちを。」
「上層部の神様達、提案は聞いてくれないのに仕事はきっちりするんですね」
「ふふ、そうですね」
女神と談笑するという奇妙な体験を味わっていると、上の方から1枚の紙が降ってきた。
女神はそれを確認すると私にも見せる。
〝許可する〟とでかでかと書いてあった。
なんか雑じゃない?
「おめでとうございます。無事に許可が降りましたよ。」
「⋯⋯降りない場合もあるんですか?」
「担当の者がそうならないように転生者を誘導するので基本的には許可は降りますね。ですが、誘導に反抗したり、あまりにも強力すぎる能力を指定したりすると許可が降りないこともありますね。これは先ほど『詳しくは省きますが』と省いた部分なのですが、せっかくなので話しちゃいますね。」
あ、さっき私が『チート中のチートみたいな能力は指定できるのか』って聞いた時のやつね。
「以前、希望する能力を『全知全能』とした方がいました。その時の担当は疲れていたのかなんなのかは分かりませんがそれを止めずにそのまま提出し、許可が降りなかった上に『こんな能力を指定するなんて傲慢すぎる』としてその転生者が転生コースに行くのを禁じました。ついでにその担当も降格処分です」
「うわあ⋯⋯」
色々と酷いな。本当に色々と。
「そろそろ転生の儀を行いましょうか」
「おお、ついに!」
「行うとは言ってもあなたはほぼ何もしなくてもいいですよ。その場で仰向けに寝転がって貰えれば。」
「あ、分かりました」
寝てるだけでいいのはありがたいけどなんか転生するっていう実感が湧かないな。
「では、始めます」
そう言うと、女神は私に向けて手をかざす。
その瞬間、壁や天井の光がより一層強まる。
眩しい。
女神は何かを唱えてるけど全然聞き取れない。
ふと床を見てみると、私を中心に魔法陣的なものが広がっているのが分かった。
「女神様!色々ありがとうございました!」
「いえいえ、これが役目ですので。」
なんとなく目をつぶる。
次に目を開ける頃には異世界にいるんだろうな。
けどやっぱり実感が湧かない。
今更夢だ非現実だとは思わないけど実感は湧かないよこれ。
あ、なんか眠くなってきたかも。
そろそろっぽいな。
「それでは愛莉さん!ご武運を!」
「が、んばりま、すぅ⋯⋯」
女神からの言葉が聞こえたと共に、私は眠りに落ちた。
────────────────────────
最後まで読んでくれて本当にありがとうございます!!!!!!!!
説明ばっかりで退屈だったかもしれませんが、そこは趣味クオリティと言うことで⋯⋯




