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第一章 ありがちな展開より、愛をこめて


第一章 ありがちな展開より、愛をこめて


「手を合わせろ、いただきます」

「「いただきます」」

「にゃ。」

やっと朝飯だ。結局目が覚めるまで時間がかかったため、せっかくいい具合の味噌汁だったのにすっかり冷めて風味が台無しになってしまった。ひとしきり黙々と飯を食う。

朝のメニューはご飯、味噌汁、漬物、缶詰ミカン、メザシ、ツナ缶、たわし、まあ当分飢えはしのげるメニューだな。

「・・・・・・・にゃあ。」

さすが、良く食べるなぁソウイチロウさん。

「あの~・・・ 総一郎ちゃん?」

ソウイチロウさんはメザシを気に入ってくれたようだな、良かった良かった。

「総一郎ちゃん! おれだけ、朝食がツナ缶とたわしってどういうことだい? しかもツナ缶の中身空っぽですよ!」

「気にするな、きっと鉄分やアルミニウムがたっぷりだ」

「鬼ぃ! 俺最近は悪い事してないのに! 金属とヤシの実の繊維を普通に食えるみたいにいうよなぁ・・・・ シクシク」

シクシクって自分で言ってるしコイツ

「嘘泣きはよせ、その顔は目に毒だ」

「えぇい、そのメザシをよこせぇぇぇ!」

貴彦の箸がメザシを狙う。

「断る、日頃の行いの報いだ」

皿をずらして回避、そのまま貴彦の頭を腕ごとチョークスリーパーで固め

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ、ミカンの汁を目薬のようにいれるなぁぁぁぁ」

ゲス野郎にミカンの汁で制裁を加える、わざわざ缶詰のミカンを用意したかいがあったな。

「今朝の行動は、夢見荘第3条『あんまり周囲に迷惑をかけない』に違反するだろうが。」

「『あんまり』って曖昧な定義だからいいじゃないかよぅ・・・ しかも半分は総一郎ちゃんのせいじゃんかよう・・・・」

ポロポロと涙ながらに訴える貴彦、

「知らなかったぞ。そんなに軽金属が食べたかったとはな、遠慮なく食べるがいい。」

「スイマセンデシタ、モウシマセン」

「片言とはいい度胸だ、部屋の荷物をオークションに出しといてやる」

「すいませんでしたっ(土下座)」

「うにゃ!」

「あぁ・・・床って冷たいんだね・・・・」

ソウイチロウさんに頭を押さえられる貴彦、少し顔がニヤけてるぞおい、

ってかコイツ我が家での地位がついに最下位になったようだな、こりゃ。

「しかたない、今回ばかりはゆ・・・」

「ありがとうございます! ロリコン野郎!」

「・・・るさない! やっぱりたわしを食え!」

「えぇ! 敬意を表したのに・・・・」

「俺はロリコンではない!」

「姫のんに付きっきりなのに良く言うよぉ!」

「さて、棺桶のサイズはどれくらいだ?」

小さめにしといて畳んで入れよう、

「ん? ロリコンではないということは・・・・」

すこし考えるそぶりを見せる貴彦、

「まさか、ついに姉属性に目覚めたか! 感服した!」

もういいや、コイツには付いて行けん。墓標の無い墓がまた一つ・・・・

「・・・・・・貴彦」

「ということは、朋恵さんとついに禁断の一線を・・・ってなんだい? 総一郎ちゃん?」

「逝っとけ!」

振り向きざまに拳を食らった貴彦は吹っ飛んだ。おお、このままなら明けの明星になりそうだ。




「ふぅ」

一息ついてカレンダーに目をやる。赤で印がついてた。

うむ?・・・ 今日なんかあったけか?

「姫野、今日なんか予定ありか?」

「・・・・・」

「おいコラ、姫野! シカトすんな!」

そう言いつつ目線を向けると、うとうとしている姫野が目に入る。さっきのようにパン一ではなく、ラフなTシャツに学校の体育着である短パンという普段着に着替え、いつものように髪はポニーテールにまとまっている。頭にある大きめのリボンが呼吸にあわせてゆっくり上下したり、左右に揺れたりしている。

ったく、この『眠り姫』が・・・

食べかけの茶碗を置き、姫野の頭へ手を伸ばす。

子供のころから本っ当に変わらんな、コイツ。

うわっ、髪の毛サラサラ・・・ちょっと気持ちいいかも・・・ 思わず頬がゆるむ。

じゃなくて! 

ワシっと頭を掴み、ぐりぐり回しながらさっきと同じ質問をする。

「ひ~め~の~、今 日 何 か 予 定 は あ り ま す かぁ~」

「ふぇ! あ? ああ、もう朝ごはんか・・・・ で、何? 総一」

おはよう『眠り姫』、

「今日、予定はあるのかと聞いてるんだ。」

「うん? あ~、え~と総一、先週ぐらいに朋恵から連絡来たんじゃない?」

朋ねぇから?

え~と確か近況報告と、某居酒屋チェーン店のツケと、スナック「赤星」のツケと、ホストクラブ「ジュリエットにようこそロミオ様」のツケと・・・  あ、

「・・・来た。」

「それのこと、私が印を書きこんでおいてあげたのよ。」

ふふんっ、と得意げに鼻をならし胸を張る姫野

なるほど・・・今日はあの日か・・・

「ふぇ? ずぃべぼばにごあい●d×△♪tん。」

結局普通の朝飯を与えたらこの様だ、一度テーブルマナーを拳で教える必要があるな。

「バカ彦、飲み込んでから話せ。」

「んっんぐ・・・・ 自分聞いて無いけど、何事だい? 総一郎ちゃん。」

「お前さんには関係ない」

「姫のんも知ってて、俺だけ仲間外れなんてひどいよぉ」

別に興味を引く内容じゃないが・・・ まぁいい。

「まぁ、あれだ。またしても転校生が来るんだと」

「重要! 俺にもけっこう重要! その話!」

「最近多いわね~、そういうの。」

「まあな、ここにいい実例があるし。」

「そういやそうか。そうだったねぇ総一郎ちゃん・・・ あの時は・・・(遠い目)。」

「そうだな、貴彦・・・(遠い目)」

確かに色々あったような気がする。

「そっ、その話はいいでしょ! で、今日なんでしょ? 来るの?」

せっかく懐かしい気分に浸ろうとしたのに・・・

「ああ、夕方ぐらいに来るらしい。朋ねぇ曰く、か な り かわいい。」

「へぇ・・・あたしはとっても元気ですこし高飛車ってきいたわよ。」

「かわいくて元気で高飛車か! いいねぇ! ついでに俺にだけ優しくて、朝は『おはよう」って起こしてくれて、未来人で、地球の中心で、ツンデレ、ツインテール、ニーハイの女の子だったら最高! できればそんな子を急募している!」

「「却下」」

おぉ、姫野とハモった。

「明日はハードディスクを427分割で切断してやる、覚悟しろ。」

「まさに『死にな!』ってか、このひとでなしぃ!」

「「知るか!」」

「ハモってんじゃねぇーつぅーのぉ! 俺の汗と涙と鼻水と貴重な時間の結晶を殺られてたまるかぁ!」

「ゲーム廃人は死ね!」

「同感だな」

いいつつ茶碗を置く

「ごちそうさま」

さて、万屋の仕事をするか・・・

「ううう・・・・・ データのバックアップを脳内に準備しなくちゃな・・・・」

こいつの空き容量に入りきるかが心配だ・・・

「茶碗はまとめとけよ、二人とも」

「「はいはい」」

ハモってるぞ、御二人さん。ってか洗ってくれる優しさは・・・無いよなこいつら。




まだ朝飯を食ってる二人はほっといて、自分の部屋に向かう。零号室と呼ばれる自分の部屋は食堂の隣、普通なら一号室と呼ばれる位置にある。部屋の中は卓袱台が一つ、余計な家具は置かない主義なんだ。貧相だってか? ほっといてくれ。

昨日現像した写真をとりだし卓袱台に並べる。

「なかなか良く撮れてるな」

自画自賛な独り言だ、ほっといてくれ。

今は7月、季節は夏。大きな入道雲や青々と茂った緑の葉っぱ。

うむ、自然はいい。自然は心を癒してくれるよなやっぱり。

ついでに十数枚の「女の子」。

「こっちもなかなか良く撮れてるな」

自画自賛な独り言だ、ほっといてくれ。

万屋稼業も楽じゃない・・・

写真を眺める。

これがいいかな? こっちか? うむむ。やっぱりこの子にはこの写真かな?

うんうんと一人で悩んでいると

ジリリリリリリリン! ジリリリリリリリン!

不意に携帯の着信音が鳴った、昔ながらの黒電話音だ。

電話にでると聞きなれた声が響いた。

「おう! 俺だ!オレオレ!」

「詐欺だ。」

ブツッ。

まったく、どんだけテキトーな詐欺師だ。俺を狙うとは。

ジリリリリリリリン! ジリリリリリリリン!

再び携帯が鳴る。やれやれ懲りない奴だ。

「総、俺の電話を切るなんていい度胸だ? そんなに俺が嫌いか?」

「先週も掛けてきただろ、朋ねぇ。俺は忙しい、一回の電話で要件を済ませろっての。」

やっぱり朋ねぇだったか、とりあえず女の子なんだから一人称で「俺」はやめようか。

「総、そろそろ呼び方を変えてくれてもいいんだぞ?」

「断る」

冗談じゃない、朋ねぇは朋ねぇだ。まぁ戸籍上は別な呼び名があるけど・・・

「もう5年になるんだし・・・」

「そればっかりはどんだけ頼まれても『イヤだ』」

雅孝には申し訳ないけど・・・・

「・・・・・・・・っ! ま、まぁ焦らなくてもいいよ、おいおいね」

「ああ、おいおいな」

「ってか、新しい転校生の事聞いてるよな? くれぐれも、よろしくな。」

「転校生に俺の仕事は知らせてるんだよな?」

これは、本職の管理人の仕事だ。俺はあくまで代行だからな。

「その点に関しては、大丈夫だ」

朋ねぇが仕事してるとは珍しい

「『性別関係なく、なんでも毒牙にかける人でなし』って言ってあるから大丈夫だ。」

「よく親御さんが同意したなぁ! その紹介で!」

「親御さんは、元気よく送り出すそうだ」

「少しは子供を心配しろ! 両親!」

大丈夫か、転校生の親御さん・・・

「俺がしっかり管理人をやっていれば、こんな紹介しないんだけどな。」

「朋ねぇが、俺を危険人物に仕立て上げたい理由がわからんよ・・・」

「何を言う、天然の人たらしが!」

「・・・・・・・・・っ!」

なんとかして、受話器の向こうに危害を加える方法ないかな・・・

「姫やタカ、天道学園高等部のほぼ全部の女子生徒たらしてるくせに」

一人性別が違うのがいたような・・・

「いや・・・ さらには中等部の・・・・初等部の・・・幼稚園の・・・・」

もうやめろぉぉぉぉ! なんでか俺の位置づけは変態で固定されそうだ!

「っと、テレカの度数が切れる」

不意に話題が変わる。おいおい、このご時世に公衆電話か!

「んんっ、ともかく仕事がんばりなよ、総」

咳払いをして真面目な声で言ってきた。

「ああ、管理人代行はしっかり働くさ。問題ないよ、管理人さん。」

「さっすが総! 俺はちょっと遊びに行ってくるからさぁ・・・色々とがんばれ。」

「あっ! あと朋ねぇ携帯でん・・・」

ブツッ・・・ツー・・・ツー・・・ツー・・・


手に握る我が携帯電話を見つめる。切りやがった、あの馬鹿者。

我が家の朋ねぇはあいかわらずの風来坊だな。

『ちょっとあそびに行ってきます病』は、ますます進行している。

なんとかして携帯を届けないと不便すぎる・・・・なんて考えてると、間髪いれずに、

「総一? いるわよね? 入るわよ。」

いきなり姫野襲来。ノックもなしかコイツめ・・・

「あのね総一・・・来週の予定は・・・ん? それ昨日の写真?」

卓袱台の写真を見つけ拾う。

「ああ。」

「へぇ~。良く撮れてるじゃない、総一のくせに・・・」

「ああ。」

「あ! この写真! う~・・・・・。」

ジロジロ見るんじゃない。まったく・・・

「麗子ちゃん・・・すっごいかわいい・・・いつもの十倍ぐらい・・・。」

「高橋麗子。最初はガッチガチに緊張、技術を駆使してなんとか最後は笑顔、まぁそんな感じだ。」

今回の依頼を社長に説明する。

「うぬぬぬ・・・ 総一のくせに生意気! 万屋夢見の社長はあたしなのに・・・」

「ふん、それなら俺にばかり仕事を回すな! 自分でできる仕事をしろ。」

「総一、あんた、それで万屋夢見に仕事があると思ってんの? バカじゃない?」

あっさり開き直るな・・・ 少しみじめに見えるぞ、

「それに、あんたが撮るヘッタクソな写真や、あんたとの安っぽいデートで喜ぶなんて・・・、そんな女の気が知れないわ!」

おいおい、それは高橋麗子に失礼だろ・・・お前さん

「いいだろ、別に。写真が必要ってだけだ、それが効果抜群・・・ しかたないさ。」

そう、俺の写真は悲しいことに「女の子」に効果抜群らしい。



いつ頃だったか、俺の写真は「おまじない」的な物の一種になっていた。

『総一に写真を撮ってもらったら良いことがあったの! 本当にありがとっ!』

最初は姫野がそう言った。冗談だと思ってたけどそうじゃなかった。

『総の写真のおかげだ! ありがとう。』

次は朋ねぇがそう言った。

『おかげでデビューが決まったの・・・ ありがとう。』

誰かが言った。

『総一郎君ありがとう!』

『ありがとう!』

『ありがとう。』

『ありがとう・・・』 

『ありがとう。』

『ありがと・・。』

『ありが・・・。』

・・・。

・・・・・・・・・・。


何度も同じ言葉を聞いた。


特殊能力の一種だったら驚くが違うだろう。ただの偶然だ。

しかし、そういう偶然が重なり、結果的に「俺の写真は『幸せ』を呼ぶ」という噂が広まった。どっかの通販みたいだけど事実らしい。

まぁちょっとした特殊能力はもってるが幸福に直結しないし、ただの偶然の産物だろうな。

とにかくその偶然の産物の結果、俺は自由な時間を削られていった。土・日・祝日、ゴールデンウィーク、春・夏・秋・冬休みなど。毎週のように、さも当たり前のように。

実に迷惑な話だ。

本当は一人二人で終わらせるつもりだったのだが、

「って、総一? 聞いてる?」

ここにいるお節介は万屋夢見の活動内容にしやがった。

実に迷惑な話だ。

「おーい、総一ぃ~。」

万屋は学園の組織の中でそれなりにで大事なポジションにあるはずなのに、俺の慈善事業がメインになりつつある・・・ ったく、それもこれも朱音がデビューなんてするからだ・・・

「ううう総一のくせにぃ! このっ!」

スパーン


ん?


何処からともなく、ハリセンに頭を叩かれた。

「人の話を聞けっての!」

「なんだ、姫野か。」

相変わらずのツッコミ技だ、ハリセンどっから出した?

「この私が説明してあげてるんだからちゃんと聞きなさいよ! いい? 来週は三年の根元洋子先輩の相手で、次の週は・・・」

卓袱台の写真を拾い上げ、再び悩む。どっちがいいかな・・・・

うむ、やっぱりこの写真にしよう。

「って、聞けぇぇぇぇぇぇ!」

「分かってる。来週は根元先輩、次が零野さんだな。」

やれやれ、仕事とはいえあんまり乗り気ではないなぁ。

「総一は、この仕事が嫌い?」

そんな気持ちが顔に出ていたのか、姫野が心配そうに尋ねる。

「当たり前。好きでもない女とデート+写真撮影だぞ? いい迷惑だ。おれは自分の気に入った被写体しか撮りたくないってのにさ・・・・」

大げさに肩をすくめてみせる

「やっぱり・・・」

「俺は優しく無い、他人を傷つけてるかもしれないし、さ・・・。」

姫野は腕組みをして少し考え込んでいた、俺の話を聞いてるかい? お前さん・・・

「うぬぬぬ・・・ 本当はあたしが一番デートしたいのに・・・・やっぱりもっと数をこなして早く予定を開けさせなきゃ・・・」

うん? なんか言ったかコイツ?

「仕方ないけど、総一にはバリバリ働いてもらうからね!」

いいつつ顔面を人差指でさされる

「ま、他ならぬ姫様の頼みだしな、善処するさ」

「ホントに?」

姫野の表情がパッと明るくなる。その表情はたとえるなら向日葵、どんな人間でもこの笑顔を見たら心の中がすっと明るく照らされるだろう。

単純だなやっぱり、でもその笑顔だ、姫野。

「『本当だ』」

自信を持って答えてやる

「そっかぁ・・・・よかった・・・・になるのかな? まいいや、あたしは寝だめしてくるからさ。転校生よろしく❤」

一瞬していた複雑そうな顔を隠すように、姫野はあっという間に二階へ逃げて行った。

しまった、仕事を押しつけられた! なにが「❤」だ、仕事しろダメ社長。

「うにゃ。」

「ソウイチロウさんもそう思うよな。」

まったくだ、仕事しろダメ社長。



万屋と、管理人の仕事を終えると、ちょうどいい時間になっていた。

買い物いこうかな・・・・・・・ っと・・・よし、そうと決まれば実行は神速だ。

夢見荘の掲示板へ向かう、ここには住人の大体の行動を記入するところがある。


貴彦 →『楽園ベイベー』 夏の定番ソングだな。

姫野 →『夢の国』 逝ってらっしゃい

総一郎→『禁断の姉と妹の国』 ・・・・・・・・・。


貴彦め・・・ 帰ったらアバラの数本引っこ抜いてやる。

落書きを消し「買いモノ」と書き込み夢見荘をでる。


カメラ屋、商店街、をめぐり駅前の本屋で立ち読みを始めようと本を選ぶ。

ん? 一瞬、隣で地図を見ている人と目が合う。

向こうはササっと身を隠すように動いた。やたら線の細い男で、人形みたいだ。カウボーイが被っているような帽子を深くかぶっていてやたら目立つのだが、本人は気にしていないようだ。ついでに顔はほとんど見えない・・・・・。

が、こんな知り合いはいない・・・・ と思う。気にせず立ち読みを始める。



・・・・・・・


この街に一人。

僕は本屋にいた、この街で新しい生活が始まるんだ。

地図を見ていたのは、新しい生活の場を確認するためだ。

『天道学園高等部』

今度の学校は楽しくやっていけるだろうか・・・

・・・・・・・。


まあいいや。新しい家に行ってみよう。挨拶して、友達になって、あわよくば・・・


・・・・・・・・・・。

だめだ。そんなこと考えちゃいけないよな。うん。

立ち読みの地図を置きなおし、店を出る。

ドン。

「あいた。」

「痛ってぇなぁ、どこ見てんだよぉ。おい。」

なんかガラの悪そうな坊主頭にぶつかってしまった・・・

また『不幸』をよんだかな・・・


・・・・・・・・・・


あ・・・ こんなところでありがちな展開だ。

総一郎は思った。だが俺には関係ない、立ち読みを続けるか。

「おい、人様にぶつかっといて詫びの言葉もねえのか?」

少し遠くで聞こえるチンピラその1の声、

「あぁ・・・ ゴメン。」

うぬ? さっきの帽子君か? いい声だ。鈴の音色みたいで・・・

「ゴメンですんだら警察いらねーよ、ぎゃはははは。」

チンピラその2か・・・ その世紀末救世主伝説に出てきそうな髪型はどうかと思う。

「あれ? お前折れてんじゃないの? その腕。」

その3か・・・ まあ関係ないしな

「折れてるだろそれ、ははっははっはは。」

その4・・・ 関係ない、関係ない。

「まじか! 折れてるぅ~、痛いよぉ~。」

坊主頭を入れて5人か・・・ ご愁傷さま・・・

「慰謝料だな~、慰謝料。」

やっぱり、ありがちな展開だ・・・

「なっ・・・ 僕はそこまで強くぶつかってない。」

こんなのに無罪を主張してもなぁ、帽子君よ。

って関係ないってば、マンガに集中、集中・・・。

「まあまあ、おまえこっち来いよ。大事な話があるからよぉ。」

関係ない・・・

「「「「「ぎゃははははは」」」」」

かんけい・・・

「くっ・・・。」

かん・・・・・・・・・・・・・・。

バタン


読んでいた本を閉じ、直す。

ふぅ・・・・・・ 七面倒臭いなぁぁぁぁぁ、くそっ。

某海賊団の船長が大冒険するマンガの途中だったのに・・・

先週から続きがものすごく気になってたのに・・・・

まぁ、

「マンガ

  >     だよな優先順位・・・

帽子君」

こんな性格の自分を呪うしかない。

店を出て帽子君を探す。

主人公のアニキは無事逃げ切れるかな・・・・・

っといかん。マンガは気になるがまずは帽子君だ

左右を見渡し・・・・・・・・・っと、いた。

帽子君は、本屋のすぐ近くの路地に連れ込まれていた。


・・・・・・・・・・


「くっ・・・離せよっ。」

「ぎゃははははははは、こいつ震えてんぜ。」

「・・・・・・・・・・。」

くそっ、なんでこんなに僕だけ不幸を呼ぶんだ・・・

「別に乱暴するわけじゃない、有り金を全部よこせって言ってるだけさ。」

「・・・・・・・・・・。」

今時有り金よこせって時代錯誤な奴らだ。ついでにジロジロ見やがって・・・。

「お前たち、僕に関わると『不幸』なるぞ!」

「『不幸』だってよ、それは今のお前の状況だろうがよ!」

だめか、こんな単純バカにはこの手の脅しは効かないな・・・・

「ってかなんか、かわいい顔してるよなぁ。 こいつ。」

「えっ・・・・・・・・・・。」

「確かになぁ・・・・・ まるで・・・・・。」

くっ、ジロジロ見るな!

「・・・・・・・・・・あっ。」

腕を掴まれた、

「あれ? こいつもしかして・・・ちょい、リーダーあのさ(ゴニョゴニョ)」

リーダーに耳打ちをする

「・・・まさかな・・・」

そう言いながら、リーダーが下半身に手を伸ばしてくる。

「くっ、離せっ・・・ 離せ・・・ 離してっ・・・。」

「・・・・・・・・・・ゴクリ。」

誰かがのどを鳴らして唾をのみこんだ。


くそっ、嫌だ、嫌だ、いやだ、嫌だ、いやだ、イヤダ、いや。


悲鳴をあげそうになった瞬間、別の手が、男の手を払いのけた。

「やぁ! こんな所にいたのか、探したよ。」

スラリと大きく、髪の毛で左目を隠し、眼鏡をかけた謎の男が満面の笑顔で僕に話しかけてくる。この笑顔にはキラキラって効果音が付きそうだ。

ってか誰、この人?

「誰だ、お前。」

「さぁ、こんな雑魚キャラのように脳みそが足りていない、低俗な馬鹿どもは置いておいて、この俺とデートにでも行こうじゃないかっ。(キラキラ)」

あっ、歯が光ってる・・・?

この男はチンピラ達を完全無視で、僕の手を取り歩こうとする。

「待てよ、コラ。眼鏡。」

チンピラ1(モヒカン)が謎の男の肩を掴む。

「俺らのリーダーの天王寺さんが怒るぞ、ゴラァ。」

語気を荒げるチンピラ1。

「へぇ・・・ 誰が天王寺さんだ?」

謎の男がたずねる、少し表情が変わったように見える。

「この左手の傷が見えねえか? 俺様に決まってんだろ。」

さっきのリーダーが、左手を見せつけてくる。

「たった数週間でここいらのトップになり、少し声かけるだけで千人の部下が現れる・・・。」

「天王寺総一郎様とはアニキのことよぉぉぉ!」

チンピラ達が紹介する。な・・・なんて説明臭い台詞だ・・・

「へぇ・・・ 天 王 寺 総 一 郎か・・・」

名前をしっかり区切って発音する謎の男、さっきとは別人の雰囲気をまとってるような・・・

「心優しいアニキが、か弱い部下のために慰謝料取るんだよぉ。邪魔す ん な よっ。」

そういって、モヒカンが謎の男にデコピンをしようと手を伸ばす。が、

「『断る』」

謎の男はそう言うが早いか、モヒカンの腕を掴み捻りあげた。

「いててててててててぇ! あにきぃぃ!」

痛がるモヒカンをよそに謎の男が口を開く

「いいか・・・・・・貴様ら・・・・」

謎の男の雰囲気が明らかに変わった、髪の毛で隠れて左側の目は見えないが右側の目は怒りに満ちて、いまにもビームか何かが出そうだ

「本物の天王寺総一郎にはなぁ・・・・・・」

「ひいいいいいいぎぎぎぎぎぎいいいい!」

悲鳴を上げるモヒカンを無視して腕を捻りあげながら持ち上げ、

「・・・・・・・・・・左目に傷があるんだよぉ!」

変な髪形野郎をぶん投げた。

「ぴぎゃ!」

一言残しモヒカンは動かなくなった

「タカシぃ! タカシをよくも! おい、お前らやっちまえぃ。」

古臭い台詞と同時ににチンピラが群がってくる。こいつらにはきっと・・・・

「やかましい! お前らみたいなのがいるから、天王寺って名字のイメージが落ちるんだよっ! 馬鹿たれが!」

そう言いつつ、謎の男が一番近くのチンピラに強烈な右ボディをくらわせる。やっぱり死亡フラグが立ってたか・・・・

「ぐふっ。」

チンピラは一発で地に沈んだ。

その後も謎の男は、一人一発食らわすだけでチンピラを沈めていった。

この人強い、残るはあっという間にリーダーのみ。

「貴様、何者だ・・・。」

「ふん。かわい子ちゃんを放って置けない、匿名希望の正義の味方だ。」

「「・・・・・・・・・・・・・」」

焦っていたリーダーと、僕と、謎の男の間に一瞬冷たい風が吹いたような気がする。

効果音を付けるならひゅううううううう、演出には木の葉って感じで。

「正義の味方ぁ? お前は小学生か。いや、今時、小学生でもそんな台詞言わないぞ。」

「・・・・・・くっ。」

謎の男が心にダメージを受けている!

「まさか、お前は正真証明のばっっっっっっっっっっっっ」

リーダーの言葉をさえぎるように、目にも止まらぬ速さの空中回し蹴りが決まった。

「っっっっがぁぁぁぁぁ あべし。」

バタリ。

リーダーは数メートル吹っ飛び、謎の言葉を残し静かになった。

「『黙れ』よ。その台詞を俺に言っていいのは家族だけだ。」

謎の男がボソリと呟いた。

す・・・すごい・・・一撃・・・一撃で撃破か・・・   か・・・火力が違いすぎる・・・っ

「まったく、俺は平和に暮らしたいのにな・・・・・」

謎の男は大きくため息をついた。


・・・・・・・・・・


「大丈夫に決まってるよな? 帽子君。」

総一郎は衣服を正しながら言った。

「・・・・・・・・・・(こくこく)。」

無言でうなずく、帽子君。

「帽子君、いい声してんだから言葉を使え。」

「・・・・・・・・・・・・(フルフル)。」

こんどは横に振る。

「ふぅ、まあいい。弱いわりに、無事で良かったな。」

「・・・・・・・・・・・・(こくこく)。」

「お前さんかわいい顔してるみたいだから、気をつけないとな」

「・・・・・・・・・・・・(ぽっ)。」

帽子君の頬がみるみる赤くなる。おいおい、おれに同性愛の趣味は無いんだが・・・・

「くっ・・・・・ぼっ・・・・・僕は・・・べっ・・・別に・・・・・・・。」

「・・・・・?」

なんだ? 様子がおかしい・・・

「僕は別に助けてなんて言ってない!」

急に大声を出す、

「僕はかわいい顔じゃない! いい声じゃない! 弱くなんかない!」

帽子で良く見えないが、おそらくキッとこちらを睨みながら言い放っているのだろう。

いやいや全部当てはまってるんだが・・・

「気に障る事言ったなら謝る。スマン」

「うるさい!」

謝罪が秒殺された・・・ 

「このぐらいの『不幸』なら慣れてる! 僕に構わないで! 近づかないで!」

おいおい、なんかひどい言われようだな・・・ なんかイラっとした。

一応ピンチを救ってやったのに・・・

帽子君は黙ったまま、プイっと向きを変え路地を出ていく。

やれやれ、御年頃の少年は怖いねぇ・・・・っと

「付いてくるなよ!」

怒られた。

「俺もそっちが帰り道なんだ」

「・・・・・・ふん」

軽く睨まれたように感じた。俺は完全に悪人扱いだなこりゃ。



しばらく無言で歩いていたが、全て同じ道を通った。どうやら帽子君の目的地は学園のようだ。無言のまま歩き続け、十数分で学園前に到着した

「うわぁ・・・・・・・」

天道学園に見とれる帽子君、そりゃ無理もない。

だって外見はどっかのロボットアニメの超時空要塞に見えるからなぁ・・・・

学園の創始者が某アニメに夢中だったため、この学校には変形(トランスフォーメーション? だったかな?)という隠し要素ってのが、あるとかないとか・・・・・ まあ普通の人間が見たらドン引きだろこりゃ。

そう思って見ていると、

「かっこいい・・・・・」

真逆の評価をいただきました。

「欲しいなぁ・・・・こんな家・・・」

コイツの思考回路は普通じゃない可能性が高い!

そんな家は住み心地の悪さが半端ないだろ。

見とれてるコレをほっといて家路を進む、やれやれ長い買い物だった。

「あ・・・・・・・・・あの」

「・・・・・・・?」

なんだ?

「さっ・・・・さっきはありがと・・・・・・う」

帽子君が振り返り、少し恥ずかしそうに言う。

か・・・・・・・かわいい・・・・・・。いかん、人として抱いてはいけない感情を抱きそうだ。

「別に礼を言われるような事はしていない、気にするな」

臭い台詞だったかなと思いつつ夢見荘へ向かう。後ろでは帽子君が学園に入って行った。


・・・・・・・・・・

ここで時間は少し過去にもどる


ジー ジー ジー・・・・

・・・・・・・五月蠅い

ミーン ミン ミン ミン・・・・

・・・・・・・八釜しい

ツクツクホーシ ツクツクホーシ・・・・・・

「あっっっっっっつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅいぃっ!」

流石は7月、食堂にいてものんびり昼寝できないなんて! せっかくセミの声対策に部屋を閉め切って、カーテンまで閉めてるのに・・・・

地球温暖化は確実に進行しているわね・・・・ とか考えつつ、クーラーのリモコンを再度押す。

ピピッという電子音とともに涼しい風が室内に行き渡りあっという間に涼しく・・・

ならない。

ちっ、このリモコンもダミーか・・・・

もう! 朋恵や総一のせいでクソ暑いのにクーラー付かないじゃない!

ブン

ガン

「えぐあ!」

怒りにまかせてダミーリモコンを投げつけると変な声が聞こえた、

「いきなり痛いよ! 姫のん、なにすんの!」

「そこにいたアンタが悪いのよ!」

のんきにタカが入ってきた

「この部屋は新手のサウナを経営してんのかい?」

「外だってただのドライヤーの温風でしょ・・・・ そんなこともわかんないの、このクズ!」

「このクソ暑い時にイライラしなさんなよぅ、姫のん」

ダミーの当たったオデコを擦りつつ、タカがつぶやく

「イライラしてないわよ!」

「いや、してるってどう見ても。そのイライラを俺にぶつけないでくれよぅ・・・

ってか姫のん、窓ぐらい開ければいいのに」

「開けたらあの虫けらどもが五月蝿くて、姦しくて死にそうなの!」

なんでそんな当然のことが分からないんだろう、コイツは。

「俺なら、風が入らない分の暑さで死にそうだよ」

「私の匂いが臭くて死にそうですってぇ! このゲス野郎が!」

「そんなこと言ってないっての! 暑さでおかしくなってんじゃない?」

「私がおかしいですってぇぇぇぇぇぇえ!」

許さん、殺す。

「おかしいってことは否定しないけど、少しは落ち着いてくれぃ。姫のん!」

殺してやる・・・ 殺してやる・・・ コロシテヤル・・・ コロシテヤ・・・ コロシ・・・

ぷシュ~・・・・・・・・

「はぁ・・・・・・・・・・」

あまりの暑さに喧嘩する気力もないわ・・・・

ドサリとソファーに倒れ込む

「だいたいヘボ管理人のせいでクーラーは使えないし、総一は『皿目ハ、毛ノ』って意味不明な書き置きでいないし・・・・」

「あいかわらず、総一郎ちゃんの文字は解読不能だね・・・・」

コイツの言うことはもっともだ。総一の書く文字は長年の付き合いの私でさえも読めないのよね・・・・

「タカ、あんたのそのちっぽけな脳みそに、なんか涼しくなる方法思いつか無いの?」

「う~む。今のところこれぐらいかな? ほれ、姫のん」

そう言って冷凍室からアイスキャンディーを投げてよこす。タカにしては珍しく気がきくじゃないの。

「でも、これは一時しのぎに過ぎないからなぁ~・・・・」

そういって残りの本数を数えるタカ。確かに食べ終わったらまた暑いのよね・・・


ジー(略) ミーン ミン(略) ツクホーシ(略)・・・・ 

セミの声が無情に響く

「そうだ! 一時しのぎじゃない方法見つけた!」

そう言ってほくそ笑むタカ、こういうときの悪知恵は働く奴なのよね

「何? タカ、私にも教えなさいよ。」

「つまりね・・・ゴニョゴニョ・・・」

秘密な事を話すため耳打ちをしてくる。ふんふんなるほど・・・・

「賛成! 総一が帰ってくる前にやっちゃいましょ!」

「サー、イエッサー!」

そういって二人で準備に取り掛かった。


・・・・・・・・・・


そして現在に至る


「なんだこりゃ・・・・」

夢見荘に帰りついた俺を待っていたのは、スクール水着に浮き輪装備の姫野と、庭先におかれた子供用プールだった。

「総一、おかえり。ご飯にする? 水着にする? それともプール?」

くっ・・・ツッコミ所が多すぎて、いったい俺はどこからつっこめばいい?

「こんなに浅いプールに、浮き輪はいらん!」

「アンタは、なんで真っ先にそこをつっこむわけ?」

「後、庭先っていう場所がおかしいだろ! お前に羞恥心ってもんはないのか!」

「いいじゃない、私の体だし、見られて減るもんじゃないし」

「しゃべってる台詞もおかしい!」

こいつに一般常識ってものを叩き込みたいと本気で思う

「それに・・・」

「・・・・・それに?」

「お前の胴回りはそんなに細く無い! って、左腕の関節がぁぁぁぁぁぁぁ!」

「寝言は寝てから言うもんでしょ、総一?」

左腕に恐ろしい痛みが、ついでに背中にほぼ生の胸の感触が・・・ って、相手は姫野だぞ? ほぼ毎朝生を見てんだし、興奮するわけ無い。ってかコイツのウエストの原因は・・・・

「わかった、さらしか何かだな? 水着という体のラインが全部出るモノを着るにあたって、全力でぷにぷにのお腹を引っ込めてんだろ!」

「んなわけないでしょ! これでも夏本番に向けて必死でダイエットしてたんだから!」

「大丈夫、どんな体でも姫野は姫野だし・・・・おれは好きだぞ」

「その解答はあたし以外には絶対しちゃダメよ・・・総一」

パッと拘束を解き、両腕で体を隠しながら姫野がつぶやく、

「個人的には、もう少しくびれが欲しいと思うけどな」

「殺す・・・・」

姫野の目が据わってる・・・ いや冗談ですよ?

「つまり~、ツルペタ大好き! 貧乳はステータスだ!希少価値だ! って言いたいのかい? このロリ好きド変態ちゃん」

白ポロシャツにトランクス型水着でバケツを抱えた貴彦が現れた。

「勝手にロリ好みにすんな! そもそも俺はどちらかというと・・・・」

「「どちらかというと?」」

解答次第では姫野に殺されそうだ・・・・ なんか無難な解答は・・・・

そうだ! こないだヤツが無理やり貸してきたDVDのジャンルは確か・・・

「・・・・・・熟女好き?」

「この外道! やっぱり殺す! それはあんたの机の上から2番目の引き出しの二重底の中に隠してあったわよ!」

「他人の机を勝手に漁るんじゃねぇ!」

「あんたの物は私の物、私の物は私の物なのよ! 調べる義務があるの!」

なんたる剛田発言だ

「へぇ~、そうかいそうかい総一郎ちゃん、そんな隠された趣味があるとはね。きっと朋恵さんと毎晩しっぽりと・・・・・・・っと、こんなもんかな?」

いいつつ氷水をプールに入れている貴彦。

ま、待て! 俺を熟女好きだと勘違いをしたままにするんじゃない!

「今のはヤツの趣味だ! 俺の本当の好みはっ・・・・・て、ああっ!」

ふとプールの中を見て驚いた。

「お前ら! まさか冷凍庫の氷を全部使ってるのか?」

「もちろん! そうでもしなきゃ涼しくならないもんね♪」

「『ね♪』じゃねぇこのバカ彦! 今日はいつも暑い思いをしている、お前らを思ってかき氷用のシロップを買って多めに氷を・・・・」

「「!!」」

「・・・・・準備したのに勝手にプールに使いやがって・・・・」

「総一郎ちゃん! ゴメンなさい!」

しまった! 思ってたことが口に出てたか!

「べ・・・別にお前らのためでは無い! 今日来るらしい転校生のためにだな・・・・」

「さっすが総一は優しいわね」

「くっ・・・ちっ、違う! おっ・・・俺は『優しくなんか無い!』」

「「はいはい」」

しまった、焦れば向こうの思うつぼだ。落ち着け! 俺!

「流石は総一郎ちゃん! 学園一の人たらし!」

「やかましいわ!」

一番嫌いな言葉に反応してしまった。

「もういいわよ総一、素直になりなさいよ・・・」

憐れんだ目で見るんじゃない!

「そうだよ、この女たらし」

「・・・・・・・くそっ!」

なんとかしてこの状況を打破しないと、俺は学園一の女たらしの肩書を認めることになってしまう! あ~・・・こういうときはなんて言うんだったか・・・・

少し思案顔になって考えていると

バシャ

ふと、何処からともなく、水をかけられた

「あら? 私の足が滑ったみたいね(ニヤリ)」

バシャ

もう一発

「体全体が滑ったぁ~、ごめんね総一郎ちゃん(ニヤリ)」

「貴様ら・・・・・」

「「・・・・・・・(にやにや×2)」」

「・・・・・全身全霊全能力を総動員して、今の行動をたっぷり5時間ぐらい後悔させてやる!」

もういいや、考えるのは後だ! まずはこいつらを水浸しにしてから、麻縄で縛って最高の辱めを与えてやる!

てか、いつの間にやら完全に向こう(馬鹿ども)のペースだ・・・・



30分ほど経過したのち、一人の人間が夢見荘に入って来たが・・・

「死ね! 貴彦!」

「あの~・・・・・」

「やばい! こうなったら・・・必殺『姫のんシールド』ぉぉぉ」

「あの!」

「ちょっ、ちょっとタカ! 私を盾にしないでよ!」

「あのですね・・・・・」

「この際だ、二人まとめて食らえ!」

「・・・・すみません! 今日から夢見荘でお世話になる・・・」

「離しなさいっての!」

! 姫野が逃げた! まあいい

「音無・・す・・・」

テンションあがりっぱなしの三人は、一人の人間の接近と存在ををまったく気付かせなかった。

「バカ彦! くらえ!」

「何の、その程度!」

バッシャァァアァァァァァ

俺の渾身の一撃は、ヒラリとかわされ、貴彦を狙った水はそのまま飛び続け、近くにいた帽子を被った人にかかり、その人をびしょ濡れにした。

・・・・・しまった、俺とした事が一般人に危害を・・・

「・・・・・・・・・冷たっ」

やっちまったな・・・

「大丈夫・・・・・ですか?」

言いつつ近づく。ん? この人どっかで見たような・・・?

「お前は! お前はもう少しまともな人間だと思ったんだけどね・・・・」

あ! この鈴の音色のような声、見慣れた帽子といったら・・・・

「やっぱり、ここにはまともな人間なんていない!」

ありゃま、怒りにまかせて夢見荘の住民全員を否定しちゃったよ、帽子君。

「失礼な! 総一郎ちゃんはまともじゃないけど、俺たちまで一くくりにさえたら困る!」

「そうよ! まともじゃないのは総一だけよ!」

二人揃ってそこまで言わなくてもいいじゃんかよ・・・ ちょっと悲しくなってきた・・・

「ともかく! なんか拭くものがいるな、帽子君」

「あれ? 総一郎ちゃん知り合い?」

「高坂書店の立ち読み仲間だ」

「勝手に変な仲間にするな!」

「ようこそ万屋夢見へ! 要件は何? 帽子野郎」

「姫野その呼び方は失礼だ」

「帽子、帽子言うんじゃない! 僕には 音無スガル っていうちゃんとした名前があるんだ!」

帽子君は声を大きくして叫んだ

「とりあえず、着替えたほうがいいな、帽子君。」

「そうだよハットマン」

「だから僕には・・・」

「なんかバットマンみたいで、かっこよくていい名前じゃない。そう思うわよね?」

「あぁ、確かにそれもアリだな」

アメコミのヒーローみたいだ。こういうネーミングは貴彦がうまい

「だから、聞けぇぇぇぇぇえ!」

「聞いてるよ、今日から天道学園第二寮である夢見荘に住む音無 スガル・・・っておお!」

なるほど! コイツが噂の転校生だったのか!

「転校生ぇ? ハットマンがぁ?」

「か な りかわいくて、とっても元気で高飛車な子? ハットマンが?」

その呼び名を定着させる気だな? こいつら。

「くっ・・・・・」

ほら・・・ 応対に困ってるじゃないか・・・・ しかたない・・・

「あ~んんっ」

咳払い

「二人ともすこし『黙れ』よ」

少しだけ語気を強める、こいつらにはこれで十分だ。

「「・・・・・・・・・・・・っ!」」

急に静かになる二人。

まったく・・・・ で、ハッターに向き直る

「俺が夢見荘の管理人代行の総一郎だ、よろしく」

「ふん、ふざけた寮にはふざけた管理人しかいないわけだな・・・」

「・・・・・・・・・・」

いかん、こらえろ折角の転校生を半殺しにしてはいかん。ブンブンと頭を振り、芽生えた殺意に必死で除草剤をまく。

「と、とりあえず俺のジャージでも使うか? 洗濯はしっかりして・・・」

「うるさい! 着替えならさっき貰った自分のジャージがある!」

黒い瞳が敵意をむき出しにして、真っ直ぐに見つめている。綺麗な瞳をしてるな、コイツ。

「あっそ・・・・・・じゃ、じゃあとりま、部屋に行くかね・・・」

そういうと帽子君は胸の前で腕を組み、鋭く睨んだまま無言で頷いた。二人ともびしょ濡れのまま夢見荘に入る

「お前らは、片づけをしておけよ?」

振り向きもせずに言う。

「総一・・・あの・・・」

こいつら、まだゴネる気か、まったく・・・・

「『いいな』?」

「「・・・・・っ!」」

・・・・・こんなときだし、後でたっぷり文句を言われるかね・・・・やれやれ。

バカどもはほっといて、帽子君を二階の五号室へ案内することにした。


・・・・・・・・・・


総一が中へ入って行くのを見ながら、姫野は肩を震わせ耐えていた。

「こんの・・・・ 総一のバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

耐えきれない怒りの一部が爆発した。

「今の総一郎ちゃんには効かないお・・・ 姫のん・・・」

「なによ! 自分だって一緒になって遊んでたくせに! 急に態度改めちゃってさ!」

なんかイライラが止まらないぃぃぃぃぃ・・・・・ ギリギリ (←歯ぎしり)

「あの人前でだけなんかいい人になるのがやっぱり気に食わないわよ!」

「今回は気持ちが分かるお・・・総一郎ちゃんは、たぶん自分に怒ってるんさ・・・」

「へ・・・?」

予想外の答えに思わず、とぼけた声を出してしまう。

「何でよ! どう見ても私たちに怒ってたじゃない!」

「落ち着いてよ姫のん・・・・ 総一郎ちゃんはたぶん朋恵さんに申し訳なくて・・・・さ」

「・・・・っ!」

そうか・・・アイツ、ハットマンが管理人と夢見荘をバカにしたから・・・

「しょうがないじゃん・・・ それが総一郎ちゃんだし・・・ ってか片づけよっ! ね、姫のん!」

「しょうがない、か・・・・」

まぁ、昔からこんな奴だし、こっちもちょっとふざけすぎたし・・・『しょうがない』よね!

「タカ! あんた片付けなさい! 私、先に着替えてくる」

「あいあい」

庭先特設プールは貴彦にまかせ二階へ戻ることにしよう。

「って! 姫のん、自然な流れで自分だけ逃げんじゃないよぉ!」

タカは無視しとこう。ついでにあとで総一にも謝っとこう。

そう思いつつ庭を後にする姫野だった。


・・・・・・・・・・


「ここがお前さんの部屋だ、帽子君」

「・・・・・・・・」

帽子君は胸の前で腕組みをしたまま、無言で見回す。

「汚い、狭い、汚い。やっぱり僕は『不幸』を呼んでるんだ・・・・」

「現在同じ寮に住んでる人に対して、汚いって二回も言うか!」

まぁ事実あまりきれいとはいえない。だが手入れは管理人代行であるこの俺がやっているのだからここ最近では一番綺麗になっているはずだ、それを汚いと言われたら夢見荘が全部汚いみたいじゃないかよ・・・

「ま、まあこの綺麗な五号室がお前さんの部屋だ。帽子君」

「・・・・・そう・・・」

「引っ越しの荷物とかはあるのか?」

「・・・・・・・明日送ってくる・・・」

「「・・・・・・・・・」」

帽子君は何か考え事をしながらあっちを見たり、こっちを見たりしている。

どうにも話が続かない・・・ やっぱりさっきの事を・・・

「えっと・・・怒ってる・・・・・・・・・・・よな? さっきの事」

「・・・・・・・・・・」

「あのな・・・あれはわざとじゃないんだぞ?」

「・・・・・・・・・・」

「だいたい貴彦や姫野があんな騒ぎを起こすから・・・・」

「・・・・・・・・・・ふぅ」

ん? なんだ? なんのため息だ?

「・・・・・・・・・・それは別に怒って無い!」

帽子君に鋭く睨まれた。

といっても、帽子君の顔は良く見えないが間違いなく睨まれてるだろうな。

「・・・・・・?」

「そんなことに怒ってるんじゃない! 君が見てるせいで僕は着替えられないってことを怒ってるんだ! そんなに僕の着替えを見たいのか? この変態!」

「・・・・・・・?」

なんでそんな事言うんだ帽子君? 別に男どうしなんだから裸見たって問題無いだろ?

「別に見ても減るもんじゃないだろ?」

「・・・・・・っ、さすが『性別関係なく、なんでも毒牙にかける人でなし』って紹介されるだけあるな」

「待て、朋ねぇの言葉を鵜呑みにして俺を理解するんじゃない」

「即座に否定しないなんて流石の変態っぷりだな・・・・・管理人代行・・・」

「待て! 否定はでき・・・・・ふぇっっくしょん!」

さっきの騒ぎで服が濡れてるってのは、自分も同じだということを忘れてた・・・

「でき・・・の後は何なのかは聞かない! たとえ「ない」だとしても・・・・!」

なんて嫌なタイミングでクシャミを!

「だから俺はへんた・・・・・ふぇっくしょん」

「ついに認めたな! このド変態!」

最悪だ! ここでしっかりフォローしないと変態のレッテルを貼られてしまう!

「違う! 違うんだ! 俺は・・・・・・ 俺は・・・・・」

「変態でしょ?」

「姫野おおおおおおおおお!」

いきなり入ってきて、開口一番なんてこと言うんだコイツは!

「やっぱりそうか!」

「納得すんな!」

「転校生気をつけなさい、コイツは性別関係なく、なんでも毒牙にかける人でなしだから!」

「お前まで朋ねぇと同じことを吹き込むなぁぁぁぁぁ!」

「・・・・っ! この女の敵!」

「総一のクズ!」

「ぐぬぬぬぬぬ・・・・」

こいつらさっきから人の事を好き放題言いやがって・・・

「今朝だって私の芸術的な裸体をなめまわすように凝視してたし・・・」

「僕も、助けるふりして手を握られたし、勝手に変なあだ名つけられたし・・・・・」

「・・・・・・くっそ! お前ら少し『黙れ』よ!」

「「・・・・・・・・・・・っ!」」

あ・・・・・ しまった・・・ ついついやってしまった・・・・

「と・・・とにかくだ、お前さんそんな帽子かぶってたら邪魔で着替えられないだろうが」

いいつつ帽子を取ってやる。

「だいたいこんな帽子なんかかぶってるからお前さんはハッターとかハットマンなんてよばれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

予想外の事態に言葉が詰まる。脱げた帽子の下からは豊かで艶やかな黒い髪が出てきたのだ。しかも長い。腰のあたりまであるさらっさらの黒髪だ。

そして初めてしっかりと顔を見た、クリっと開いている小動物のような目、その中の澄んだ黒い瞳、スッと通った鼻筋といった具合に、とても整った顔立ちをしている。

男にしておくのがもったいないぐらいだ。

長い黒髪と相まって、さながら一枚の絵のように綺麗に見えた。

「ほぇ?」

帽子君がすっとぼけた声を出す、長い黒髪は七月の暑い風に揺れてなびいていた

「「「・・・・・・・・・・」」」

完全に沈黙、後、

「わっ!  かっ・・・か、かかかっ返せ! 僕の帽子!」

自分の状態に気付いた帽子君に、帽子をひったくられる

「お前まさか・・・・」

こいつまさか・・・・・

「・・・・・・くっ!」

「手品ができるのか! すげえ、こんなの初めて見た!」

「へ? 総一あんた何的外れなこと言ってんのよ! この子どう見ても・・・」

「いや~、これだけの量の髪の毛をあんな帽子に隠すというのはどう見ても手品だろ!」

うんうん、きっと手品が得意なんだ、歓迎会の時にでも披露しようとしてたんだ、けっしてコイツを今の今まで・・・

「だから総一! この子・・・・」

「今は手品の話をしてるんだよ! すこし『黙れ』、姫野」

「・・・・・・っ!」

一瞬の無言。

そのわずかな隙に、俺の言葉の真意を理解した姫野が、あたふたしながら口を開く

「えっと・・・・・ わ、私も・・・・初めて見たすごーい(棒読み)」

「へ・・・・・・?。」

さすが姫野! 長年の付き合いは伊達じゃない!

空気を読む力は俺の数十倍あるからなコイツ

「・・・・・・・ぼ・・・・・・僕は! 僕はっ・・・・ぐも!」

帽子君が少し涙目で大きな声を出そうとするが、姫野が口をふさいだ。

そして帽子君に親指を立ててみせた。

「大丈夫。スガル、だいたいわかったわ。少し待っててね。」

そう言って俺に向き直る。

ん? 何だ? コイツ今何が分かったって?

帽子君は姫野の勢いにおされて立ちつくしていた。

「総一、ちょっとこっちに来て」

「なんでだ?」

「いいから来なさい!」

ったく・・・ なんか必死なので仕方なく姫野に近づく

「後2歩こっちに・・・そうそう、そこがいい。」

「いきなりなんだ? 何する気だ、姫野?」

「あんたは知らなくてもいいの! とりあえず・・・・・ 逝っとけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

ツッコミ7つ技の一つ「旋風脚」が炸裂し、俺は姫野が開けてた5号室のドアから吹っ飛んだ


ガッ

ひゅぅぅぅぅぅうぅ

ドポーン


窓枠に頭が当たった後、墜落。

で、盛大に水しぶきが上がる。

「おおわぁぁぁ! 何事だあぁぁぁぁぁ!」

貴彦の声がかすかに聞こえた気がした。

後で聞いた話だが、いつも以上の破壊力の旋風脚に完全に意識を失った俺は、子供用プールで溺れかけていたらしい・・・

くそう・・・ この恨みはらさで置くべきか・・・


・・・・・・・・・・


「よし、これで邪魔者とその記憶は消えたわね」

突然現れた女性は、ひとしきり会話をした後、おもむろに管理人代行を吹っ飛ばして呟く

「あの」

「大丈夫、何も言わなくても分かってるから」

ピシッと人差指を口もとにあてられた

「え・・・・・?」

「自己紹介が遅れたわね、私は姫野、高井田姫野。天道学園2年G組、この夢見荘の管理人代行兼万屋夢見の社長。呼び方は姫野でいいわよ」

「あの高井田さん・・・・?」

「姫野、呼び捨ての『姫野』。あんたは音無がいい? それともスガル?」

えっと・・・・ いきなり呼び捨てっていうのも変な感じがするから名字にしてもら・・・

「そう。よろしくね、スガル」

意見は聞かないんだ・・・・

「私の部屋はお隣の4号室、困ったことがあったらいつでも相談してね。」

・・・・・・・・・あの

「トイレは二階が女子、一階が男子ってのが基本だけど別にどっちでもいいわ。お風呂は順番を厳守してね」

・・・・・・・・・・・えっと

「洗濯機は共同、お風呂場にあるわ。乾燥もできるからすぐ乾くわよ、上着や帽子はもちろん下着もね。」

・・・・・・・・ちょ

「ご飯は食堂で、朝晩は総一が作ってくれるけどお昼は各自で取ってね」

・・・・・・ううう

「ま、説明はだいたいこんな所かしら。 この私が直々に説明なんて・・・・・・ こんなサービスめったにしないんだから、感謝しなさい!」

・・・・・・・・・もういいや

「・・・・・・・・スガル、あんた無口なのね・・・」

言葉を発する隙が無いだけなんですけどね・・・・

「ん~・・・・」

こめかみに指を当てて、軽く考え事をしている姫野さん・・・

「まあ、朋恵に頼まれてるし・・・・・・丁度いいか・・・」

こんなわざとらしい仕草を、普通にやってる人を初めて見た気がする。

「スガル、あんた万屋のメンバーにするわ!」

ビシッと指をさされる。

「言っておくけど、拒否権は無いから」

さいですか・・・・ いや、待て。 このまま相手のペースじゃだめだ。相手のペースに巻き込まれると前の学校と同じような『不幸』が起こってしまう!

「階級は係長でいいかしら?」

「姫野さん!」

大きな声で目の前の女性の名前を呼ぶ、

「急にどうしたのよ、大きな声出して・・・・」

驚いている彼女に畳みかける

「あなたは僕に近づきすぎだ、無意味な『不幸』をもらうことになる。早くこの部屋から出て行くんだ!」

どうだ、これで僕に構わないでくれるだろ・・・・・ 一人にしてくれるだろ・・・

「ふわぁぁぁぁ、いいふぁわよ別に」

・・・・・・・・・・あくび交じりで返された

「そうか、分かってくれたならいい。 二度と気安く話しかけ・・・・」

「zzz・・・・・ぐう・・・・」

「へ?」

は、話の途中で寝た? なんて人だ!

「あ、あの姫野さん? 姫野さんってば」

ゆさゆさ

「ううん・・・・・おかわり・・・・って今私寝てた!?」

「姫野さん大丈夫ですか?」

「う、うん? あんた誰だっけ?」

「転校生の音無です」

「ああ、そうだったわね。転校生だったわね」

よくわからない台詞を話す姫野さん

「ホントに大丈夫ですか?」

「まぁ体質? 持病? まあそんなところだから気にしないで!」

「でも・・・・」

「あんまり私を詮索すると殺すわよ(二コリ)」

目が全然笑ってない、本気の目だ・・・

「総一はあんなだし、今日のあんたの歓迎会は私なりのやり方をさせてもらうわ!」

「ぼ、僕はそんなこと頼んでない!」

「知らんわ! あたしが勝手にやるのよ! 死の五の言わずに参加しなさい!」

四、じゃなくて死、なんだね・・・・

「でも・・・・」

「デモもストもないわ! 参加しないと・・・・(ニコリ)」

「・・・・・・」

目が笑ってないよ、姫野さん・・・・・

「この夢見荘で一匹狼なんて不可能よ、やめておくことね」

「・・・・・・・・・・・なっ」

まったく何なんだ・・・ 僕は『不幸』を呼んでばかりだ・・・ 一人がいいのに、ほっといてほしいのに・・・ この人の起こす嵐のような勢いに巻き込まれてる・・・・

「それと、ここの住人は『不幸』なんて日常茶飯事で慣れっこでお茶の子さいさいよ? そんな脅し文句はよそで使うことね、スガルちゃん。 じゃ、後で♪」

「・・・・・・・・・・え?」

彼女の起こして行った嵐の余韻は、僕の心の中に少し引っかかった。

歓迎会では姫野さんと大野内と僕の三人だけで軽い世間話(前の学校についてとか質問タイムとか転校生にありがちな物)をした、というか一方的にさせられた。

「あんたは総一と仲良くなれるわね」と言い残して眠りに就いた姫野さんを大野内と一緒に部屋に運び込むと急に疲れが出てしまって、自分の部屋に寝転がった。

「知らない天井か・・・・・」

寮に入ると決めた時に覚悟はしていたのだ、なるべく『不幸』を意識しないようにと。

これからの学校生活に『幸せ』がある事を思い浮かべて眠りにつくのだった。


・・・・・・・・・・・・


ううう・・・・

頭が痛い・・・・・

確か、転校生と話してて・・・・ なんか知らんが姫野に蹴られてプールに浸かって・・・・・

そのあとどうなったんだっけ?

周りを見渡すと様々なゴミが散らかっていた。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!」

食堂の中はこれでもか! という具合に散らかり、夢見荘はゴミ屋敷と化していた

犯人の目星はついてる・・・・奴らめ・・・・

明日、どんな報復をしようか考えながら掃除をしていると、あっという間に日付が変わってしまっていた。

ふふふ今日の朝食が楽しみだな、こりゃ。




「逝っとけぇぇぇっぇぇぇ」


ドガン(壁)

ゴン(天井)

ベチャ(床)

ドタン、バタン(階段)

ゴロゴロ(廊下)

ドスン(ドア)


くそっ・・・・・どうやったらスリッパ一つでこんな破壊力が出せるんだ・・・・

ツッコミ七つ技おそるべし・・・・・

「毎朝大変だね、総一郎ちゃん・・・・」

「今日は寝てられん・・・・もう一人いるだろ・・・・」

悲鳴を上げそうな体を無理やり起こし、もう一度階段を上り5号室へ向かう。

いつもの恒例行事が終わり、5号室の住人を起こしに行くと反応が無かった。

「転校生、入るぞ・・・・・・・・・・・・・・・って、お前なぁ!」

「君は人の着替えを覗く趣味でもあるのか! このへん・・・」

「誤解だ! とりあえず飯に降りてこい、以上。」

帽子君の言葉を無視して、連絡だけ残し部屋を出る。

全く、起きてるなら起きてると返事をしてほしいものだな。

「違うだろうが! このド変態が!」

着替えた帽子君が飛び出してきた。

「やめろ! 今ここで騒ぐとっ・・・・・・・」

「何? 何処に変態がいるの? って総一! やっぱりお前か!」

「姫野が来るからぁぁぁぁぁ!」

「このドスケベ! 懲りないバカは、もう一発逝っとけぇぇぇぇぇぇ!」

「あぐお!」

下着姿の幼馴染に、見事なボディブローをもらいうずくまる。中身が全部出てきそうだ・・・・

「スケベな覗き魔を倒す正義の私! これぞまさに勧善懲悪よね♪」

ドスっと音がして背中に重いモノが乗った、どうやら丸くなった背中に姫野が乗って仁王立ちをしているようだ。ん? やっぱりコイツ太ったんじゃ・・・・

「総一、あんた良 か ら ぬ こ と を考えてる気がす る わ ねっ!」

声に合わせて背骨がきしむ。なんて勘のするどい・・・

こりゃ、お腹と背中がくっつく日も近いかもしれないな・・・・・


くそう・・・・この恨みハラサデオクベキカ・・・・



「手を合わせろ、いただきます」

「「「いただきます」」」

「にゃあ」

落ち着いた姫野に解放され、やっと朝食だ。

本日の献立はご飯、味噌汁、漬物、ミカン、メザシ、かき氷のシロップ、ア●ンアルファ。

「昨日とあまり変わり映えがしないわね、総一」

「まあなぁ・・・・ 最近いろいろと忙しいから勘弁してくれ」

「それなのに、この私に対してかき氷のシロップとは準備がいいわよね?」

「俺はア●ンアルファなんですけども・・・・」

細かいことを気にする奴らだ・・・

「昨日何をしたか、自分の胸に聞いてみることだな」

「「悪い事なんて何もしてない!」」

「嘘つけ!」

なんでこんなに自分を正当化できるんだ、こいつ等は!

「それを言うなら総一だって悪いことしてるわよ!」

「そうだ! この覗き魔! 朝からスガるんの声が丸聞こえだわい!」

もうあだ名をつけたのか貴彦

「覗きなら私に対して毎日やってるのに、自分だけご飯なんてひどいわ!」

「自分らを棚に上げて、良く言うなぁ! お前ら」

「「うっ」」

「いつも以上に早起きして、危険で嫌いな刃物を使って料理をすればいいだろうが!」

「「・・・・・・・・・・・・」」

二人とも沈黙、仕方ない譲歩してやるか・・・・

「なんか言うことあるよな? それを言えば許してやらんこともないぞ」

「「キノウハゴメンナサイ」」

「やっぱりそれ食え!」

二人揃って片言とはいい度胸だ・・・・

「すいませんでした、反省してます、ごめんなさい総一郎ちゃん! もうしません!」

いいつつ綺麗な土下座を披露する貴彦

「ふん、貴彦は食ってよし!」

朝食一人分を載せたお盆を差し出してやる

「あぁ! タカ自分ばっかり!」

「ゴメン姫のん、プライドより食欲だ~い」

自分のお盆を持ち逃げていく貴彦

「どうする、姫野?」

「うううう・・・・・・」

「姫野?」

「うううう・・・・・・総一のくせに。総一のくせに 総一のくせに 総一のくせにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! わかったわよ! 私が悪かったです! ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああい!」

顔をぐぐっと近づけながら大声をだしてくる

「姫野、八釜しい!」

両腕を組み、こっちを見ようともしない姫野。

ポニーテールが少し逆立っているように見えるような・・・・ 

「ふん、しかたない。食ってよ・・・(ヒュバッ)・・し・・・・・・・」

差し出したお盆をひったくられた。

「ふんっ、最初からそうすればいいのよ、あんたは私の部下で、(パクパク)がぼくで、(もぐもぐ)をぉもひゃで、(ゴクン)夢見荘の屋敷しもべ妖精なんだから!」

食うか、しゃべるかどっちかにしなさい

「ごちそうさま、先に行く」

いいつつ転校生が席を立つ、何のかんのでこの五月蝿い朝食の場に来てくれていた。

まぁ、おれが意識を無くした間に姫野がなにを吹き込んだのかは知らんが・・・

「待て、俺も一緒に行くって」

「変態と二人仲好くイチャラブ登校でもしろってのか? 嫌だね!」

「お前さんが、転校生じゃなかったら別に一緒になんていかねえよ! 管理人代行として学園の案内を頼まれてんだ!」

「うるさい! そんなの僕には関係無いだろ!」

「大ありだろうが、馬鹿者め」

などと言い争いをしながら二人一緒に登校し、少しだけ帽子君への印象が変わったのかなと思う総一郎だった。



文竜と申します。


はい! とりあえず第一章をあげました。


読みぐるしいと思いますが、なにとぞ!

最後までお付き合いをお願いします。


感想、ご意見など、たくさん頂ければ幸いです。

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