神域
「言ってなかったね。私、スセリビメの祝福を受け継いでるんだ」
俺は言葉を失った。
鈴がすでに祝福を持っているなんて、思ってもいなかった。
「……夢界のおじさんから継いだのか?」
夢界のおじさんは静かに首を振る。
「勘違いするな。私は祝福を持っていない。いわゆる無能力者だ」
「え……?」
「鈴が継承したスセリビメの祝福は、私の妻からだ」
「鈴のお母さんも……?」
「ああ。妻は氷川が率いていた第3部隊の副隊長だった」
胸がざわつく。
親父と、鈴の母さんが同じ部隊だったなんて。
「……そうか」
夢界のおじさんは古びた書物を差し出した。
「これを渡すのを忘れていた」
俺は受け取る。
「歴代のオオクニヌシ継承者が記した神威の書だ。使いこなせ」
書物に触れた瞬間、微かな熱が掌に宿った。
まるで、過去の継承者たちの感覚が流れ込んでくるようだった。
「……行くぞ、出雲。鈴」
俺たちは頷いた。
⸻
社務所を出て、本殿へ向かう。
中央には大きな鏡が祀られていた。
「その鏡に触れろ」
言われるまま、そっと手を伸ばす。
触れた瞬間、視界が揺らいだ。
足元が消え、空間が歪む。
――気づけば、見知らぬ場所に立っていた。
広大な空間。
中央には、天を突くような巨大な杉の御神木。
「ここが天津機関本部だ」
俺は息を呑む。
「今から祭主に会う」
「祭主?」
「天津機関の長だ」
御神木に近づき、夢界のおじさんが手を当てる。
「祭主室まで」
木の幹が静かに開き、内部へ吸い込まれる。
光が収まると、そこは落ち着いた一室だった。
そして――
俺たちとそう歳の変わらない少女が立っていた。
「君たちがオオクニヌシとスセリビメの継承者?」
柔らかな笑み。
だが、その奥に底知れない光を感じる。
「やっと同年代が入ってきた。私は天野 月詠。祝福はアマテラスオオミカミ。よろしくね」
俺は一瞬、言葉を失った。
この人が――祭主。
「大國 出雲。よろしく」
「平坂 鈴です。よろしくお願いします」
月詠は満足そうに頷く。
「君たちは第3部隊に所属してもらう。天津機関には六つの部隊がある」
指を折りながら説明する。
「第1部隊は水。第2は火。第3は地。第4は雷。第5は知恵。そして第6は混沌」
その声は穏やかだが、どこか重い。
「オオクニヌシとスセリビメ。君たちの力は“地”と相性がいい」
「そんなにあるのか……」
「案内したいけど、私はまだ仕事が残っていてね」
その時、背後から気だるい声がした。
「……了解。ほら、ついてこい」
振り向くと、無精髭の男が立っていた。
⸻
廊下を歩きながら、男が口を開く。
「名前は?」
「出雲。祝福はオオクニヌシ」
「鈴です。祝福はスセリビメ」
「俺は碧。祝福はオオヤマツミ。第3部隊隊長だ」
オオヤマツミ。
山の神。
「先代の隊長の息子と副隊長の娘か。お前らは強くなるかもしれないな」
「親父たちの事を知ってるのか」
「知ってるも何もクソお世話になった先輩方だよ。あの人たちのおかげで俺は隊長まで昇るほど強くなった。よく面倒見てもらったよ。まぁ俺は先輩たちみたいに面倒見ねぇからな」
軽く笑う。
「さっさとお前が隊長になって俺の仕事を減らせ、俺は戦うだけでいい。」
少しだけ、空気が和らいだ。
やがて、木々が生い茂る広間に出る。
「ここが第3部隊本部。右が個室だ。空きは二つある」
「妖怪退治はいつだ?」
俺が聞くと、碧は肩をすくめた。
「今日は他部隊が出てる。お前らは明日からだ」
「……」
「今日は休め。覚悟決める時間だ」




