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葦原戦記─神威を継ぐ者たちの妖怪討伐録  作者: 猫山 緑
第1章

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2/9

覚悟

俺は冷たくなった親父を抱え、庭へ出た。


土の上にそっと横たえる。


埋めようと、そう思った、その瞬間だった。


眩い光が親父の身体を包み込む。


次の瞬間、そこに横たわっていたはずの身体は――


大きなイスノキへと姿を変えていた。


庭に、深く根を張るように。


信じがたい光景だった。


だが不思議と、悲鳴は出なかった。


ただ――


親父がまだここにいる。


そんな気がして、少しだけ心が救われた。


俺は木に寄りかかり、声もなく泣いた。


どれだけ泣いていたのか分からない。


気付けば、空は白み始めていた。


泣き疲れた俺は、木の根元で眠ってしまった。



「なんでこんなところで寝てるの。風邪ひいちゃうよ」


聞き慣れた少女の声で目が覚める。


「庭にこんな立派な木、あったっけ?」


俺は何も言えなかった。


「……泣いてた? 目、腫れてるよ。また氷川おじさんと喧嘩したの?」


俺は首を振る。


喉が詰まって、声が出ない。


鈴は俺に手を差し伸べた。


「ほら、早く学校行かないと遅刻しちゃうよ」


「……行けない」


「え? もしかして拗ねて休むの?」


「違う……夢界のおじさんに会わないといけない」


「お父さんに? 出雲、苦手でしょ」


「親父からの……最後の言葉なんだ」


鈴の表情が変わる。


「……最後って、どういうこと?」


「行けば分かる」


数秒の沈黙のあと、鈴は頷いた。


「……わかった。一緒に行く。たぶんこの時間ならお社にいる」



五分も歩かないうちに、大きな赤い鳥居が見えてきた。


鳥居をくぐると、静まり返った社が現れる。


俺は奥へ進み、紫の袴姿の男に声をかけた。


「夢界のおじさん。大事な話があります」


男は俺の顔を見るなり、何かを悟ったように目を細めた。


「……鈴、居間へ案内しろ。ワシは用意するものがある」


それだけ言って奥へ消える。


俺と鈴は居間に入った。


しばらくして、夢界のおじさんが古びた書物を手に戻ってくる。


俺の正面に座り、低く言った。


「氷川は……死んだのか」


俺は黙って頷く。


鈴が息を呑む音が聞こえた。


「誰だ」


声が低くなる。


「玉藻前と……酒呑童子」


部屋の空気が張り詰める。


「……常世とこよか」


「知ってるのか?」


「ああ。我らの宿敵だ。ぬらりひょんが率いる妖怪組織。その中でも玉藻前と酒呑童子は“御三家”」


俺は拳を握る。


「なんで親父が狙われた」


「氷川は天津あまつ機関の四天王の一人だった。退職したとはいえ脅威には違いない。単独になった今が好機と判断したのだろう」


「そんな理由で……!」


怒りが込み上げる。


「今どこにいる。俺が殺す」


「能力の扱いも知らん若造が行ってどうする」


「……」


「死ぬだけだ。本当に仇を討ちたいなら、強くなれ」


俺は歯を食いしばる。


「どうやって」


「天津機関に入れ。神威の使い方を学べ」


「俺が……」


「そうだ。そして――鈴も一緒にだ」


「え?」


鈴は少し照れくさそうに笑う。


「言ってなかったね。私神威:スセリビメを受け継いでるんだ」


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