覚悟
俺は冷たくなった親父を抱え、庭へ出た。
土の上にそっと横たえる。
埋めようと、そう思った、その瞬間だった。
眩い光が親父の身体を包み込む。
次の瞬間、そこに横たわっていたはずの身体は――
大きなイスノキへと姿を変えていた。
庭に、深く根を張るように。
信じがたい光景だった。
だが不思議と、悲鳴は出なかった。
ただ――
親父がまだここにいる。
そんな気がして、少しだけ心が救われた。
俺は木に寄りかかり、声もなく泣いた。
どれだけ泣いていたのか分からない。
気付けば、空は白み始めていた。
泣き疲れた俺は、木の根元で眠ってしまった。
⸻
「なんでこんなところで寝てるの。風邪ひいちゃうよ」
聞き慣れた少女の声で目が覚める。
「庭にこんな立派な木、あったっけ?」
俺は何も言えなかった。
「……泣いてた? 目、腫れてるよ。また氷川おじさんと喧嘩したの?」
俺は首を振る。
喉が詰まって、声が出ない。
鈴は俺に手を差し伸べた。
「ほら、早く学校行かないと遅刻しちゃうよ」
「……行けない」
「え? もしかして拗ねて休むの?」
「違う……夢界のおじさんに会わないといけない」
「お父さんに? 出雲、苦手でしょ」
「親父からの……最後の言葉なんだ」
鈴の表情が変わる。
「……最後って、どういうこと?」
「行けば分かる」
数秒の沈黙のあと、鈴は頷いた。
「……わかった。一緒に行く。たぶんこの時間ならお社にいる」
⸻
五分も歩かないうちに、大きな赤い鳥居が見えてきた。
鳥居をくぐると、静まり返った社が現れる。
俺は奥へ進み、紫の袴姿の男に声をかけた。
「夢界のおじさん。大事な話があります」
男は俺の顔を見るなり、何かを悟ったように目を細めた。
「……鈴、居間へ案内しろ。ワシは用意するものがある」
それだけ言って奥へ消える。
俺と鈴は居間に入った。
しばらくして、夢界のおじさんが古びた書物を手に戻ってくる。
俺の正面に座り、低く言った。
「氷川は……死んだのか」
俺は黙って頷く。
鈴が息を呑む音が聞こえた。
「誰だ」
声が低くなる。
「玉藻前と……酒呑童子」
部屋の空気が張り詰める。
「……常世か」
「知ってるのか?」
「ああ。我らの宿敵だ。ぬらりひょんが率いる妖怪組織。その中でも玉藻前と酒呑童子は“御三家”」
俺は拳を握る。
「なんで親父が狙われた」
「氷川は天津機関の四天王の一人だった。退職したとはいえ脅威には違いない。単独になった今が好機と判断したのだろう」
「そんな理由で……!」
怒りが込み上げる。
「今どこにいる。俺が殺す」
「能力の扱いも知らん若造が行ってどうする」
「……」
「死ぬだけだ。本当に仇を討ちたいなら、強くなれ」
俺は歯を食いしばる。
「どうやって」
「天津機関に入れ。神威の使い方を学べ」
「俺が……」
「そうだ。そして――鈴も一緒にだ」
「え?」
鈴は少し照れくさそうに笑う。
「言ってなかったね。私神威:スセリビメを受け継いでるんだ」




