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葦原戦記─神威を継ぐ者たちの妖怪討伐録  作者: 猫山 緑
第1章

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1/9

復讐の灯火

「───出雲、逃げろ」


その声で、俺は飛び起きた。


「親父……今何時だと思ってんだよ」


寝ぼけたまま部屋のドアを開ける。


俺は理解できずにその場に固まった。


廊下に立っていたのは、この世のものとは思えない存在だった。


九つの尾を揺らす女。

鬼の角を持つ大男。


目が合った瞬間、本能が叫ぶ。


――逃げないと、死ぬ。


だが一歩も動けなかった。


次の瞬間。


腹に、冷たいものが入る感覚。


遅れて、鈍い音。


──ドス


視線を落とすと、刀が俺を貫いていた。


「……あ?」


膝から崩れる。


そこへ親父が飛び込んできた。


「下がれ、出雲!」


叫びと同時に、光が溢れる。


化け物たちを包み込む眩い光。


親父は俺の腹から刀を引き抜き、傷口に手を当てた。


「【葦原あしはら再生】」


温かい光が広がる。


痛みが、消えた。不思議なことに傷はすっかり無くなっていた


「なんの用だ……酒呑童子、玉藻前たまもまえ


親父の声は低く、鋭い。


九尾の女が笑う。


「ぬらりひょん様の命よ。オオクニヌシの祝福を持つ貴方を、排除する」


鬼が刀を構える。


天津あまつ機関を抜けようと、脅威は脅威だ」


親父は静かに息を吐いた。


「……息子の前だ。本気でいかせてもらう」


光が地面から噴き上がる。


「【葦原想像:国造之くにづくりの太刀】」


巨大な光の太刀が形を成す。


だが――


「【穢ノ祝詞けがれののりと】」


玉藻前が囁いた瞬間、光が歪む。


太刀が、消えた。


そして。


親父の胸に、鬼の刃が突き立っていた。


「……排除完了ね」


九尾が揺れる。


世界の音が、遠のいた。


鬼と九尾の気配が消えたあと、

家の中には異様な静けさだけが残った。


「親父……」


胸に刺さった刀を見た瞬間、呼吸が止まりそうになる。


「今、救急車呼ぶから。な? だから――」


震える手でスマホを掴もうとした、その時。


「……やめろ」


弱々しい声だった。


「じ、自分の死に際くらい……わかる」


「ふざけんなよ。さっき俺の傷、治しただろ。自分のもやれよ……」


親父は、かすかに笑った。


「玉藻前の能力……【穢ノ祝詞】はな……神の祝福を、強制的に解除する」


息が荒い。


「だから……治せない」


血が畳に広がる。


俺の手が、赤く染まっていく。


「出雲……聞け」


その声だけは、はっきりしていた。


「俺たちの家は……代々、神威:オオクニヌシを継いできた」


震える手が、俺の手を掴む。


「次は……お前だ」


手のひらに、温かい光が灯る。


小さな光の玉が、ゆっくりと俺の中へ溶けていった。


胸の奥が、熱い。


「これで……継承は完了だ」


親父の目が、少しだけ柔らぐ。


「隣の……平坂家に行け。このことを伝えろ」


息が、浅くなる。


「悔いはない……と言いたいが……」


視線が、俺に向く。


「お前の成長を……見られないのが、残念だ」


喉が詰まる。


「……長生きしろよ」


その言葉を最後に。


親父の手から、力が抜けた。


静かだった。


あまりにも、静かすぎた。


俺は、動けなかった。


涙も出なかった。


ただ、胸の奥で何かが燃え始めていた。


九尾の女。


鬼の大男。


そして、その背後にいるという“ぬらりひょん”。


――必ず、殺す。


親父の命を奪ったあの妖怪どもを。


この神威で。


必ず。


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