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第1話 転生してすぐモンスター

「……て……きて……起きて」


 ぼんやりとする意識の中、聞こえてきた声が、俺を呼び覚ます。


「あ、やっと起きた。もう、お寝坊さんなんだから」


 灰色のスーツを身に着ける彼女は頬を膨らませ、少し呆れたように俺を小突いた。


 次の瞬間、頭痛が走った。頭を押さえ、脳をフルに回転させる。


 こうして昨日のことを思い出してみると、そこで俺は彼女と共に酒を飲んでいた。


「ねぇ、私、もう行くよ? いつもの、欲しいな……♡」


 そう上目遣いでねだる彼女はその潤った桃色の唇を俺に差し出し、静かに目を瞑る。


 そこでようやくあやふやになっていた自分というものを思い出した。


 俺の名前は『宿木覇羅沙』、バキバキのキラキラネームで読みは『パラサ』だ。そして、この目の前にいる女性『藤原カズラ』のヒモである。


 生憎、俺は労働とか、努力とかが嫌いな人間だ。4年程前に働くのを渋って街を放浪していたところをこのカズラちゃんに拾われた。……といった流れで現在進行形で居候し続けている。


 もちろん、タダで居候が許されるわけはなく、このように時折キスを要求されたりもする。そういう時は素直に従うのが吉ってもんだ。


 そういうわけで俺は彼女の差し出した唇を受け入れ、ロマンス映画ばりのキスをした。


 すると、彼女は満足したように微笑み、会社へと向かっていった。


 ドアが閉まったことを確認し、俺は冷蔵庫を漁りビールを探す。迎え酒、それが俺の中ではじき出された二日酔いに最も効く対処法だ。それなのに、冷蔵庫にはビールがなかった。恐らく、昨日全て飲んでしまったのだろう。


 こうなってしまえば自分で買いに行くしかないだろう。そういう訳で、俺は近所のコンビニへと向かうことにした。


 頭痛をごまかすためのイヤホンを身に着け、人気の少ない住宅街を抜ける。そんな調子で歩いていると短い悲鳴が背後から聞こえてきた。


 振り返ると、目の前にはトラックが迫っており、瞬く間に俺の意識は闇へと堕ちていった。


「……さい……てください……目を覚ましてください」


 何だかデジャヴを感じる起こされかたで意識が戻る。


 そこは神秘的な空間で目の前にいたのはトラックではなく、質素な装束を身に着けた一人の女性だった。


 俺の意識が戻ったのを確認した彼女はホッとしたように安堵の息をこぼした。


「ようやく目を覚ましましたね、宿木パラサ。私は女神の『シフォン』と申します。早速ですが貴方は死んでしまいました」


「……へ、女神?」


「そこで、貴方にお願いがあります」


「……ちょっと待って? その、こっちも色々と混乱してるし、一旦整理させて?」


「そのお願いというのが……」


 ……こいつについている耳は飾りなのか? そう疑いたくなるぐらいには自分の話をたたみかけてくる。


「異世界で行方不明になった貴方のお姉さん『サクラ』さんを探し出してほしいのです」


「はぁ!? 異世界で姉ちゃんが行方不明? 何がどうなってんだよ? そもそも、俺の姉ちゃんはもう……」


 死んだんだ。俺が16の頃に。


 俺にとって姉ちゃんは、母ちゃんの代わりみたいな人だった。


 母ちゃんは俺らを放置して夜な夜な街に出かけてはしこたま酒を飲んだり、男をひっかけたりするような奴だった。だから、姉ちゃんが母ちゃんに代わって俺の世話を焼いてくれたんだ。


 そんな姉ちゃんがおかしくなったのは5年前。会社で大きなミスをやらかした同僚に濡れ衣を着せられ、クビになってからだった。


 それからの姉ちゃんは就活をしながらボランティア活動を行うという生活を行っていた。


 その時、ボランティア団体を装ったカルト教団が姉ちゃんに近づいた。それで姉ちゃんは教団にどっぷりハマっちまったんだ。


 お布施とか続けて1年。多額の借金を抱える羽目になった結果、姉ちゃんは自ら命を絶った。


 だから、俺はこいつの言っていることに耳を疑った。死んだと思ってた姉ちゃんが別の世界で生きてて、その上行方不明になった。そんなことを一方的に話されて馬鹿正直に信じろってのには無理がある。それを感じ取ったのかこいつはこくりと頷き、話をつづけた。


「ええ、確かに、サクラさんはお亡くなりになりました。ですが、不遇に思った私は彼女を異世界に転移させたのです」


「はぁ!? ちょ、何人の姉ちゃんを募金感覚で異世界に飛ばしてんだよ!」


「転移させたのはいいのですが、その後『全ての人が幸せになれる方法を見つけた』と残し行方不明になってしまいました」


「いや、よくねぇからな!? 今んとこ! 何一つも!」


「そこで、あなたにお願いがあります。どうか、異世界にてお姉さんを見つけ出し、問題を起こす前に止めてほしいのです。なんだか、彼女を放っておいたらとんでもないことが起こる予感がするのです」


「……何で俺がそんなこと……」


「何故って、もし異世界でサクラさんが問題を起こせば、連帯責任で転移させた私にも罰が下るからです。そこで弟である貴方がサクラさんを止めるのに最適だと判断しました。それに、貴方もお姉さんが大罪人になるのは嫌でしょう?」


 俺はこいつを殴りたくなった。確かに、姉ちゃんが犯罪者になるのはいい気がしない。育てて貰った恩だって感じてる。


 だが、要はこいつの尻拭いをしろってことだろう? 冗談じゃない。


 何が腹立つかって、こいつに一切の悪気が感じ取れないからだ。多分こいつは姉ちゃんの転生も俺に姉ちゃんを止めさせるのも善意でやってることなんだ。


 だが、こいつの言うことに素直にハイと言うのは癪にさわる。だから、ちょいとごねることにした。


「いや、普通に考えて姉ちゃん止めるのもあんたがやればいいんじゃない? 女神サマなんだろ?」


「それはできません。私たち神が世界に干渉するのは基本的に禁止されています。実は転移も黒よりのグレーなんです」


「……あんた、マジで善意の方向性おかしいよな」


「……? とにかく、頼れるのは貴方しかいないのです。お願いします」


「はぁ、分かったよ。異世界で姉ちゃん見っけて、やらかす前に止めればいいんだろ?」


「……! はい! よろしくお願いしますね!」


 シフォンが満面の笑みで頷くと、謎の呪文を唱え始めた。すると、一瞬にして俺の周囲を光が包み、俺は思わず目を瞑った。


 目を開くと、そこは木々生い茂る森の中だった。一見ただの森に見えるが、本当に異世界なのだろうか? 正直、生き返った実感というか、死んだ実感すらまだない。


 その場にじっとしているのもあれだったので、しばらく森を歩いていると一つの木の実が落ちていた。それを見た瞬間、疑念は確信に変わった。


 その木の実は見た目こそ何の変哲もないリンゴのようだが、異常なまでに食欲をそそられる。とにかく、この実を食べたい。いや、食べなければならない。そう思った時にはもう木の実に食いついていた。


 口の中で溢れる果汁、シャリシャリとした果肉。どっちかというとナシのような食感のそれははっきり言って普通に不味かった。確かに、食感だけで言えばナシだが、果汁は苦く、果肉は辛いのだ。何というか、市販のカレーにブラック缶コーヒーを丸々一本入れたような味がする。シンプルに味の食い合わせが最悪だ。


 気持ちの悪くなるような味のする木の実を食べ、きっと俺はすごい顔をしていただろう。次の瞬間、俺の顔はもっとすごいことになった。


 なんだか、とても喉が渇くのだ。そう思ったのもつかの間、激しいめまいに襲われ、前が見えなくなる。そのめまいに耐え切れず、その場に倒れ気絶してしまった。


 本日何度目か分からない目覚めが訪れた。めまいは止み、喉の渇きもある程度マシにはなった。クソ、なんだったんだ、あの不味い木の実は。というか、何だか目線が低い気がする。とりあえず、渇いた喉を潤すために、近くにあった池に水を飲みに行く。


 こうして水を飲もうと水面を覗き込んだ時、そこに映ったのは俺の顔ではなく、木のモンスターだった。人型だが、頭が葉で、腕は枝、胴は幹、足は根になっている、子供ぐらいの等身のモンスター。俺は慌てて背後を振り返るも、それらしいモンスターはいない。


 なんだか、嫌な予感がして恐る恐る頭に触れてみるとその感触は髪のものではなく木になる葉っぱだった。


 この時、俺はなんとなく理解した。あの木のモンスターの正体は俺自身で、原因がクソ不味いナシもどきであると。原因が分かると、意外と大したことない気がして冷静さを取り戻せた。


 とにかく、これからどうしよう? 姉ちゃんの行方を探すのが最優先なのだろう。だが、この体でいったいどうする? いや、そもそも日常生活が送れるのか? ……そこで俺はこの体でできることを調べてみることにした。


 色々試してみたら、動作は基本的に問題なさそうだ。いや、何なら身体能力が人間時代より上昇しているような気さえする。


 それだけではなく頭の葉を刃のように鋭くして飛ばしたり、肩のあたりから蔓を伸ばせたり、口から謎の種を発射できたり、人間離れしたこともできることが判明した。この時、俺は生まれて初めてポ〇モンの気持ちが分かった気がする。


 とりあえず、自分の変化が分かった今、この森から出ることが最優先事項だろう。森を出たら人を探し、姉ちゃんの手がかりを探す。出口の方向は分からないが、一つの方向に進み続ければいつかは出られるだろう。


 しばらく歩いていると近くに一人の女性を発見した。彼女も探し物をしているのか辺りを見回し俺はその女性に近づき、声をかける。


「あのー、すんません」


「……はい、どうかしました……か……?」


 女性は俺の姿を見るなり硬直してしまった。まぁ、無理もないだろう。なんせ、今の俺は木のモンスターなんだから。逆に、ここまで冷静でいられる俺がおかしいんだ。


 そう自分を納得させ、静かにその場を去ろうとした時、目を輝かせる彼女にがっしりと肩を掴まれた。離れようにも離れられない。なんだこいつ、妙に力が強いぞ!?


「あらあら~、どうしましたか~? 何か困りごとですか~?」


 彼女は満面の笑みで俺に問いかける。そうだな、今一番困ってることは無駄に力の強い不審者に肩を掴まれ離してもらえないことかな。


 まぁ、そんな冗談は置いておいて、俺は苦笑いを浮かべながら姉ちゃんの手がかりを知らないか尋ねてみた。


「あらまぁ、お姉さんとはぐれてしまったんですねぇ。大丈夫ですよ~、私も一緒に探してあげますから~」


 冗談じゃなくて本格的に困った。はぐれたとかいうレベルの話じゃないんだな、これが。


 それに、初対面の不審者に「自分は転移者で先に転移した姉ちゃんが何かやらかす前に止めなきゃいけない」なんて説明したって理解してもらえるはずがない。


「あーいや、別に一人で探せるんで大丈夫っすよ」


「そんなこと言わずに、私に任せてください! こう見えても、人探しは得意分野なんですよ~?」


 何故今日俺が出会った女性は皆善意の方向音痴ばかりなのか。これぞ俗にいうありがた迷惑ってやつか。姉ちゃんもこういう感じの善意の押し売りしたことあんのかな?


 ……少し申し訳ない気もするがここは強行突破をさせてもらおうと思う。


 俺は押さえつけられた肩から蔓を伸ばし彼女の手を押しのける。そして伸ばした蔓を木の枝に引掛け蔓を戻す力を使い木の上に飛び上がる。そして彼女を撒こうとス〇イダーマン顔負けの身のこなしで木々を飛び越えていった。


「あ! ちょっと~、待ってくだ~さい!」


 彼女はそう叫ぶが、無視を決め込むことにした。きっと彼女が引くことは無いであろうし、こちらもいちいち事情を説明するのも面倒くさい。やがて、彼女の声も聞こえなくなり、街が見えてきた。


 早速街に入ろうとしたとき、一人の少年と目が合った。


「うわあああ! モンスターだ!」


「あ! おい、待てって!」


 少年は俺を認識するなり叫んで逃げ出してしまった。ま、こんな見た目じゃしょうがないよな。とにかく、街に入ればこんな見た目でも手がかりをくれる人もいるかも。そう思い、俺は街へと足を踏み入れた。


 ……それが間違いだったんだ。子供どころか、俺がモンスターだと認識した奴は例外なく悲鳴を上げ、慌てふためき逃げてゆく。悲鳴は次々に連鎖し、あっという間に街は阿鼻叫喚に包まれた。誰一人として会話なんてできず、殆どの人間が逃げ惑い、中には命乞いし出す奴までも現れた。


 俺が困り果てていた次の瞬間、剣を構えた男と杖を持った女が俺の前に立ちはだかる。男は如何にも剣士といった鎧を身に着け、女はザ・魔法使いといったようにローブを着ている。


「出たわねモンスター! ここは私に任せて! 『バーンレイン』!」


 木の杖の先から魔法陣が出現し、そこから火炎弾がこちらに向かって飛んでくる。レインという割にはかなりの小雨だが、弾速と弾の大きさは中々だ。今の身体でくらえばタダでは済まないだろう。


「……ちょ! 待てよ! 俺はただ人を探してるだけで……!」


 魔法使いの放つ火炎弾の弾幕をなんとか避けながらそう叫ぶも奴らは聞く耳を持たない。十数発の弾幕を全てかわしきると魔法使いは弾切れを起こしたのか、疲れたように膝をつく。


「アリー! ……貴様よくもッ!」


 剣士は手に持った剣を俺に向かって振り下ろしてくる。その剣はただただ力任せの大振りで避けるのはそう難しくない。しかし、その威力は本物で石で作られたであろう地面にヒビが入っている。


「おい待て、俺なんもしてねぇよ! そいつが勝手に弾切れ起こしただけだよ!」


「貴様がとっとと死んでいればアリーが膝をつく事など無かったのだ!」


「んなめちゃくちゃな! クソッ! こうなりゃ……!」


 俺は大きく後ろに下り、頭の葉を尖らせ攻撃の姿勢を取る。すると、相手も攻撃の意思を読み取ったのか防御姿勢を取り、こちらの攻撃に備えだした。


 そこで俺は蔓を背後に伸ばし、背にある木に巻きつけ、例の不審者から逃げた時と同じように木の上に飛び乗った。そう、さっきの姿勢は奴の攻撃を止めるためのフェイント。この体になって間もないのに攻撃を避けながら蔓を伸ばすなんて器用なことが出来る訳ないじゃないか。


「クソッ! 逃がすか!」


 そう剣士は追いかけて来るが、今の俺は人間以上の身体能力を持つモンスター。あの不審者を撒いたように木々の上を飛び越えてゆけば剣士と言えど簡単に撒くことができた。


 木の上をパルクールするのにも疲れ、地に足、いや、根をにょろにょろとさせ歩いていた時だ。聞き覚えのある大きな声が俺の耳を貫いた。


「あ~! さっきの迷子ちゃん!」


「……げっ!」


 剣士から逃げたのは良かったが、盲点だった。この森にはこいつがいたんだ。


 また逃げるか? いや、正直もう逃げ疲れたぞ。それに、こいつからは先程の剣士や魔法使いと違い、敵意は感じられない。というか、この世界に来て唯一まともなコミュニケーションをとれた相手だ。姉ちゃんの特徴を上げ、情報を求めるのもアリかもしれない。


「もう、急に逃げ出すなんて酷いですよ~」


「すんませんね、こっちも色々急いでたもんで」


「まぁ! それなら早く見つけないと! お姉さんはまだこの森に?」


「……あー、いや、それが何処で行方不明になったかも分かんなくて、しらみつぶしに探し回ってるっす。街で情報を集めようにも、だーれも口聞いてくれなかったんすよね」


 俺がハハハと笑いながらそう告げると、彼女は急に真顔で黙りこくってしまった。あれ、俺何か不味いことでも言ったかな?


「……街に行ったの? その姿で?」


 彼女はさっきまでの母性溢れる暖かな声とは一転し、どこか冷めたような声色でそう尋ねる。


「えっ、あ、ハイ。なんか、不味かったすかね。いや、不味かったか……。殺されかけたし……」


「……ねぇ、一つ聞いてもいいかな?」


「……どうぞ」


「君、出身は?」


 この時、彼女の鋭い視線に囚われた俺は固まってしまった。そもそも今いるこの森やさっき行った町の名前すら知らないのに、この世界の地名なんてわかる訳ないだろ。


 俺はただ黙っていることしかできなかった。


「……」


「……やっぱり、答えられないよね。君さ、この世界の人じゃないでしょ」


「……」


「大丈夫。君が別の世界の人だからといって、とっ捕まえたりなんてしないよ。……ただ、ちょっとがっかりしただけ」


「……がっかりってどういうことだよ」


「街に降りたならわかるでしょ? モンスターを見た人の反応。あれはね、あの街特有のものじゃなくて、この世界での普通なんだよ」


 ゆっくりと語る彼女はとても辛そうで悔しそうだった。その声色には怒りや悲しみなどの様々な感情が混ざり合っており、なんだかやるせなさを感じる。


「人間があんな態度だから、モンスターたちも反発するように攻撃的になっているの。だから、君に声を掛けられたとき、すごく嬉しかったんだよ。人間に敵意のないモンスターがまだいたんだって」


「……その、なんかごめん」


「ううん、君が謝ることじゃない。それに、まだ出会えていないだけで、人間に敵意のないモンスターもいるかもだから」


 彼女は優しく首を横に振ると、前を向いてニコリと笑った。それと同時に、俺は彼女に対し興味が湧いてきた。


「なぁ、なんでそんなに人間に好意的なモンスターに拘るんだよ。ペットにでもしたいのか?」


「……私ね、夢があるの。人間とモンスターの共存っていう夢。人間たちはモンスターが怖いものって認識があるから、モンスターを拒絶しているのよ。だから、怖くないモンスターもいるよって証明できれば人間とモンスターの共存もできると思うの。それに、いつまでもいがみ合っていたら誰も幸せにならないじゃない」


「……確かにいがみ合いがなくなるのは良いことだけどよ、そんなの無理だろ……。だって、証明しようにも、話にすらなんなかったじゃん、あいつら。どんな完璧な理論も相手が聞かなきゃ無意味じゃね?」


「誰に何を言われても、私はやるわ。それに、相手が聞かないなら、耳を傾けるまで言い続ければいいじゃない」


「……ははっ、こりゃ恐れ入った。あんた、見かけによらずパワー系なんだな。応援するぜ、あんたの夢」


 心優しいが時折強引で皆の幸せを願う彼女の姿はどこか姉ちゃんに似ていて、眩しかった。この手の光は昔から見慣れているはずなのに、いつまで経っても俺には眩しすぎる気がする。


 そう、俺が黄昏ていた時、彼女がポンと手を叩く。


「……そうだ! 私ね、夢を叶えるための一環として便利屋をやってるんだけど、君、うちで働かない?」


「え」


「その姿だと、お姉さんの足取りも掴めないでしょ? でも、うちで働いてくれるならお客さんからなにか情報を聞き出せるかも! ね、いいでしょ?」


 嫌だ、働きたくない。応援するとは言ったがそれとこれとは話が別だ。でも、このままじゃ姉ちゃんの情報を聞くことはできない。


 ……最悪だ。こんなの否が応でもはい以外の選択肢がないじゃないか。RPGの強制イベントかよ。


 苦悩の末、本当に苦悩の末、かなり、いや、物凄く嫌だが、不可抗力というやつで俺はその首を縦に振った。


「やったー! ありがとう!」


 俺が渋々彼女の提案を受け入れると、彼女は大喜びでぴょんぴょんと飛び上がった。


「私、『ツボミ』って言います! 君の名前は?」


「……パラサ」


「そっか! よろしくね、パラサ君!」


 そうして俺はツボミに手を引かれ、ツボミの営んでいるという便利屋へ向かった。


 道中、俺は頭の中で――


 どうにかして……サボれねぇかな……


 ――でいっぱいだった。


毎週水曜日更新予定です。

もし面白いと感じていただけたなら応援よろしくお願いします。

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