ルート5 転生先で、主人公(元親友)から逃げれない。
タクミにキスされてからというもの、スキンシップのレベルが日を追うごとにグレードアップしている。
攻略対象者が近づいてくると、俺の頬にキス、急に抱きしめてきて。人のいないところでは、ディープキスまでしてくる始末だ。
……で、それは16歳になった今でも、全く変わってない。
いつの間にかタクミは俺の部屋の鍵を手に入れてて、当然みたいな顔して夜な夜な侵入、気づけば布団に潜り込んでる。んで朝になると、俺のパジャマはだけさせて、体中にキスの雨。くすぐったさで目を覚ました瞬間──
今度は、首筋とか、やたら敏感なとこにキス連打。
(……やめろっつってんのに。)
「……お前な! 朝からやりすぎやっちゅうねん!」
タクミの頭をしばく。
「……だって、アキト、美味しそうやってんもん。」
「俺は食べもんちゃうわ!!」
「攻略対象者も俺がアキトばっか溺愛するから、言い寄ってくるのを諦めてくれたし、もう、このストーリー終わらせるために、アキト食べていいと思うねん。」
「…お前を受け入れたら、この世界とはおさらばできるんか?」
「それは……やってみな、わからへん♡」
「さらばできひんかったら、しばく。」
「うん。責任とって、アキトを幸せにするよ!」
俺は深くため息をついて、覚悟を決める。
「──で、俺は何しとったらええん?」
「俺のすること、ぜんぶ受け入れるだけでええ。」
「……なんか、ヤな予感しかせえへん。」
「ちゃーんと、俺を受け入れてな?そうじゃないとストーリー終わらんから。」
「わかった。来いよ。」
「うーん……そんなんじゃアカンなあ。“タクミの好きにして?”って言ってくれへんと」
「……めんどくさいな、ほんまに」
呆れながらも、俺は小さく目を閉じた。
「……好きに、しろよ。責任は取れよ。」
その瞬間──タクミの目が、ぱぁっと花咲いたみたいに輝いた。
「──っよっしゃあああああ!!!アキト、今日から毎日、俺のターンやからな!!」
「ちょ、おまっ、それは話がちが──」
「だいじょぶ。愛情で押し切るから♡」
その日、朝からストーリーの最終回に向けて――結ばれる“儀式”が行なわれた。
これで、この世界ともおさらばだ。
そう信じて、俺はタクミに身を委ねた。……それが、いけなかった。
暴走したタクミにベッドへ押し倒され、気づけば、夜が明けても解放されないまま朝。
しかも――
目を覚まして見たのは、変わらぬ天井。窓の外には、異世界の風景。
鏡に映るのは、“ユリウス”の姿のまんま。
(………………あれ?まさか、ストーリー終わってない?)
慌てて隣のタクミを叩き起こす。
「……なあ。なあ、タクミ。あれ、終わったんだよな?物語。俺を選んだんやろ?そしたら――元の世界に戻るはずで……」
「うん。俺はアキトを選んで、ちゃんと食べたよ。」
「……でも、戻ってないやん!」
「戻らへんなー。……この世界が現実ってことなんちゃう?」
タクミは、さらっと言いやがった。悪びれもせず、むしろケロッとした顔で、俺の髪をくしゃくしゃ撫でてくる。
「ってことで、今後は俺の嫁としてよろしくな♡」
「…………マジか。」
頭を抱える俺の横で、満面の笑みを浮かべるタクミ。
(……こいつ、最初からこうなる事、わかってたんちゃうんか。)
自分の記憶を巻き戻す勇気はない。ただ、一つだけハッキリしたのは――
もう、これは夢ちゃう。現実や。
俺はこの世界で、“主人公に選ばれてしまった”。
「………………詰んだ。」
「ってことでもう一回しよ?」
「……ちょ、待って。さすがに無理!!」
俺はゆっくりと後ずさる。
その目の前には、何食わぬ顔したタクミ。爽やかに微笑みながらゆっくり俺の上に乗る。
「ねえアキト、昨日は“終わりだと思って”受け入れたって言ってたけど――」
タクミがぐいっと近づく。
「現実だってわかった今も、拒まないよな?」
「いやいやいやいや!!? おかしいやろ!? おかしいやろ!?!?!?!?」
逃げようとする俺を、タクミがさらっとベッドに押し倒す。
「だってさ、アキト……俺とあれだけのことして、あれは気の迷いでした、じゃあ悲しいわ。」
「……お前、そうせなストーリー終わらんとか言ってただろ……」
そして、囁かれる。
「ねぇ、アキト。……ちゃんと俺を見て?」
目を逸らした俺の頬に、タクミの手が添えられる。その手に導かれるまま、視線を奪われた。
(ま、待て……!落ち着け俺……!)
でも――
ふと見上げたタクミの瞳は、前世からずっと、変わらず俺だけを映していて。
それに気づいた瞬間、心臓が跳ねる。
「タクミ……お前、本当に……」
「うん。好き。ずっと、ずっと前から。」
言葉が、喉で詰まった。
こうして物語は終わりを迎える――はずだった。
けれど、終わりは来ない。
終わると信じていた夜は、現実となって続き、ふたりの関係も、境界線を越えたまま、戻らなかった。
そして――
俺が気づいた時には、もう逃げられない場所にいた。
「お前、やっぱりズルいわ……」
「え? なにが?」
「全部わかってて、俺が落ちるの、待ってたやろ。」
タクミは、くしゃっと笑った。
「うん。だって俺――」
……アキトが、好きすぎるから。
▶︎ハッピーエンドルート_タクミの“アキト溺愛ルート”入りました。
【完】