彼とカレーで華麗に結ばれた
カレーはキャンプの醍醐味である。
綺麗な空気と開放的な自然の中、みんなで仲良く作ったカレーは格別。料理に慣れてる人もそうでない人も、みんなで力を合わせて作ったならそれは多少不格好でも無性に美味しく感じる。
「――違うよこんなんじゃないんだよ俺が求めてたカレーはぁっっっ!」
言いながら幼馴染の狩井がスプーンを握りしめ、叫ぶ。「うるさい」と思わず本音が漏れ出れば、彼は好き勝手に言い始めた。
「いや何だよこのカレー! なんか全体的に具ばっかりで汁気が少ないし、ナスにトマトにピーマンパプリカその他色々な野菜が全部みじん切りだし、肉でさえ挽き肉だし! なんかこう、カレーっぽいカレーじゃないだろ! カレーのフリー素材で見るような、『これがカレーという存在の標準値です』みたいなカレーと全然違うだろこれ!」
「仕方ないでしょ、トマトキーマカレーなんだから……」
「いやそれにしてもトマト成分多すぎない!? トマトにケチャップにトマトジュースまで入れて! おかげで見た目だけは一応カレーの色してるのにカレーの味しねーじゃん! おかしーだろ!」
「そりゃ、トマトをいっぱい入れたんだからトマトの味がするでしょ」
「普通カレー入れたら全部カレーの味になるじゃねーか! なんでカレーが負けてんだよ! カレーに勝てる食材そうそうねぇだろ! なんでこうなったんだよ!」
「先生が持ってきたレシピがそうだったんだから仕方ないでしょ。たぶん、レシピ考えた人がカレーに負けないぐらいトマトが食べたかったんだよ」
「だったらトマト食えよ最初から! あぁ、もう……! 俺が食いたいのはこんなカレーじゃないんだよ。もっとこう家庭的な……野菜はニンジンタマネギジャガイモしかなくて、それが全体的にごろっとしててさ……特に肉は兄弟で『兄ちゃんの方が肉多い、ズルい!』とか『お前デカいの当たってんじゃん! いーなー!』ってなるようなちょっとアンバランスな混ざり方してて……そういうカレーが食べたかったんだよ俺は……死んだ母さんがよく作ってくれたみたいなさ……」
途中から声が小さく、うつむきがちになる狩井はそこでちょっと元気をなくしたのか大人しく座りこむ。
――狩井が母親を亡くして以来、ずっと塞ぎこんでいるのをあたしは知っている。
父親は妻の忘れ形見である狩井三兄弟を「絶対に大学まで入れる、苦労はさせない!」と言い張ってずっと働いていて狩井本人はまだ幼い弟、妹の面倒を見る傍ら必死に勉強している。学費の低い大学や奨学金制度などを熱心に調べる彼は、父親と同様に「家族を守らなければ」という意識が強いのだろう。
その中で、寂しくなることもあるだろうに……
その時、あたしはふっと思いついたことを口にして見る。
「じゃあさ、あたしがあんたの家でカレー作ってあげようか?」
「……っえ?」
「狩井がどういうカレー食べたいか聞きながら作れば、狩井の食べたいカレーに近いものできるでしょ。あたしも正直、今回のカレーは物足りないと思ってたし……せっかくだからさ、狩井の家族の分も一緒に作ろうよ、二人で、理想のカレー!」
にこっと笑うあたしに、狩井はしばらくモジモジした後――恥ずかしそうに「うん」と頷いた。
――数年後。
この一件以降、あたしと狩井は意気投合し恋人同士に。さらに狩井の家族も公認の仲だったせいかとんとん拍子に結婚が決まった。
そんな事情を知る狩井の妹が結婚式で上記の一件をスピーチし、「つまり新婦は兄である彼とカレーで華麗に結ばれたのです」と茶化されたことで……あたしは嬉しいやら恥ずかしいやら、あのキャンプの時に食べたカレーのトマトぐらい顔を真っ赤にすることしかできなかった。




