ルナの運命
暖炉の火がパチパチと鳴り続ける中、アルデバランと父バルドと母エリナは、無言で向かい合っていた。
ルナの願いを受入れ
アルデバランの申し出を了承したとはいえ、心配が尽きない。
アルデバランの言葉が、二人の心に重く響いていた。「ルークではない」その一言は、まるで目に見えない魔法の波となって部屋を包んだのは言うまでもない。
「ルークでは……ない?」 父バルドが、改めて低く呟き、眉を寄せた。
バルド自身、若い頃にアルデバランに師事し、強力な魔法使いとして名を馳せた過去を持つ。
長男ガレンもまた、アルデバランの指導のもと、すでに熟練の魔法使いとしての道を歩み始めていた。
次男ルークがその次だと、誰もが当然のように思っていた。
アルデバランは、再度言った。
「ルナだ」
「アルデバラン様、ルナはまだ子どもです! いくら資質があると言われても、修行に出るには早すぎます。危険すぎる……」
彼女の声には、母親としての心配が滲んでいた。
バルドもまた、厳しい表情で頷いた。
「その通りだ、アルデバラン。ルナはまだ幼い。魔法の道は厳しく、危険も多い。ルークなら、少なくとも年齢も経験も十分だ。なぜルナでなければならない?」
アルデバランは穏やかに、しかし確固とした口調で答えた。
「バルド、エリナ。君たちの心配は理解できる。だが、ルナの資質は、ルークやガレン、さらには私自身の若い頃を超えるものだ。彼女の好奇心、純粋な心、そして生まれ持った魔力の輝き……これらは、ただの才能ではない。運命だ」
バルドは、自身の魔力によって、闇の勢力の復活を感じていた。
だが、それがルナと結びつくとは思ってもみなかった。
エリナが震える声で言った。
「アルデバラン様、闇の魔法使いと戦うなんて……。やはりルナには無理です! まだ子どもなんです!」
「確かに、ルナはまだ若い」アルデバランは頷いた。
「だからこそ、今、修行を始める必要がある。彼女の魔力はすでに目覚めつつある。放っておけば、制御できずに暴走する可能性もある。だが、私が導けば、彼女は自分の力を正しく使いこなし、闇に立ち向かえる魔法使いになれる」
バルドは腕を組み、深く考え込んだ。「しかし、ルナを危険な道に送り出すのは……。ルークなら、少なくとも畑や牛の世話で培った忍耐力がある。ルナは好奇心は強いが、気まぐれで集中力に欠ける。彼女にそんな重い役目が務まるのか?」
アルデバランは静かに微笑んだ。
「バルド、君も若い頃は気まぐれだったではないか。だが、君は私の指導のもとで立派な魔法使いになった。ルナの好奇心は、彼女の最大の武器だ。それが彼女を導き、成長させる。ルークにはルークの道がある。彼は癒やしの魔法で、村や家族を守る役割を担うだろう。だが、ルナの道はもっと広い。彼女は世界を見なければならない。そして、変えなければならない」。
ルークは階段の上に座り、ほっとした表情を浮かべながらも、どこか寂しそうな目でルナの寝室に目を向けた。
ルークは魔法使いとしての才能は控えめだったが、家族への愛と責任感は誰よりも強かった。
彼はルナが選ばれたことに安堵しつつも、妹がこれから過酷な道を歩むことを心配していた。
ガレンもルークの隣に座り、ルナの寝室を気にかけながらも、アルデバランと両親の話に耳を傾けていた。
あの時、ルナは目を輝かせ、アルデバランに飛びついていた。
「世界を見る! それ、楽しそう! 行く! 私、行くよ! どんな魔法を覚えるの? 火を出すの? それとも、飛べるようになるの?」
エリナが叫ぶように言っていた。
「エリナ、ルナの心はすでに決まっている。彼女の好奇心は、どんな試練も乗り越える力になる。私がそばにいる。ルナを一人で行かせるつもりはない。私は、まずは基礎を学ばせ、魔力を制御する方法を身につけさせる。危険な任務は、まだ先だ」。
バルドとエリナは顔を見合わせ、長い沈黙の後、バルドが重い口を開いた。「アルデバラン、ルナを預ける。必ず守ってくれ。彼女はまだ子どもだ。どんな資質があろうと、彼女は私たちの娘だ」
アルデバランは深く頷いた。
「約束する。ルナは私の命に代えても守る。そして、彼女が自分の運命を受け入れ、成長するのを見届ける」
ルナが、寝室から出てきた。
三人の声で目が覚めたのか、旅立ちの興奮で目が覚めたのか…
部屋の中心に立ち、家族全員の視線を浴びながら、にっこりと笑った。
「ねえ、みんな、心配しないで! 私、旅のおじさんと一緒に、すっごい魔法使いになるから! そしたら、ドラゴンも闇の魔法使いも、ぜーんぶやっつけちゃうよ!」
その無邪気な笑顔に、家族は複雑な思いを抱きながらも、どこか安心したような表情を浮かべた。暖炉の火が再びパチパチと鳴り、部屋に温かな光を投げかけた。
アルデバランは杖を手に立ち上がり、ルナに言った。
「さあ、ルナ。明日の朝、旅の準備を始める。まずは、森の向こうの町へ向かうぞ。森を抜けるには、1ヶ月はかかる。その道中で、お前の最初の魔法を教えてやろう」
ルナは目を輝かせ、拳を握りしめた。「やった! どんな魔法かな! 楽しみすぎる!」
家族の心配と、ルナの無垢な冒険心が交錯する中、竜祭の夜は静かに更けていった。ルナの運命の旅は、ここから始まるのだった。