大魔法使いアルデバラン
祭の初日が終わり、ルナたちはハーブの香り漂う家に戻った。
母エリナが竜祭の残りのパンを切り分け、父バルドが暖炉に薪をくべる。
すると、扉が静かに叩かれた。
エリナが扉を開けると、そこには白銀のローブをまとった老魔法使いが立っていた。
長い白髪と髭、青い瞳が光り、杖には竜の紋章が輝く。大魔法使いアルデバラン、年に一度の竜祭に必ずこの家を訪れる、エリナの遠い親戚だった。
「アルデバラン様!」エリナが驚き、バルドが立ち上がる。ガレンと次男ルークも敬意を込めて頭を下げた。
「エリナ、バルド、ガレン、ルーク元気そうだな。」
アルデバランは穏やかに微笑み、部屋を見渡した。
「そして、ルナ。やあ、大きくなったな!」
ルナは目を輝かせ、駆け寄った。
「旅のおじさん! やっと来た! 今回はどんな冒険の話? ドラゴン倒した? それとも秘宝見つけた?」
彼女にとってアルデバランは、年に一度の竜祭に現れる、面白い話をしてくれる親戚の「旅のおじさん」にすぎなかった。
アルデバランは笑い、ルナの頭を撫でた。
「ハハ、ルナ、相変わらず好奇心旺盛だな。だが、今日は冒険の話ではない。重要な話がある。」
家族全員に緊張感が広がり、暖炉の火だけがパチパチと音を立てた。
「ルーク……前に」
父親が、次男のルークを呼んだが、ルークは、部屋の隅に行き、緊張した顔で小さくなっている。
次男のルークは、人見知りがひどく、内気な為に、家では、畑の手伝いや、牛の世話をしている。
竜まつりにも行かずに、留守番をしていた。
牛の世話をしているために、病気を癒やす魔法だけは、父親から教わっていた。
「ほら、お前も修行する歳になったのだから、早くこっちへ」
「ルーク、アルデバラン様の方へ」
両親が、次男ルークに話すも、ルークは動かない。
父親が、我慢出来ずに、ルークの方へ行きかけた時
「ルークではない」
アルデバランが静かに言った。
両親、兄のガレン、ルナは、驚いて、アルデバランの顔を見つめた。
「ルーク……では……ない?……」
父親、兄は、アルデバランを師として、強力な魔法使いとなった。
次は、次男のルークのはずだ。
ルークは、部屋の隅で、ホッとしたような表情に変わった。