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裏福引きを当ててみた

作者: 藤乃花

昔、人々に悪さを繰り返す鬼を凝らしめるため、火で炙った豆をぶつけ鬼を退散させた事が節分の始まりだそうです。



毎年節分の前にスーパーで開催される『裏福引き』……赤い玉を引くと赤鬼の役を、青い玉を引くと青鬼の役を負わされるのだ。


後の白い玉は退治役で、豆を鬼たちにぶつける役。

安全な役だと思いきや、実は退治役には大きなリスクがある。

それは鬼の役に紛れ込み、本物の鬼が現れると云われているからだ。

鬼の役と本物の鬼は区別がつかないほど似ており、間違いで本物の鬼に豆をぶつけると鬼の怒りをかうのだ。


つまりは『裏福引き』のハズレ玉は白だという事。

参加しない場合は強制的に退治役に選ばれるので、住人たちは皆、嫌でも『裏福引き』を引かねばならない。

ところで何故豆をぶつけられると怒るくせに本物の鬼が現れるのかと云うと、ストレス発散の為に故意に巻き込まれる事でそれを理由に人々を襲う事が出来るからである。


さあ……地獄の『裏福引き』を引かされる住人たちが、スーパーのエントランスで強制的に並ばされている。

店員たちが目を光らせ行列の人々を見張るので、住人は一人として逃げる事は出来ずにいる。

「『スマイルストア』恒例『裏福引き』で

~っす!

今年の赤鬼役、青鬼役、退治役はどの人になるんでしょう⁉」


青ざめた顔で『裏福引き』のガラポンを次々回していく住人の中に、隣町から訪れた青年がいる。

見ない顔に住人は彼を見つめ、気にしながらも制止はしない。

(何も知らないで『裏福引き』を引こうとしてる)

(この青年には悪いけど、退治役の確率が低くなるなら、黙っていよう……)

(退治役の白を引いてくれ!)


住人たちが青年に視線を向け続ける中、『裏福引き』を引く番が青年に回って来た。

皆固唾を飲んで、青年がガラポンを回す瞬間を見守る。

〈ガラガラガラ……コロ……ン〉

皆の視線が集まる玉の色は、白だ。

青年は退治役に決定した。

鬼の怒りをかう確率が低くなり、住人たちは心でガッツポーズをとった。

「うっし、退治役だな!

鬼の逆襲受けてやろう!」


周囲の者は驚き、青年が見せる豪快な姿に度肝を抜いた。

退治役の事も鬼の怒りをかう事も、理解しながら『裏福引き』を引いたのだ。

住人の一人である主婦が青年に尋ねる。

「あ……貴方、節分の事を知ってるの?」

「勿論です!

鬼の噂を聞き付けて、あえて鬼を惹き付け囮となる為ここに来ました!

実は私の名前は『薄紅桃太郎うすべにももたろう』と云い、鬼の生き残りを探していたんです」


青年はあの桃太郎の子孫だった。

店員たちの顔が青ざめ、桃太郎ももたろうの体つきを視界に入れた。

今気が付いたが桃太郎ももたろうは鍛えられた筋肉を持ち、内側から気圧が漂っている。

「先輩、まずいです。

桃太郎ももたろうが豆まきに参加すれば、オイラたちゃ返り討ちに合います」

「今年は豆を食らっても、この男だけは襲わないようにしよう」

「他の退治役だけを狙うんだ……」


実は店員たちは人間の皮を纏った鬼で、長い間人間として過ごしていた。

人間への逆襲の為に、『裏福引き』を開催しては、毎年豆をぶつけた退治役に復讐をしていたのだ。

「今年だけと云わず、毎年退治役は私と後に合流する仲間三人とで引き受けますから……どうか宜しくお相手願いま~すね」

桃太郎ももたろうが店員たちへと顔を近付ける。

「ひい……っ!」

そしてニヤリと笑い、瞳を鋭く光らせた。

「節分当日、お手柔らかに……鬼さんたちぃぃぃ……」




現代の豆まきと昔話をからめてみました。

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