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銀髪の居城  作者: X
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三十七話 今は辛くても

 時はヘーゼル出立前に遡る。

「ミーア、お留守番できるかい?」

「大丈夫だよ、おじさんとおばさんもいるから」

「すまんな、姉ちゃんよ。ちょっと頼むわ」

「気にすることはないよ。ヘーゼルも気をつけてな」

「あいよ」

 ヘーゼルは、ミーアを姉夫婦に預け、最牡(さいおす)に向かう準備をしていた。

「それで、どのくらいで帰って来れそうなんだい?」

「2、3日だな」

 姉夫婦の住居は、ヘーゼルの家と隣接した場所にあった。ミーアも彼女が不在時、よく遊びに出掛けていた。

「あのヘリかね?」

「何だか、でかいヘリだね。音もうるさいし」

「クライの奴、もっと音が小さいヘリを用意してくれないのかね。迷惑な野郎だよ」

 上空からヘリが、ホバリングしながら下降。風圧で土埃が舞い上がる。ヘリは地面にゆっくりと着地した。スライドドアが開き、若い男性が大きな声でヘーゼルを呼んだ。

「ヘーゼル様、お待たせしました。私はクライ様の秘書をしております。突然で申し訳ございませんが、すぐにでもヘリに同乗してください」

「そうだ、ミーア」

「何、おばあちゃん?」

「最近、人を治す夢を見る、と言っていただろう」

「うん」

「そういう夢や想像はしないこと。まだお前はこちら側に来るべきではない」

 ミーアは理解できず、混乱した。

「おばあちゃん、どういうこと?」

「いや、何でもない。じゃあ行ってくる」

「ヘーゼル様!」

「うるさい、今いくよ」

 ヘリに乗り込み、若い男性秘書はスライドドアを閉めた。収容が完了したヘリは、上空の雲を目指し上昇する。ミーアは、両手を目一杯横に振り、ヘーゼルを見送った。

「ヘーゼル様、ありがとうございます」

「何がだ?」

「大総統様の無茶振りを聞いて頂いたことです」

「クライの無茶振りは、今に始まったことではない。気にする必要もないな」

 若い男性秘書は、彼女にタブレット端末を渡して、セーレの容体をできる限り詳しく、説明をした。

「右下腹部貫通か、酷くやられたもんだね」

「はい、現在医療チームが最善を尽くしております」

「そうかい、ご苦労なこった。この傷は誰にやられたもんなんだ?」

「はい、大総統様の話によると。テマ様から受けた傷とのことです」

「テマか。ふん、あの馬鹿はまだ人を恨んだり、追いかけ回すようなことをしていたんだね。全く、懲りない小娘だ」

 ヘリは雲より高い位置から、徐々に高度を下げっていった。どうやら、病室の屋上に着地するようだ。屋上のバツ印に吸い込まれるように、ヘリは着地した。子供のような女性がヘーゼルを出迎える。

「やぁ、待ちかねたよ。そして、久しぶりだね。ヘーゼル」

「たくよ、来るつもりはなかったんだけどね」


◆◇◆◇


 ヘーゼル到着するなり、すぐにセーレを治療し足早に病室から展望台の墓地へ向かうため、外出していた。

「ふん、二年振りくらいかね。随分立派な街になったもんだ。前来たときは、もっと小さな建物でこんな壁に囲まれていなかった気がするね」

 最牡の商業施設から展望台に向けて、歩き出した。

 (コトネ。元気にしているだろうか……。お前のことだから心配し過ぎよ、て、一蹴するんだろうな。ふん、あっちでアーツと幸せ……、いや、尻に敷れているかもな)

 ヘーゼルは、展望台に到着した。

 目の前に見える慰霊碑に一礼。備え付けのブラシとバケツを手に取り、二人の眠る墓石まで移動した。

「久しぶりだね、コトネ、アーツ。元気だったかい」

 誰も「掃除していなかった」のか、墓石には砂が付着し、雑草が生い茂っていた。ヘーゼルは、墓石を綺麗に掃除しているとペタペタとサンダルのような音が聞こえてきた。

「セーレか。こんな場所まで歩いて来たのかい」

「ヘーゼル……」

 音の正体は、青色の患者着、スリッパを履いたセーレであった。顔は青ざめた表情で、目も伏せていた。

「全く、セーレ! ちょっと、こっち来な」

「ヘーゼル、ここは何なの?」

「見ればわかるだろう、墓地だよ」

「誰かを弔っているの?」

 ヘーゼルは、セーレに対し旦那さん、コトネ、アーツ、そして旦那さんとの出来事を説明した。

「そう、大変だったの」

「旦那は神器の近くで眠っているよ」―――その言葉を聞いて、セーレはさらに暗くなる。

 そこからは見ていられない程、「不幸アピール」の連続であった。

 急に「しゃがみ込み」戦争への不平不満。自分で決めたことへの後悔。愚痴愚痴とヘーゼルを苛々させた。

 セーレの頬を掴み、「キャットファイト」のゴングを鳴らしてしまった。


◆◇◆◇


「ぜー、ぜー。ちょっと喋り過ぎたわ」

「病人は、ささっと病室に戻りな」

「うるさいわよ、聞かん坊」

 セーレとヘーゼルは、喧嘩越しになりながらも、お互いに思うことを隠さず、口に出し合った。

 誰も望んでいないことを勝手にする。「私は不幸だ」、ていうのは、誰にでも言える。結局、私から言わせれば「人生経験が少ない小娘」ってことだ。

 急にヘーゼルの胸に飛び込んできた。突然の出来事で驚いたが、セーレに胸を貸した。

        

◆◇◆◇


 ―――暫くして……。

 泣き終わった彼女に対しヘーゼルは、声を掛けた。

「私は、この左腕の呪いの影響で、悲しみの感情を禁じられている。ふん、お前の悲しみはわからん。だがな、セーレ! お前はまだ若い。必ずやり直せる。今は辛くても強い自分を目指しな」

「ありがとう。ヘーゼル。私はもう大丈夫だから」

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