表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀髪の居城  作者: X
36/52

三十五話 私の叫びを聞いて

 夜風が心地良く、過ごしやすい環境。

 星は見えるが、雲が多く月が見えない。

 セーレとヘーゼルが対面した。

 二人の声は透き通る程、はっきりと聞き取れる。

「よく、私の居場所がわかったな」

「いえ、私は、歩いて来ただけだから」

 下を向き、自身の無さそうな顔をした。その顔を見たヘーゼルは、こっちに来るように手招きをした。階段を降り、彼女がいる墓石へと近づいた。

「これは、誰のお墓なの?」

「私の娘とその旦那の墓だよ」

 墓石には二つの名前が刻まれていた。

 男性アーツと女性コトネ。ヘーゼルは、ブラシを手に持ちバケツの水を湿らせた。墓石に付いた汚れを落としていく。

「…アーツ、コトネ……。コトネさんは、ミーアちゃんのお母さん?」

「そうだね。私の娘にしては、優秀でね」

 一言で言えば、「できた娘だった」それがまさか、あっさり死亡したと嘆いていた。

 ヘーゼルの娘とその夫は、デモ隊参加中に銃撃され死亡。残された二歳の孫娘ミーアを彼女は女手ひとつで育てた。

「そうだったの」

 この墓は、クライが用意したもの。遺体は火葬され、墓石の下で眠っている。

 その一方、ヘーゼルの旦那さんの墓は、こことは別の場所。神器を隠してある場所に「埋葬されている」とのこと。

「ふん、争い事が憎くてね。体を鍛えまくってたら、ある日、能力に目覚めて、アーネスに見出された、てことさ」

「私達って、あの戦いで何か残せたのかな」

「どういう意味だ?」

 セーレは、急に膝を抱えて座り込んだ。

 何やら、私は「不幸です」と露骨にアピールしているように見えた。

「だって、そうでしょう。アーネスに賛同して戦争を始めたのに、私達は、負けたんだよ」

 沈黙しながら、話を聞いた。

「敗者なんて、何も残すことなんてできないんだよ」

「…」

「下手したら、自分で決めることもおかしいんじゃ……」

「セーレ!」

 ヘーゼルは、セーレの頬を左手で潰した。

 突然過ぎる不意打ちに驚いた。

「ぶ、ちょっと何すんのよ。手を離しなさいよ」

 馬鹿にしたように、手を離した。

「お前、確か私に対して豚だ、て言ってたな。たく、生意気な小娘が変なことを抜かすから、つい手が出ちまったよ」―――少し怒った顔で詰め寄った。

 ヘーゼルは、右手に持っていたブラシをバケツへ戻した。

「何だったかな、確か。うーん」

「何よ、何が言いたのよ!」

 イライラしていた。

「あ、そうだ。考えないで言われたことに従うのは、囚われた豚と一緒。貴方は豚ではない。卑しい魔女の聞かん坊、ヘーゼル。脳みそまで退化したのかクソババアだったか」

「それが、何よ!」

 さらに小馬鹿にした顔で、口を開いた。

「まさに、お前は豚だな」

「もん、何を言うのよ。私が豚だなんて、ありえない。こんなにスタイルもいいのに」

「あはは、自意識過剰もいいところだね」

 セーレは、ぶりぶりと怒り不機嫌な顔をした。ヘーゼルの「ぶっきらぼう」な物言いに負けじと暴言を吐いた。

「私、知ってるんだからね。あなたが、小さな男子を愛でるショタコン野郎だって」

「何を言うさね。ショタを愛することの何が悪い」

「もー、そんなこと言って。あなた自分が経営してる施設で保母さんもしてるでしょう」

「何で、そんなこと知ってるんだ」

「私の洗脳の力を甘く見ないでよね。洗脳対象が1人だったら、ちゃんと記憶読めるんだから」―――ひたすら暴言を吐いた。

 それも時間を忘れる程に。気がつけば、朝日が見えるまで暴言の言い合いは続いていた。


◆◇◆◇


「ぜー、ぜー。ちょっと喋り過ぎたわ」

「病人は、ささっと病室に戻りな」

「うるさいわよ、聞かん坊」

 急にセーレは、黙り顔を下に向けた。少し沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。

「どうして私だけ、こんな目に……」

「何言ってんだい、不幸な少女を気取る気かい」

「不幸なんて、気取る訳ないでしょう」

「どうかね、わからんぞ。生意気な小娘だからね」

「このクソババア!」

 少し黙って、想いをぶつけた。

「不幸なんかで片付けるな。お前は、弱かった。それだけのこと。弱いなら、強い自分を目指せばいい」

 セーレは悔しくなり、俯きながら、指先を振るわせた。

「私は、弱いかもしれない。けど、どいつも、こいつも、自分勝手なの。誰も頼んでないことを勝手にするの。意味がわからない」

「泣くのか。泣き虫セーレなのかい」

「うるさいわよ、ヘーゼル」

 前に勢いをつけて飛び出した。

 そして、彼女の胸を借りた。

「ごめんなさい。今だけだから…終わったら、元気になるから……」

「ふん、全く」

「くうっ…」

「たく、泣き虫な小娘だね」

 

 静かな墓地へ涕泣(ていきゅう)が響き渡った。

 胸の(ぬく)もりを感じる。

 瞳には何も映らない。

 頬にもあまたの雫が通過した。

 口を大きく開いて、喉が(かす)れる。

 手に込めた力が徐々に強く。

 髪は(なび)くが、風の音は聞こえない。

 

 (どうして、何も守れないの。自由に生きたかった、それが私の願い。なのに、誰もわかってくれない。それなら―――今だけは…私の叫びを聞いてよ)

 

 不合理さを戦争で知る2人。哀愁の想いを斟酌(しんしゃく)で支える。月の欠落を抱き寄せ、老いた心情で繋いだ。

お読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら広告下の星を入れていただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ